オーディオのこと 21(スピーカー歴)

 カートリッジ、トーンアーム、レコードプレーヤー、アンプ、CDプレーヤーの使用歴を書いてきた。今回はいよいよ最後のスピーカー歴について書いてみたい。

 最初のスピーカーは、1976年、トリオのシステムコンポネントシリーズのシステムKラインの「システムK3MKⅢ」セットに付いていたJL-3100というスピーカーだった。値段は2本1組38,000円。スペックは、ウーファーが20㎝、ツイーターが5㎝の2ウェイ、再生周波数特性45Hz~20kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル90㏈、大きさは320W×695H×320D、2本1組の重量が26㎏(1本13㎏)、だった。

 使い始めた頃、モノラルとステレオの区別を知らず、正面のオーディオラックの左横に左スピーカー、右真横に右スピーカーを置いていた。要するに90度違う方向から音を聴いていたのである。その頃は単に音が違う方向から聞こえてくると面白いだろうという程度だった。数年が経ち、オーディオ雑誌を読むようになると、スピーカーは正面に平行に置き、スピーカーを結ぶ線を底辺とした二等辺三角形の頂点がリスニングポジションであるという記事を読み、スピーカーをラックの左右両側に置くようにした。その後、モノラル音源のレコードも聴くようになるとモノラル録音とステレオ録音の音の出方が違うことに気付いた。ステレオであれば音源が左右に分かれ、モノラルであれば真ん中に集まる。ステレオというのは一種の音のトリックだと知った。

 次に購入したスピーカーは82年、パイオニアの「PROJECT G7」というシステムコンポーネントのCS-7100というスピーカーだった。値段は2本1組66,000円。スペックはウーファーが28㎝、スコーカーが12㎝、ツイーターがリボン型で通常のダイナミック型よりも高域が伸びているとされていた。再生周波数特性35Hz~40kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル92㏈、大きさは360W×798H×343D、1本の重量が17.5㎏、だった。

 迫力ある音が出るかなと思っていたが、高域と低域がバラバラという印象になった。確かに高域と低域が伸びているが、どうもそれがうまく繋がっていない感じに聞こえた。そのため次にセッティングのため置き台を試してみようと思った。いろいろ試してみると確かに音は変わるけど良いところもあるが逆に悪いところも出てくるという感じでどれも一長一短だった。

 次に購入したスピーカーは86年、イギリス製でロジャースのLS3/5Aというスピーカーだった。値段は2本1組140,000円。スペックはウーファーが10㎝、ツイーターが2㎝のドーム型、再生周波数特性70Hz~20kHz、インピーダンス15Ω、出力音圧レベル82.5㏈、大きさは185W×305H×160D、1本の重量が5.3㎏、だった。パイオニアのCS-7100と比較するとカタログ値はほとんど劣っているが音は段違いに良くなった。小さいスピーカーは前後左右に音場がとてもよく再現できる。オーケストラを聴くと、左からヴァイオリン群、真ん中から管楽器、右からチェロやコントラバスでそれが前後にも音場が広がるように聞こえた。

 この頃、一番欲しかったスピーカーはダイヤトーンのDS-10000というスピーカーだったが2本1組で800,000円(専用台含む)だった。LS3/5Aよりも音場感をより広大にして解像度と質感を良くしたような音だった。何とか無理をして買っていたら、今、真空管アンプを使うことはなかったかもしれないし、レコードもとっくに手放していたかもしれない。

 LS3/5Aはとてもよかったが、10㎝のウーファーでは低音の再現に限界を感じたのでヤマハのNS-W2というサブウーファーを追加した。25㎝のウーファーが1個入っていて、アンプ内蔵型でボリュームが付いていた。大きさは450W×360H×315D、重量は12㎏、100Hz以下を再生するというものだった。しかし、全く別のところから低音だけが出てくるというのは、どうにも不自然で数回試しただけで外してしまった。

 次に購入したスピーカーは88年、ドイツ製でカントンのCT90というスピーカーだった。値段は2本1組540,000円だが、中古を買ったので半額ぐらいだったような気がする。スペックはウーファーが26㎝、スコーカーが12㎝のコーン型、ツイーターが2.5㎝のドーム型、再生周波数特性20Hz~30kHz、インピーダンス4Ω、出力音圧レベル93.4㏈、大きさは310W×900H×327D、1本の重量が24㎏、だった。               

