オーディオのこと 6(オーディオ機器の判断基準)

 オーディオ機器を新しく選ぶときには、フルトヴェングラーのレコードをいい音で聴けるかどうかということを基準にしてきた。オーディオに興味を持つ前からフルトヴェングラーの演奏が好きでレコードを蒐集していた。その後、CDプレーヤーを購入し、フルトヴェングラーのCDも買ったが、予想に反してレコードの方が音はよかった。しかし、アナログ関連機器は次々と市場から姿を消していたので、なくなる前にアナログシステムを揃えておこうと、最後まで残りそうな老舗メーカーのカートリッジ、トーンアーム、ターンテーブルを買った。また、アナログレコードの音を生かせるよう、いずれCDが主になると思って揃えていた国産の高級トランジスターアンプとスピーカーも真空管アンプと外国製スピーカーに替えていった。真空管アンプも当時、国産では2社ぐらいしかなく真空管もほとんど製造されていなかったが、そのメーカーは真空管のストックを十分持っているので安心して使用できた。

 その後、外国盤のレコードの音がいいことに気づき、フルトヴェングラーのレコードを全て外国盤で蒐集することに決めた。フルトヴェングラーの50年代から60年代前半ぐらいにプレスされたレコード(初期盤)はモノラル録音にも関わらず値段が高い。そちらにかなりの投資をしていたので、この時期はオーディオ機器の更新はほとんどしていない。

 10年ぐらいしてフルトヴェングラーコレクションにも目処が付いてきたこともあり、パワーアンプを1台追加してバイアンプにした。

 それから、カートリッジを外国製の老舗メーカーから国産の新しいメーカーに替えた。その老舗メーカーのカートリッジは「カートリッジの終着駅」のような評価を与えられていて私もこれ以上の物はないと思って長年使ってきた。しかし、新しい国産のカートリッジを聴いてみると老舗メーカーのカートリッジよりも、明らかに音質が向上していた。部品の精度が上がっていることが音質にはっきりと現れていると感じた。

 5年ほど前、25年ぐらい使い続けてきたトーレンスのレコードプレーヤーのモーターが壊れた。そこで老舗メーカーの名器といわれたトーンアームとターンテーブルを、現行の新しい製品に替えた。すると今まで何を聴いていたのだろうと思うぐらい音が良くなった。製品の精度、重厚な質感、スムーズな回転と質の高さがはっきりと音質の向上に反映されていた。

 次はスピーカーと思っていたが、同じ頃、クラシック愛好家の方から不要なCDを大量に譲ってもらうことになった。フルトヴェングラーの外国盤を蒐集するようになってからCDは聴いていなかったのでCDプレーヤーも処分していた。当初はSACDも聴けるという条件の中で一番安い10万円程度の製品にしようと思っていた。今はどんなCDプレーヤーが市場にあるのだろうと思ってオーディオ店に行くと3機種ぐらいしかなかった。一番製品数が多い価格帯は50万円前後だった。普及機を出しているメーカーの最高価格帯と、高級機を出しているメーカーの最低価格帯が丁度、この辺りで競合しているためだ。10万円ぐらいのCDプレーヤーを買っても、すぐにもっといい音で聴きたくなり数年で買替えることになれば、最初に買った10万円のCDプレーヤーが無駄になってしまう。それなら高くても最初から欲しいCDプレーヤーを買った方が結果的には安く上がる。それと長年お世話になった方から譲り受けたCDなので少しでもいい音で聴ききたいということから、結局50万円クラスのCDプレーヤーをローンで買った。

 ようやく次はスピーカーとなった。CDプレーヤーを買う前から次にどのようなスピーカーにしようかと考えていた。まず、バイアンプ駆動をしたいのでバイワイヤリング端子がある機種にしたい。またブックシェルフ型ではスピーカー台が必要になり、これが音質に大きな影響を与え、スピーカーで悩んだ上にスピーカー台でも悩むことはしたくなかったので、スピーカー台を必要としないフロア型にしたい、と考えていた。

 しかし、使用している真空管アンプは小出力なので最近の能率が低いスピーカーと組み合わせるには少し不安もある。そこで使用している真空管アンプメーカーの方によりよい組み合わせのスピーカーにはどのような条件がいいのか訊いてみた。すると1.高効率(能率が高いこと)、2.バスレフタイプ、3.アルニコマグネット、4.コーン紙は紙などの自然材、と回答していただいた。この条件に合うスピーカーというと海外の老舗メーカーの機種ぐらいしかないが、値段もそれなりに高い。機種を絞ってじっくりと購入計画を立てていた

 そんな時にオーディオ店から老舗メーカーのアルニコマグネットを使用した機種の中古品が入ったと連絡がきた。中古といっても2年半ぐらいしか使用していなかった。値段を聞くと使っていたスピーカーを下取りにすると何とか買えそうな金額だったので思い切って購入することにした。

