さっぽろ劇場ジャーナル 第3号を読んで

 さっぽろ劇場ジャーナルは第1号から楽しみに読んでいる。読んでいてとても面白いのだけれど、いざ感想を書くとなると、細かすぎて億劫になり何も書かないでいた。それでも触れられるところの感想だけならと思いブログを書くことにした。

 

 第3号で取り上げている演奏会で私が聴いているのは、椿姫、札響定期1~3月、ふきのとうホールの2月の御喜美江のアコーディオンである。

 

 まず、椿姫。この椿姫を見る1ヶ月前にMETライブビューイングで予習を兼ねて椿姫を観た。ディアナ・ダムラウヴィオレッタとクイン・ケルシーのジェルモンが素晴らしかった。録音ではC・クライバー指揮の名盤がある。イレアーナ・コトルバスがヴィオレッタ、プラシド・ドミンゴがアルフレートを歌っている。長年のクラシックファンなら必ず聴いているといってもいい名盤。この二つの演奏を聴いてから本公演に臨んだ。

 前奏曲の冒頭から弦がはっきりと聴けるのはhitaruの響きの良さだと思う。乾杯の歌も無難に終わり、花から花への高音ESをどう歌うかと思ったが、下げていた。METライブでも下げていたので今は特に無理しないのかと思った。高音ESを聴くならクライバー盤のコトルバスが見事に歌っている。ただ、レコードで歪まずに再生するにはとても難しい箇所の一つ。話を戻すと、高音ESを歌わなかったことを、この時点ではただ無理をしなかったのだろうということぐらいにしか思っていなかった。

 第1幕には有名な歌があるので第2幕以降はなんとなく惰性になってしまうような嫌いもある。クライバー盤はコトルバスとドミンゴの見事な歌唱が、METライブではダムラウの演技力とクイン・ケルシーの歌唱が第2幕以降をそれぞれ引っ張っていた。第1幕の見せ場で高音ESを歌わなかったことでやや期待外れに思った人も少なくなかったかもしれないが、この日の公演は第2幕以降がとてもよかった。「幕が先へ進むにつれて、どんどん舞台に血が通っていった」のである。ヴィオレッタの内面が残り少ない命を犠牲にしながら次第に浄化されていくのに従って、アルフレートの嫉妬やジェルモンの冷淡さが際立っていく。

第3幕の「さらば、過ぎ去りし日」は絶品だった。これを聴いた後、ヴィオレッタがアルフレートやジェルモンといった世俗の垢に塗れた人たちに看取られて死ぬというようなラストシーンはあり得ないと感じたし、また第1幕の「花から花へ」で高音ESは歌わなくて正解だと思った。あそこで見せ場を作らなかったからこそ第2幕以降が充実した演奏になったと思う。予感通りヴィオレッタは浄化されて天に召されるというラストシーンになった。

椿の花は花びらが一枚一枚落ちて枯れていくのではなく、花が丸ごと下に落ちる。つまり美しさの絶頂で死を迎える。この日の公演はまさしく「椿姫」そのものだった。録音の名盤ともMETのライブとも違う素晴らしい演奏が、ここ札幌で北海道二期会と札響のコンビで聴けるというのは道民としてもっと応援したいと感じたし、1日しかなかったのはもったいないとも思った。

 

 続いて札響定期だが、2月の記事の中に「日本のオーケストラが世界で一番上手いのはもう多くのクラシックファンが気づいていることと思う。」とある。確かに最近は外国の有名なオーケストラを聴いても以前ほど感心することがなくなった。以前はそんなことはなかった。1年に数回程度しか札幌では聴けないけど、外国のオーケストラを聴く度に札響はまだまだだと思うこと頻りだった。思い出すだけでもキタエンコ指揮モスクワ・フィルのチャイコフスキー第5番、チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルの展覧会の絵、スイス・ロマンドとクレーメルシベリウスVn協奏曲とタンホイザー序曲、フェドセーエフ指揮モスクワ放送響のシェヘラザード、サヴァリッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団の第九(これらは大体80年から90年頃)などを聴いた。この頃までは外国のオーケストラを聴く度に札響はまだまだだなと感じていた。そして、定期会員も辞め、コンサートからも次第に遠ざかっていた。

 95年にウィーンに行ったときムジークフェラインザールでメータ指揮ウィーン・フィルを聴いた。前半のモーツァルトはそれほどでもなかったが、後半のドビュッシー夜想曲ラヴェルのダフニスとクロエ第2組曲は凄かった。オーケストラが一つの楽器のように鳴ったのを聴いたのはこれが初めてだった。

 04年ラトル指揮ベルリン・フィルでもダフニスとクロエ第2組曲がプログラムにあった。音量の大きさは流石だったけど一体感ではウィーンで聴いた演奏ほどではないかなと感じた。

 しかし、08年ムーティ指揮ウィーン・フィルストラヴィンスキーの妖精の口づけやチャイコフスキー交響曲第5番を聴いたが、やや期待外れだった記憶がある。ウィーン・フィルは95年に聴いた時の再現を期待したが、残念ながらそのようには聞こえなかった。