 エンクロージャーがラッカー仕上げでとても綺麗だったが、CT90の音の印象はあまり残っていない。可もなく不可もなくという感じだったような気がする。エンクロージャーがパーチクルボードでネジがすでに何本かバカになっていた。パテで修復しようとしたが、今度は逆に固まり過ぎて狼狽したことを覚えている。

 

 次に購入したスピーカーは91年、ダイヤトーンのDS-V3000というスピーカーだった。値段は2本1組900,000円だが、展示品だったのとCT90の下取りがあったので半額ぐらいだったような気がする。スペックはウーファーが30㎝、スコーカーが7.5㎝のボロンのドーム型でアルニコ内磁型の磁気回路、ツイーターが2.3㎝のボロンのドーム型、再生周波数特性23Hz~80kHz、インピーダンス6Ω、出力音圧レベル90㏈、大きさは400W×900H×388D、1本の重量が53㎏、だった。DS-10000のような音離れのいい音を期待したのだが、真空管アンプとの相性なのか低音が出ないとか、音が平板になるなど期待したような音が出なかった。真空管アンプではなくパワーのあるトランジスターのアンプにしていたらもっといい音で鳴っていたかもしれない。

 

 次に購入したスピーカーは93年、イギリス製タンノイのスターリングTWというスピーカーだった。値段は2本1組440,000円(専用台は2台1組59,000円)。スペックはウーファーが25㎝、ツイーターが25㎜のホーン型の同軸型、再生周波数特性35Hz~25kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル93㏈、大きさは486W×700H×310D、1本の重量が22㎏、だった。これでようやくアンプと相性がいいスピーカーとの組み合わせができたような感じがした。この頃からオーディオ試聴会で他の製品を聴いてもあまりいいとは思わなくなってきていた。そんなことからこれまで2年置きぐらいでスピーカーを買替えてきたが、このスターリングTWは22年間使用することになった。

 このスターリングTWも限界が見えてきたのが、11年にバイアンプにしてからだった。アンプの駆動力にスピーカーが追いついていないという印象だった。オーディオシステムでは入口から出口までの、性能が劣る機器の音がどうしても出てしまう。途中で性能が劣る機器があると周りを良くしても劣る機器に足を引っ張られてしまうのだ。そのためこの頃から次はスピーカーの買替えを考えていた。機種もアンプとの相性からタンノイのアルニコ磁石を使用したモデルにしようと決めていた。

 次に購入したスピーカーは15年、イギリス製タンノイのターンベリー85LEというスピーカーだった。値段は2本1組1,008,000円。中古だったこととスターリングTWの下取り価格が意外と高かったので半額以下で購入できた。中古といっても12年にタンノイ85周年記念モデルとして全世界85セット限定で出たスピーカーで3年ぐらいしか経っていなかった

スペックはウーファーが25㎝、ツイーターが51㎜のホーン型の同軸型、アルニコ磁石、再生周波数特性29Hz~22kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル93㏈、大きさは456W×950H×366D、1本の重量が36㎏、だった。アルニコ磁石に拘ったのはウエスギアンプのカタログに「アルニコ対応」を謳っていたからだった。

 音を聴いてみると、やはりオーディオはスピーカーだと実感した。まずピアニッシモが余韻をもってきれいに響く。奥行きもありながら前に出てくるところは出てくるので、前後左右に音場が広がり自然な響きになる。楽音に妙な付帯音がまとわりつかない。高域は澄み、低音もあいまいさがなく軽い躍動感も出てきて音程もはっきりとするようになった。今までも何度かスピーカーを替えてきたがこんなに音が変わるとは思わなかった。前のスピーカーとは格の違いを感じた。

かつてタンノイはクラシック向き、JBLはジャズ向きとされたことがあったが、現行のモデルはもうそんなことはなく、どんな音楽ソースでも聴ける。これはオーディオ試聴会で実際に聴いてもそう思う。

 もし次にスピーカーを購入するとしたら1本200万以上のスピーカーになるだろう。ターンベリー85LEよりもはっきりと音が良くなると実感できるスピーカーの価格帯はこの辺りになるからだ。タンノイならカンタベリーJBLならK2S9900、B&Wなら802D3か800D3、ファインオーディオのF1-12、ソナスファベールのイルクレモネーゼなどがある。もし、これらのスピーカーの中古品などが適価で売られていたとしても、どれも大きさと重量で今の部屋に導入できるかどうかわからない。ブックシェルフでいいスピーカーもあるがフルオーケストラを聴くとなるとやはり物足りない。今のところ、部屋の中に設置できてターンベリー85LEよりも音がいいと確実に思えるようなスピーカーは幸か不幸か今のところ見当たらない。