オーディオのこと 11(オーディオショウのこと)

 今年も10月11、12、13日に札幌コンベンションセンターで北海道オーディオショウが開催される。北海道では最大のオーディオショウだ。

 私が初めてオーディオショウに行ったのは30年ぐらい前になる。場所は札幌駅北口から東に行ったテイセンホールだったが、今はもう取り壊されてタワーマンションが建っている。まだその頃は国内の大手家電メーカーがオーディオ機器を製作していたので、機器もたくさんあったしアナログ関連の製品もまだあった。その頃のオーディオショウでは国産メーカーが主流で海外の高級な製品はほとんど聴くことができなかった。

 しかし、それから間もなくバブルが崩壊し、オーレックス(東芝)、ローディー(日立)、ダイヤトーン(三菱)、テクニクスパナソニック)、ソニー、NECといった大手家電メーカーは相次いでオーディオ市場から撤退していった。また、サンスイ、パイオニア、ビクター、ケンウッド(トリオ)、ヤマハという名の知られたオーディオメーカーも90年代に次々と撤退していった。

 国内メーカーで残ったのは、昔から真空管アンプなどで定評があるラックスマン、トリオから独立したアキュフェーズ、カセットやテープレコーダーで定評があるティアックの高級ブランドとして起ち上がったエソテリック、普及機を主力にしていたデノン(以前はデンオン)と高級機から普及機にシフトしたマランツぐらいだった。

 これらの残った国産メーカーも主力はCDプレーヤーとアンプが中心で、スピーカーはダイヤトーンが撤退してから国産スピーカーの種類は激減していった。代わりに入ってきたのが海外ブランドのスピーカーだった。以前は海外製品というとJBL、タンノイといった高級品に限られていたが、普及価格帯のスピーカーも入ってくるようになった。かつては独特の癖があるような言われ方をしていた海外製のスピーカーも技術的に進化し音も造りも大変良くなった。

 大手家電メーカーが撤退して札幌のサービスセンターも次々と閉鎖されていくと、北海道オーディオショウの主体も地元の販売店が主催するオーディオショウになっていった。開催場所は札幌都心部のホテルなどだったが、ホテルの会議室というのは絨毯が敷き詰められていたりしてオーディオを試聴する環境としては適当な場所ではなく、規模もあまり大きくなかったのでなかなか聴きたい機種を聴くことができなかった。

 平成27年(2015年)、北海道オーディオショウはニトリ文化ホール横のホテルさっぽろ芸文館で開催されることになった。ここはホテルであるが、オーディオ機器の試聴会場として比較的試聴しやすく、参加するメーカーや輸入代理店も多くなった。しかし、ここもニトリ文化ホールと共に平成30年(2018年)8月に閉館となった。そのため昨年からは東札幌にある札幌コンベンションセンターで開催され、会期も3日間になった。昨年は開催が少し早く9月末だった。北海道胆振東部地震からまだ数週間後で、レコード試聴中に余震があり、針飛があるなどなんとなく重苦しい雰囲気もあった。今年はもう少しすっきりした感じで試聴できるのではと思っている。

 

 撤退していた国内の大手家電メーカーの中に新たに復帰するメーカーや、かつて市場から姿を消していたレコードや真空管アンプも復活してくるなど国内には新しい動きが少しずつ出てきた。箱形ばかりだったスピーカーのデザインも今はいろいろな形のものがたくさん出てきた。そんなこともありオーディオ市場は大分様変わりしてきた。そこでオーディオ機器の分野毎にどうなっているかを書いてみたい。

 

 まずスピーカーだが、スピーカーというとイギリス製品が多い。老舗のタンノイとBBC系モニターと称されるスペンドール、ハーベス、ロジャースは健在だし、KEFも普及機から高級機までラインアップを揃えている。B&Wはスピーカーの標準とも言える存在となっている。B&Wから派生したメーカーにヴィヴィッドオーディオがある。南アフリカのメーカーだが、樹脂製のエンクロージャーに独特の形状をもたせ定在波を打ち消すという構造になっている。

