オーディオのこと 12(レコード洗浄機)

 9月に超音波式のレコード洗浄機を購入し、1ヶ月半ぐらいかけて全てのレコードを洗浄し終えた。LP盤(33回転の10インチと12インチ)、EP盤(45回転の7インチ)、SP盤(78回転の10インチと12インチ)で全て併せると二千枚ぐらいあるだろうか。

 購入したレコード洗浄機は7インチ1枚、10インチ1枚、12インチ2枚の計4枚を同時に洗浄することができる。SP盤は後回しにして、まずはEP盤とLP盤から洗浄していった。

使用するのは6リットルの水道水。レコードの汚れ具合にもよるがそれで30~50枚ぐらい洗浄できると説明書には書かれている。専用のアルコール液を使用する方法も書かれているが、それは使わなかった。使用時間は5分。スイッチを入れると超音波が発するジーという音とともにレコードが回転し始める。タイマーが付いていて5分経つと自動的に停止する。停止したらレコードを取り出し、水滴をティッシュで拭いて付属のレコードスタンドに立てかけて乾かすと終了となる。

 手持ちのレコードは中古盤が多く、購入してから何十年も経っている。そのため内袋や外袋がかなり汚れていた。結局、今回のレコード洗浄に併せて全ての内袋、外袋を新品に換えることにした。レコードの内袋、外袋はレコード店で売られていてそれほど高いものでもない。それらの通常のものより少し高いが、ナガオカというメーカーから静電気を防ぐ内袋やのり代のない外袋が発売されていた。のり代のない外袋は棚に収容したときにレコードがすっきりと収まりジャケットの背表紙が見やすくレコードを探しやすいので、1枚ものの外袋はこのナガオカ製を使用することにした。予想外の出費になったが、レコードが探しやすいのはかなりメリットになる。しかし、欠点もあり出し入れするときに引っかかると裂けやすかった。

 

 10インチLP盤は十数枚程度、7インチEP盤も200枚ぐらいで終わったが、12インチLP盤が1500枚ぐらいはあった。

 洗浄後に聴いてみて直ぐにわかるのは高域が伸びていること。クラシック音楽のレコード再生で一番難しいのはオーケストラのヴァイオリン群の高域の音をきれいに出すことだと思っている。どんなに打楽器に迫力があり、ピアノが明晰で、張りがある声が再生されても、オーケストラのヴァイオリンの音が汚いということが今までたくさんあった。これはオーディオ試聴会などでかなりの高額機器を聴いたときでも同じだった。調整することである程度は良くなるが、高価なオーディオ機器でもヴァイオリンの高域をきれいな音で聴けることはあまりない。それがレコードを超音波で洗浄するとものの見事に再生できるようになった。

 

 EP盤とLP盤の洗浄が終わり、いよいよSP盤の洗浄に移った。「いよいよ」というのは汚れ度合いがEP盤やLP盤とは比べものにならないからだ。実際に10枚ぐらい洗浄したところで、透明な水道水がやや変色し、砂の小さな塊があちこちに出来ていた。EP盤やLP盤でも洗浄前と洗浄後では音が変化しているのでそれなりに埃が落ちて水道水が濁っていたと思うが、水が変色したり、目に見えるような塊が見えたりするようなことはなかった。SP盤は、正確には数えていないが、80枚ぐらいだろう。汚れがひどいので10枚ぐらいで水を取り替えなくてはならなかった。一通り終わったところでもう一度洗浄したところ再び同じように黒い塊があちこちに出てくるので1枚につき2回ずつ洗浄することにした。結局、80枚ぐらいのSP盤を3回ずつ洗浄したので随分と時間がかかった。洗浄してみると、今まではザーッという擦れ音の中から音楽が聞こえてくる感じだったのが、ほとんど擦れ音がなくなっていた。LP盤と同じように高域が伸び、解像度が高くなったことによりSP盤にもここまで音が入っていたのかと判るようになった。

 

 洗浄すると久しぶりにSP盤を聴いてみたくなり、SP針をネットで検索するとハイカーボン鋳鉄製の新製品が出ていた。普通の鉄針は1面が演奏し終わる毎に新しい針に取り替えなくてはならないが、このハイカーボン鋳鉄製だと8~10面の演奏が可能だという。