 11年の尾高忠明指揮による札響ベートーヴェンツィクルスから札響定期を十数年ぶりに聴き始め、翌年定期会員に復帰し、札響もうまくなったなと半ば感心しながら聴いていた。

12年11月にゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団でホルベルク組曲ブラームス交響曲第2番、幻想交響曲を聴いている。対向配置で向かって左隅にいたコントラバス若い女性奏者が弾いていないとき、ボディにもたれ掛かっていたことぐらいしか記憶にない。当時書いたものを読むと「細かいところがぎこちなく今ひとつ盛り上がりに欠けた演奏」と書いていた。地元新聞の批評では「普段聴けないような演奏が聴けた」と書かれていたようだ。12月にはエリシュカ指揮で札響の第九を聴いているが、「ゲルギエフのときより聴き終えた後の満足感はあった」と書いている。

 13年にはエサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団ベートーヴェン交響曲第7番と春の祭典を聴いている。この時の印象はとてもよかったという記憶が残っている。当時書いたものを読むと、交響曲第7番は「表現力が豊かでリズムが的確」、春の祭典は「ピアニッシモは遠くへ消え入るように繊細、フォルテッシモは音が割れんばかりの豪快さで、リズムも的確で音の厚みもあった」と書いている。しかし、地元の新聞は「『春の祭典はいままで評者が聴いた中では最高の演奏だったが、第7番は抑揚を付けすぎて後期ロマン派の曲のようだ』書いているのには呆れた」というようなことを書いている。

 もう一つ外国のオーケストラというと一昨年、エリシュカ指揮札響のフェアウェルコンサートの後、ブロムシュテット指揮ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団とロシア交響楽団を聴いた。どちらも定評があるオーケストラでその時の演奏もそれなりに良かったと思っている。しかし、その前のエリシュカと札響の演奏の方がずっと聴き応えがあった。

果たして札響は本当に外国の有名なオーケストラと肩を並べるようになったのだろうか。たまたま札幌に来たときには時差ボケなどで調子が悪かっただけではないのだろうか。そんな漠然とした疑問を持ちながら昨年12月のハーディング指揮パリ管弦楽団を聴いた。チラシにはベルリン・フィルウィーン・フィルに並ぶ世界三大オーケストラの一つとある。きっと世界との差を聴かせてくれるものと期待していた。

 しかしながら、ベートーヴェンVn協奏曲のファウストはとても良かったけど交響曲第6番「田園」は拍子抜けした感じだった。田園は2月にポンマー指揮の札響名曲シリーズで聴いているがそちらの方が圧倒的によかった。チケット代をかなり損した気分になった。

  そして札響定期である。バーメルト指揮の1月定期は2回聴いた。1日目の年間指定席は2階席だったが、2日目は、モーツァルト「セレナータ・ノットゥルナ」とマルタンの「管楽器とティンパニィ、打楽器、弦楽のための協奏曲」のソリストの演奏を近くで聴きたかったので、1階席の前の方で聴いた。札響の首席奏者はこんなにもうまい人が揃っていたのかと驚いた。ブラームスの2番もなんとなく2日目の方が熟れていていいのかなあと思っていたら、第3号に2日目の方がよかったと書かれていたので納得。

 2月定期は広上淳一指揮でオール・ラヴェルプログラム。オール・ラヴェルとは少し陰鬱な演奏会になりそうだなと少し心配していたが、明るいラヴェルだったことが反って良かった。「明るいラヴェル」にはピアノがヤマハで高音が映える音色が一役買っていたようにも思う。

 そして、3月札響定期。前半の2曲は初めて聴く曲にも関わらず、楽しんで聴けた。春の祭典は6年前のサロネン指揮フィルハーモニア以来で、札響でも一度聴いているような気がするが、どうにかこうにか演奏したというような感じの記憶がある。

 春の祭典はどれを買ったらいいかわからないぐらいあるたくさん録音がある。もちろん全部聴いたわけではないけど私の愛聴盤はC・デイヴィスACOの演奏である。カラヤンアンセルメブーレーズもあるが一番聴くのはデイヴィス盤である。持っている盤の中ではバーバリズムというのか原初的な雰囲気がある。この日のウルバンスキと札響の演奏はそういうものを削ぎ落とした洗練された演奏に感じた。

 

ふきのとうホールでは2月の御喜美江のアコーディオンを聴いた。アコーディオンの生の音を聴くとてもいい機会だった。弦楽四重奏とピアノが加わったブランデンブルク協奏曲第3番を楽しみにしていたのだけれど、弦の音がギーギーとしていてとても聴いていられなかった。それ以来ふきのとうホールは敬遠気味になっている。

 

田部京子の特集が3ページもあるのでどこかにCDがあったはずと探したところ、ベートーヴェンピアノ協奏曲第4番と第5番、シューベルトピアノソナタ第19番と4つの即興曲の2枚があった。それとベートーヴェンピアノソナタ第30,31,32番を買ってきた。それについてはまたの機会にしたい。