 次にスピーカーで注目なのはイタリアのソナスファベール。フランコ・セルブリンという方が卓越した木工技術のエンクロージャーにより優美な音を奏でるスピーカーを作成して一気に話題になった。フランコ・セルブリンは後に自分と同じ名前のメーカーを立ち上げたが、間もなく亡くなってしまった。

 アメリカのスピーカーはJBLが有名で今も健在。その他に注目のメーカーとしてはマジコとピエガがある。どちらも金属をエンクロージャーに用いているのが特徴で余計な共振がない素直な音がする。

ドイツのスピーカーはアヴァンギャルドとエラックがある。アヴァンギャルドは巨大なホーンを持ち能率が高くインピーダンスも高いという先祖返りしたようなスピーカー。エソテリックが試聴会でよく使用するようになり聴く機会も多くなった。生々しい音がする。

 エラックはアナログ時代にはカートリッジを作っていた。スピーカーが日本に輸入されたのは20年ぐらい前からだ。エラックも金属製のエンクロージャーで癖のない伸びのある音を出す。

 他にも近年ラックスマンがフランスのフォーカルを取り扱うようになってオーディオ店や試聴会で聴く機会が増えた。蒸留水のような濁りのない音という印象。後はデンマークのダリがあり、こちらはD&M(デノン&マランツ)が輸入していてオーディオ店でも試聴会でもよく聴くことができる。ウッドファイバーコーンという独特のユニットで柔らかくききやすい音という印象がある。

 国内ではTAD、ヤマハ、クリプトン、キソアコースティック、フォステックス、ソニー

などがある。TADはパイオニアのプロ機器部門で、それが一般機器も出すようになった。一般向けといっても百万単位の製品ばかりの高級機メーカーである。

 ヤマハは3年前にNS-5000というスピーカーを出してオーディオ市場に復帰した。ヤマハには70年代にNS-1000Mという名器があった。30㎝のコーンウーファーと中高域にはベリリウムのドーム型振動板を組み合わせた3ウェイスピーカーで後の国産スピーカーの標準になった。昨今のスピーカーで3ウェイというのは珍しくJBLにあるぐらいだろう。それを同じようなデザインで振動板の素材を統一させ吸音材を使用しないという技術的にもヤマハらしい製品として出した。それから昨年はセパレートアンプ、今年はレコードプレーヤーを出す。デザインはかつての名器と同じでも中身はかなり違っている。

 クリプトンはビクターのオーディオ部門にいた方かだが起ち上げた新しいメーカーだ。小型スピーカーを中心に出している。ビクターはカートリッジ、レコードプレーヤー、セパレートアンプ、スピーカーを作っていたのでそれぞれの技術者が今は他のメーカーで活躍している。

 キソアコースティックは岐阜県のメーカーで楽器のような美しい響きの小型スピーカーを出している。匠の技で一枚板をカーブさせて独特の響きを産んでいる。

 フォステックスは主に自作用のスピーカーユニットを開発しているメーカーで時々、スピーカーも出している。最近、マグネットにアルニコ(アルミ、ニッケル、コバルトの合金)を使用したスピーカーユニットを出したのでまた新しいスピーカーが出てくることを期待したい。 

 ソニーは長らくオーディオ市場から撤退していたが、なぜかスピーカーはカタログに載っている。最近またオーディオ市場に復帰する気配を見せていて、北海道オーディオショウにも出店する。

 

 海外製のアンプではマッキントッシュとマークレビンソンが有名。マッキントッシュは大出力の高級セパレートアンプ、プリメインアンプ、真空管アンプも出している。マークレビンソンは高級セパレートアンプで定評があるが、最近プリメインアンプを他メーカーと競合する価格帯に出してきたのでどのような音なのか楽しみだ。