 ハイカーボン鋳鉄というのは自動車のブレーキパッドなどに使われている素材である。普通の鉄板は叩くとカンカンと響く音がするが、鉄に黒鉛を混ぜると叩いてもコツコツという低い音しかしなくなる。それをブレーキパッドに使用しているのである。以前の車は急ブレーキをかけるとキーッというけたたましい音がしていたが、今の車はそんな音はしない。それはこのハイカーボン鋳鉄をブレーキパッドに使用するようになったからだ。この鳴かない性質を利用してハイカーボン鋳鉄を製造しているメーカーはTAOCというオーディオブランドを起ち上げ、オーディオ用のインシュレーター、ボード、ラックなども出している。この新しいSP針を取り寄せて早速聴いてみたところ高域も伸びて解像度も高くなった。それに1本で何枚も聴けるので針を交換する煩わしさも減った。

 

 レコードの洗浄は外盤中古レコードを買うようになった20年ぐらい前から特に気にするようになった。最初は消毒用のアルコールを付けたりしたが、その内、汚れにもカビとか油汚れもあると考え、カビ取り剤や中性洗剤で水洗いした後、レコード専用のクリーニング液を使用していた。それが乾いた後に一度、針を通してゴミを穿り出してようやくレコード洗浄が完了するという具合だった。これだと5枚ぐらい洗浄しようと思うと2日がかりになる。それでもまだ埃が残っているような感じだった。

7年程前、オーディオ試聴会で超音波式のレコード洗浄機を紹介していてその効果に驚き、これなら苦労して水洗いしなくても良いと思ったが値段が高くて手が出なかった。その後、4年前にも他のメーカーから同じ方式のレコード洗浄機が出たがさらに値段が高くなっていた。今回買った洗浄機は昨年の北海道オーディオショウで初めて見た。値段もこれなら何とか購入できそうだと思っていたところようやく1年経って購入できた。

 レコード洗浄機には他にも洗浄液と回転ブラシで洗浄した後、バキュームで吸い取るというバキュームタイプの機器もある。海外製で値段が高いものと安いものが出ている。数年前に新潟県のものづくりの会社がこのバキュームタイプのレコード洗浄機を、10万円を切る価格で出した。評判になったが今年になって突然製造を中止すると発表された。ユーザー側からするとこういう鳴り物入りで販売しておいてすぐに製造中止というメーカーが一番困る。

 このバキュームタイプだが、値段が高い割には効果も今ひとつという気がする。というのもこのタイプを使用している中古レコード店があり、出荷前に洗浄してから送られてくるのだが、音を聴くとどうも埃が取り切れていない感じがするからだ。

 もっと前にはレコードをパックして乾燥させた後に剥ぎ取るというものもあった。ナガオカから「レコパック」という名前で売られていて一度使用したことがある。インターネットで検索すると乾燥させるまでに時間がかかり1本で10枚ぐらいしか使用できず、何千枚も使用するとなるとかなりのランニングコストになるので間もなく生産中止になった。

 

 超音波式の洗浄機として身近には眼鏡店でよく使われるが、オーディオ用としてはCDが出てしばらくした頃にCD用が出たことがある。買って試したところ確かに洗浄の効果はあるが、専用の液を使用することと、手間がかかる割には音質向上のメリットがあまりなかったので次第に使わなくなった。しかし、このCD用の超音波クリーナーは使用し続けると表面のアルミ箔が剥がれることがあると言われるようになり間もなく市場から姿を消した。

また、何年か前にカートリッジの針先(スタイラス)を超音波で洗浄するという製品が出た。これも購入して試したが、確かに効果があった。洗浄前と洗浄後をルーペで見てみると明らかにスタイラスのダイヤモンドの輝きが違う。しかし、これもカートリッジメーカーの方に使用しないように言われて使用を止めた。メーカーの方の話によるとスタイラスカンチレバーを接着している接着剤が剥離する恐れがあるからということだった。実際に高価なカートリッジをダメにした方をオーディオ店で見かけたことがある。この製品はまだ販売はされているようだ。

 

 昨年のトーンアームのグレードアップと今回のレコード洗浄でようやくレコード本来の音が聞けるようにようやくなった。