オーディオのこと 22(システムコンポのカタログ)

 前回、スピーカー歴のことを書こうと思い、昔のオーディオ機器をインターネットでいろいろと検索していると、かつてのカタログがオークションに出ているのを見つけ、懐かしくなって買ってみた。

 

 76年に購入したトリオのシステムコンポのカタログには「硬派のコンポ」という宣伝文句が謳われている。奇を衒わない質実剛健なイメージとして売り出そうとしていたのだろう。

 この頃は大手家電メーカーも積極的にシステムコンポを販売していた。パナソニック(この頃は松下電器あるいはナショナル)はテクニクス、三菱電気はダイヤトーン、日立はLo-D(ローディー)、東芝はオーレックス、サンヨーはOTTO(オットー)、シャープはオプトニカというブランドで音響機器を販売していた。音響専門メーカーとしてはトリオ、パイオニア、ビクター、ソニーサンスイデンオン(現デノン)、ヤマハなどがあった。これほどコンポは販売競争が熾烈だった。

 その中でトリオは音響専門メーカーとして定評があり、中身で勝負しようとしたのだろう。それがカタログにも現れている。「システムKライン」というシリーズでシステムコンポーネンツK3MKⅢ、K5MKⅢ、K7MKⅢという三つのラインナップがあった。金額は、レコードプレーヤー、プリメインアンプ、AM・FMチューナー、スピーカー、カセットデッキ、ラックを併せるとK3が約20万円、K5が22万、K7が25万という値段設定だった。購入したのはK3で、10万円台の前半ぐらいで買った記憶がある。

 レコード演奏が終わるとアームが自動的にレストにもどるのがとても楽しかった思い出がある。カセットデッキもラジカセのようにカセットテープを縦に入れるのではなく、斜め横に入れるところは本格的に感じた。ラックもしっかりした造りで安定感があった。当時、スピーカーはフロア型が一般的で今のように小型のブックシェルフというのはほとんどなかった。

 カタログを読んでみると今とあまり変わらないと思うところと、違うなあと思うところがあって面白い。アンプの欄では「ヘビー級の電源トランスと大容量コンデンサーによりピアニッシモからフォルテッシモまで再現」とあるのは今と同じ。レコードプレーヤーでは「ハウリングに強いS字型アーム」とあるがS字型アームがハウリングに強いという話は聞いたことがない。カートリッジは「振動系の質量が小さく」とあるがこれはこの頃、軽針圧のカートリッジがもてはやされていたからだろう。今はボディの剛性とか、出力電圧が高いということがよく謳われる。チューナーはまだバリコンでFM放送のチャンネルセパレーションがすぐれているという謳い文句になっている。スピーカーは「強力マグネット、力強い低域、シャープでクリアな高域」とあるのは今とあまり変わらない。

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トリオ システムコンポKシリーズのラインナップ

 

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トリオK3の説明

 次は82年のパイオニアのカタログ。システムコンポーネント「プロジェクトGシリーズ」で

 G3、G5、G7、G9というラインナップだった。レコードプレーヤー、プリメインアンプ、チューナー、カセットデッキ、スピーカー、ラックを併せた金額は、それぞれG3が約20万円、G5が約24万円、G7が約27万円、G9が約30万円、前述のトリオのシリーズにもう一つ高級なシステムが一つ加わった形だ。

 ラックには横型に加えて縦型のヴァージョンが出てきた。前述のトリオのシスコンの後、「立った、立った、コンポが立った」というテレビCMがあった。その流れから縦型のラックもラインナップに加わったのだと思う。レコードプレーヤーはラックの上ではなく中に入るようになった。

この中で購入したのはG7のレコードプレーヤーとスピーカー。レコードプレーヤーはフルオートプレーヤーになった。ボタン一つでアームがレコードの外溝に移動して演奏を始め、終了するとアームが自動的にレストまでもどってきた。このパイオニアのレコードプレーヤーを購入したのはカートリッジがMC型だったから。アームはストレートになり「共振を少なくし、安定したレコード再生が可能」と書かれている。チューナーはかなりスリムになってきているがまだバリコンだった。プリメインアンプは出力が72Wとあるが電源トランスとかコンデンサーのことは書かれていない。ヴォリュームはスライド式になっている。このシステムで画期的なのは、マイコンが入っていてワンタッチオートプレイが可能になったこと。レコードプレーヤー、チューナー、カセットデッキのスイッチを入れると自動的にアンプのセレクターが電源を入れたソースを選択するようになっていた。逆にアンプ側でソースを選ぶとソース機器の電源が入るというようになっていた。スイッチ一つでいろいろなことができることが売になる時代の始まりだった。スピーカーは前面ネットが外れるようになり3ウェイで一回り大型になった。カタログ上の謳い文句はあまり変わりがない。カセットデッキは、カセットテープを縦に入れるタイプでオートリバースになった。片面が終わると逆回転をして自動的に裏面へ録音再生ができるようなった。ラックにはガラス扉がついている。ヘッドフォン端子がアンプにしか付いていないとガラス扉を開けたままにしておかなくてはならないが、閉めたままでもヘッドフォンが聴けるようにラックにヘッドフォン端子が付いている。

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イオニア プロジェクトGシリーズのラインナップ

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プロジェクトGシリーズ G7の説明

 システムコンポの前はモジュラーステレオといって、レコードプレーヤー、チューナー、アンプが一体になっていた。それがそれぞれ別筐体になりシステムコンポになった。そして、この82年のパイオニアの後はミニコンポの時代になっていく。スピーカーは小型になり、チューナー、アンプ、レコードプレーヤーは次第にコンパクトになっていった。この年、CDが出てきて数年後にはレコードの生産を追い越していく。

システムコンポは高級コンポへの入口だった。例え今は2万3万の機種かもしれないが将来は何十万もする高級機にできるという夢をみることができたのが、システムコンポだった。

 今でも2万円台、3万円台のレコードプレーヤー、CDプレーヤー、プリメインアンプ、スピーカーというのはそれなりの数が売られているし、40年前と違って程度のいい中古品もたくさんある。多くの若い人たちがポータブルオーディオをイヤホンで聴くのではなく、コンポを組むことからオーディオを始めて、将来、本格的なオーディオへの道に進んでもらいたいと思う。