 その他にコンステレーションオーディオとかCHプレシションという超高級アンプもオーディオショウで聴くことができる。

 国産のアンプメーカーはアキュフェーズ、ラックスマン、エソテリックが盤石。この辺りの製品になると3年から5年ぐらいで新製品にモデルチェンジをする。アキュフェーズは中級機のアンプを新製品として出した。ラックスマンは高級真空管プリアンプ、エソテリックは高級プリメインアンプが今回のオーディオショウの注目だろう。また、普及機を主に出しているデノンが高級プリメインアンプを出してきたのでこれも注目。

 元々パイオニアにいた方々が新たに起ち上げたメーカーがスペック。今までは中高級アンプを主に出していたが、今回、高級パワーアンプを出してきた。オーディオショウの目玉となるだろう。

 60年代まではアンプといえば真空管だった。海外製のマッキントッシュマランツ、クォードなどが有名で今でもヴィンテージものとして中古専門店で売られている。70年代に入りトランジスターアンプが真空管では出ないような大パワーのアンプを続々と出してきた。真空管アンプは市場からほとんどなくなっていったが、20年ぐらい前から海外製を中心に真空管アンプが出て来るようになった。海外製ではオクターブ、マッキントッシュ、EARが真空管アンプを出しているし、国産ではラックスの他、トライオード、CSポート、フェーズメーション、エアータイト、ウエスギなどのメーカーが真空管アンプを出している。

 トライオードは比較的値段が安い真空管アンプということから始まったが、今回は高級パワーアンプの新製品を出してきた。

 CSポートは富山県で新たに起ち上がったメーカーで、アナログプレーヤーと真空管アンプを出している。今回は新しい真空管パワーアンプが聴ける。

フェーズメーションはもともと測定器を作っていた会社がオーディオに参入してきたメーカーで、最初はカートリッジだった。数年前から高級真空管アンプを市場に出すようになった。

 

 海外製のCDプレーヤーは数が少ない。国内メーカーと競合しそうなのはマッキントッシュぐらいで、後はかなり高額な機種があることはある。というのもSACDもかけられるCDのピックアップは日本でしか作っていないからだ。かつてはフィリップスがあったが撤退して久しい。CD、SACDの他に最近はMQA-CDというのも出てきた。CDにハイレゾ音源を収録したもので、CDの高規格化だがそれに対応するプレーヤーが新たに必要となるのでどれだけ普及するかは未知数だ。

 そんなことからCDプレーヤーはほとんどが国産で、アキュフェーズ、ラックスマン、エソテリック、デノン、マランツヤマハが出している。最近、パイオニアがCDプレーヤーを出した。アキュフェーズ、エソテリック、デノンは一体型の高級機の新製品を出し、かなり面白くなっている。

 

 今は世界的にアナログブームなので海外製も国産もアナログ関連製品が増えてきた。

 入り口からだとカートリッジの老舗ブランドであるデンマークのオルトフォン。普及機から超高級機までラインナップを揃えていて健在だ。SPUもカタログから消えたことがない。今回はダイヤモンドカンチレバーの100万円というカートリッジが注目だろう。海外製の老舗というとEMTが最近ラインナップを揃えてきた。オーディオマニアには注目だろう。

日本製ではデノン、オーディオテクニカといった老舗ブランドの他、フェーズメーション、プラタナス、トップウィング、マイソニックラボ、イケダなど、新しいメーカーもたくさん出てきた。

 カートリッジは磁石とコイルに針先の振動が加わったときに発電するという仕組みだが、カンチレバーにコイルを付けたMC(ムービングコイル)型と、あるいは磁石を付けたMM(ムービングマグネット)型という方式に分かれる。このMC型を開発したのがオルトフォンだった。オルトフォンはその特許を公開したので世界中のメーカーがオルトフォンタイプのカートリッジを作った。それに引き換えMM型を開発したアメリカのシュアというメーカーは特許を独占したのでMM型はあまり普及しなかった。シュアは近年カートリッジ生産から撤退した。

 オーディオ試聴会というとソースはCDばかりだったが、昨年からほとんどのメーカーがレコードをかけるようになった。

 