 それまでのスピーカーとは、メーカーも振動板の口径も同じだが、マグネットがフェライトからアルニコに、ブックシェルフ型からフロア型に、エンクロージャーの容量が大きくなった、というそれぞれ違いがある。

 音を聴いてみると格の違いがはっきりとしていた。低音から高音に至るまで質感が上がって生の音に近くなった感じがする。オーディオシステムの基本はやはりスピーカーだと再認識した。いくらアンプが良くなってもスピーカーの能力以上の音は出ない。オーディオシステムはできればスピーカーを決めてから、それを鳴らせるアンプを考えるというのが基本だと思う。

しかし、昨今の、特に小型スピーカーは能率が低いモデルが多い。能率が低いスピーカーは駆動力が高いアンプが必要になるが、それはそのまま値段に跳ね返る。これではいい音を聴きたいが、大きなスピーカーが置けないので優秀な小型スピーカーで聴きたいというオーディオ初心者には大きな壁になる。そのため実際にはスピーカーを決めてからアンプというようにセオリー通りにはなかなか行かないようだ。

 スピーカーをグレードアップすると今度はカートリッジに役不足感が出てきた。その時使用していたカートリッジはそのメーカーの中で一番安い機種だった。本当は高い機種が欲しかったが、値段が高く買えなかった。しかし、その時の音が頭に残っていて、スピーカーを替えた今、またあの音が気になってきていた。もう少し安い機種が出ないかと思っていたところに、高い機種と安い機種の丁度中間の価格で新しいカートリッジが出た。メーカーの試聴会の時に高い機種と新しい機種を比較試聴させてもらったところ、音の傾向は少し違うが、質感などはそれほど変わらないように聞こえた。その後また試聴会があったときにも比較試聴させてもらったが、今度は値段通りの音の違いに聞こえた。どうも試聴会の会場では結論が出せないのでメーカーから借りて自宅で試聴させてもらうことにした。購入する側としては、それほど音が違わないことを期待しながら聴いたが、圧倒的に高い機種の方が音は良かった。新しい機種も高級機といってもいいぐらいの値段だが、高い方はその2倍の値段で音もその通りの違いがあった。観念して高い方を購入することにした。

 昨年、春頃、使用している真空管アンプメーカーの新製品であるフォノイコライザーアンプとプリアンプを試聴させてもらったところ、音が確実に良くなっていることを確認できた。使用していた真空管アンプも「アンプの終着駅」と思っていたが四半世紀が経ち、新しい製品もそれなりに進歩していた。

 音がいいのはわかっていたが、今まで使用していたアンプにも愛着があり、なかなか決めかねていたところ、9月に地震があった。その時、本当に命なんていつどうなるかわからないと悟り、生きている内にやり残すことがないようにと思いフォノアンプを買替えた。

 その頃、アナログのオーディオ雑誌でトーンアームの特集をしていた。アームにもいろいろなタイプがある。大きく分けて、後部のウェイトを前にずらすことで針圧をかけるスタティックバランス型かバネなどで針圧をかけるダイナミックバランス型か、ストレートかS字か、ショートかロングか、という3タイプがある。その時使用していたアームはスタティック型でS字でショートだった。その雑誌の記事ではスタティックよりもダイナミックの方が音はいいとされていた。それでより音がいいとされているアームにしてみようかと、ふと考えた。そこで再び、真空管アンプメーカーの方に相談したところ、アームのことならこの方にということでアームメーカーの方を紹介していただいた。持っていたアームよりも少しいいアームにしたいというだけだったのが次第に大げさな話になってきた。やや恐縮気味でありながら、アームについて訊ねるとスタティックがダイナミックかはあまり音には関係なく、ストレートとS字ではストレートの方が音が良く、ショートとロングならロングの方が音がいいとはっきりと答えていただいた。そのメーカーのアームはスタティックでS字だがカートリッジ交換がしやすいということからS字にしている、とのことだった。長さについてはショートもロングも用意されている。

 その後、試聴会でカートリッジメーカーの方ともアームについて話をさせていただいたところ、ダイナミック型は少し押さえつけたような音になるとも言われた。それからも真空管メーカーの方、アームメーカーの方といろいろと話をさせていただいて、そのメーカーのアームにすることに決め、当初考えていた予算をはるかにオーバーして、年末にアームを買替えた。

 早速取り替えてみると音の差は値段以上だった。それまでアナログ再生で気になっていた点がすっかりと解消された。全てはアームの性能せいあって使いこなしが悪かったわけではなかったのだと知った。それまで再生が難しい箇所での歪みをどうしたら無くせるかと悪戦苦闘してきたが、それが物の見事に無くなった。いままでいろいろと機種を更新してきたがこれほど音が良くなったのは初めてだった。

 そして、次の狙いはプリアンプにしているがまだ少し先になりそうだ。