フェスタサマーミューザ川崎  2019

 令和元年(2019年)7月29,30日と「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2019」を聴きに神奈川県川崎市に行ってきた。ホテルのチェックインが午後3時なのでそれからシャワーを浴びて着替えて、リハーサルが始まる午後3時30分ギリギリでミューザ川崎に着いた。入ってすぐのところにエスカレーターがあってそこを上がると2-R1の入り口があり、そこから入って2CAの向かって右側の席に座った。本当はそこから1階席に行きたかったのだけれど、席が空いていないようで、時間もなかったのでとりあえずそこに座った。ミューザ川崎のホームページには「見え方聴こえ方ガイド(以下ガイド)」が掲載されていて、そこに「2CA7列目」という場所があるがそこよりも一列前ぐらいだった。

 その席は座る場所が左側に傾いていて、あまり座り心地は良くないのだけれど、後で係員の方に聴いたら、音を良くするため、と答えてくれた。

 指揮はアラン・ギルバート、演奏は東京都交響楽団、曲目はヴォルフ:イタリア風セレナーデレスピーギリュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲、後半はレスピーギ交響詩「ローマの噴水」と「ローマの松」だった。

 リハーサル前にすでに楽団員の方がそれぞれ音を出していたが、まず驚いたのは楽器の音色が違うこと。今まであまり聴いたことがない音だと思いながらリハーサルの音を聴いていた。先ほどの「ガイド」の2CA7列目の欄に「2CAブロックはどの席であっても『聴く』『見る』の双方を、最高のバランスで満足いただける席」と書かれている。「見る」は確かに近くていいと思うけど音は見た目と違って聞こえる。さらにじっくり聴いていると、弦楽器の弦を弓で擦っている直接音が聞こえず、間接音が増幅されて聞こえてくる感じだった。音はきれいに広がりピアニッシモもステージに近いこともあり、比較的はっきりと聞こえてくる。コントラバスもボワーンと広がって聞こえる。よく言えばきれいな響きに包まれた音、悪く言うと実体感のない音とも言える。とにかく弦、管、打楽器でも間接音が広がりを持って包み込むように響いてくる。これがリハーサル時の音の印象だった。

 

 本番は2CB席だった。ミューザ川崎は1階席が狭く、2階がAとBに分かれていて2CBは3階席のような感じだがKitaraの2CBの前方ぐらいの距離感になる。正面で聴くとリハーサルの席では聞こえなかった弦を弓で擦る直接音が少し聞こえるようになった。それは管でも同じだった。「ガイド」には「ステージ全体がひと目でわかる席であり、正面であるため音のバランスも申し分なく、繊細な音の表情もしっかりと伝わってきます。座ってみると『意外に近い』ことを実感していただけるでしょう。」と書かれている。

 ヴォルフのヴィオラソロもはっきりと聞こえ、弦楽器もやわらかく包み込むような響きがきれいだった。ローマの噴水ではピアニッシモがとてもきれいだった。

 ローマの松はピアニッシモからフォルテッシモまで大音量になるが、ここまで音量が大きくなると間接音のような音が反って裏目に出るような気がした。ジャニコロの松でも音は大きいのだけれど実体感のない間接音の集合体という感じになり、生々しさがなく、ベールをかぶせたような音に聞こえた。音が大きく視覚的に近い割には音が前に出てこない。音の蜃気楼とでもいうのか、演奏者は見えているのに、そこから音が聞こえてくる感じではなく、オーケストラの上方に無指向性のスピーカーがあってそこから音が出ている感じがした。残念なのは音が大きくなったときに「うるささ」がつきまとうことだった。この「うるささ」は終演後の拍手のときもあった。盛大な拍手だったが耳元で拍手されているようで思わず耳を塞ぎたくなったぐらいだ。

 

 翌日は川瀬賢太郎指揮による神奈川フィルハーモニーの公演だった。

 リハーサルには時間的に余裕を持って臨んだ。ツイッターで4階の音も結構いいというツイートを読み、失われた直接音を求めて4C席に行った。リハーサル本番前で楽団員が楽器の調整をするために音を出している。すると2階では聞こえなかったティンパニィや小太鼓のパンとかタンという直接音がはっきりと聞こえた。木管楽器もそうだった。視覚的には遠いが音は直接音が割とはっきりと聞こえる。それから4階席を周り、3C席にも行ったが、また4C席に戻ってリハーサルを聴いた。昨日とは違い、音はすこし遠いけれども、いつも聴いている楽器の音色で聴ける。座席によってこんなに音色が変わるホールというのは初めての経験だった。

 「ガイド」には4C席について「ステージだけでなく、ホール全体の小宇宙を体験するような4階席。ステージからの直接音とホール全ての残響が集まってくるところであり、『ホールが鳴っている』という感覚を味わえます。」とある。ようやく直接音が聴けたと思った。係員の方に、座席によって随分音が違うんですね、と訊ねたら、いろいろな席で聴いて下さい、と答えてくれた。その表情にはこのホールの音に対する自信が漲っているように感じた。

 

 本公演では2CA席だった。曲目はボッケリーニ:マドリードの夜警隊の行進、ロドリーゴ:アランフェス協奏曲、後半はシャブリエ狂詩曲「スペイン」、ファリャ「三角帽子」、アンコールはカルメン前奏曲だった。

 「ガイド」では2CA1列目について「ステージの距離はとても近く、間近でオーケストラを見渡せる特等席です。演奏している楽員の表示用まで観察できるほどであり、音楽は細部まですべてが聴き取れるはずです。」とある。ここでは昨日までと違って直接音が聞こえたが、奥の楽器は少し遠く、コントラバスやチェロも聴き取りづらかった。これなら4C席の方が音のバランスが良かったかもしれないとも思ったが、視覚的にとても近く、またヴァイオリンや管楽器の直接音がはっきりと聞こえ迫力もある。視覚的な近さはミューザならではだろう。Kitaraでは1階席の上方になる。

 また、指揮者の川瀬さんは指揮台での動きが激しいので見ていて飽きない。11月に札響を振るのでファンが増えるかもしれない。神奈川フィルも弦が爽やかで聞きやすい。いつかKitaraでも聴いてみたいと思った。

 いただけなかったのはアランフェス協奏曲。やはりクラシックギターで聴きたかった。

 2CA席で聴いた後、昨日2CBで聴いた「失われた直接音」はもしかしたら反対側のP席や3階バルコニー席に行っているのかもしれない。もし次に聴く機会があったら1階席と共にそちらの方でも聴いてみたい。

 その他音響以外のことでは、席の幅が狭い。私の場合はKitaraでは席に座って両腕が肘掛けの間に入り、隣の人と肘掛けを奪い合うことはない。しかし、ミューザでは腕が入り切らないので前に置くことになりやや窮屈になる。また。Kitaraでは演奏中座席の下に鞄が置けるが、ミューザでは座席の下に通気口がある席では何も置けないと思った方がいい。通気口がない席でも床との高さがないので大きい鞄は置けない。Kitaraで聴くときにいつも持って行く鞄は入らないと思った。

 

 機会があればまた違う席で聴いてみたいし、違うホールでも聴いてみたい。