 レコードプレーヤーではリン、アコースティックソリッド、プロジェクト、ノッティンガム、Drファイキャルトアナログ、オラクル、EAT、マークレビンソン、ロクサンといったメーカーが出している。かつての老舗であるトーレンスは輸入されなくなった。試聴会でも必ずと言っていいぐらいレコードがかかるようになった。レコードからCDになるときに日本のメーカーはいち早くアナログから撤退したので、レコードプレーヤーというと海外製の高級品しかなかった時代がしばらくあった。

 数年前にラックスが新しくアナログプレーヤーを市場に出した。昨年はテクニクスがかつての名器SP-10の新製品を出して話題になった。今年はヤマハがGT-2000の再来となる新製品を発売する。ティアックが5万円台でフォノイコライザーとUSB端子付きのレコードプレーヤーを出した。これから新たにレコードを聴きたいという方には狙い目だろう。

 レコードプレーヤーにはテクダスという国産メーカーがある。以前マイクロというレコードプレーヤーのメーカーがあり、普及機から超弩級ターンテーブルを出していたが、アナログが冬の時代を迎え消滅していった。そこの技術者が新たに起ち上げたメーカーだ。マイクロのプレーヤーはターンテーブルとモーターが別筐体になっていてその間に糸を廻してターンテーブルを回すというしくみだった。ベースも全て金属製なので床からの振動を拾いやすくハウリングが起きやすかった。そのためマイクロでは空気圧でレコードをターンテーブルに吸着し、ターンテーブルとベースの間にわずかに空気を送り込んで浮かせるという手法でハウリングを回避していた。しかし、機構が複雑で故障も多かったらしい。それが今は製品の精度が上がり使いやすい製品になってきた。

 

 トーンアームはアナログからCD時代になったときに真っ先に市場から消えていった製品だった。その中でもSMEだけは残り続けていた。オルトフォンもアームを出しているが中身はJELCO(市川宝石株式会社)という日本製である。海外製トーンアームの主流はストレートアームかリニアトラッキングアームである。リニアトラッキングアームというのは、カッティングマシンと同じようにレコードの半径に常に直角になるように動くアームである。構造が複雑になるので値段も高い。クラウディオ、リードはリニアトラッキングアーム、グラハム、リンはストレートアームである。

 日本製ではサエクが久々にアームの新製品を出した。グランツは10年ぐらい前に復帰し、FRから派生したイケダも新製品を出してトーンアームの市場も活気づいてきた。

 

 アクセサリーではアコースティックリバイブ、タオック、ゾノトーン、フルテック、オヤイデなどがある。アクセサリーというのはケーブル類、電源コンセント、インシュレーター、オーディオボード、ラックなどのことである。今回出展するアコースティックリバイブは電源周り、ケーブルを始めとして様々な製品を出している。値段は高いが効果もそれなりにある。

タオックはアイシン高丘という自動車のブレーキパッドを作っているメーカーだ。鋳鉄は叩くと「カーン」という甲高い音がするが、これに黒鉛を混ぜると「コツ」という低い音しかしなくなるそうだ。それで今の車はブレーキを強く踏んでも「キーッ」という音がほとんどしなくなった。メーカーではカーボン鋳鉄と呼んでいるが、その鳴かない金属をオーディオ機器の下にインシュレーターとして使用すると効果があるということでラック、インシュレーター、オーディオボードを出している。

 

 試聴会では、現在自宅で使用している音と比較するというよりは、もし自分がオーディオ機器を持っていなくて、なおかつオーディオに使えるお金が数千万円ぐらいあると仮定して聴くように心がけている。自分が使っている機器との比較だとどうしても聴き方が偏ってしまうからだ。

 それとたくさんのメーカーが出展しているので、聴きたい分野を決めてブースを回るようにしている。今年は、目玉であるTADの新しいスピーカーとスペックのパワーアンプ。それと真空管アンプとプリメインアンプの新製品を中心に回ろうと思っている。