オーディオのこと 25 オーディオカフェの音

 数年前から、旅行先のオーディオカフェなどに寄るようになった。BGM風にならしているところは特に音質云々ということは気にしないが、本格的に大がかりな装置で鳴らしている店はジャズが基本でクラシックは付け足しのようにしかかけていないことが多い。

 私はジャズが判らないというか、ジャズファンの方々が持っている「音がいい」という基準がどこにあるのかがよく判らないので、そういうところへ聴きに行っても音の良し悪しについては言わないようにしていた。そもそも、わざわざ遠くまで出かけて聴きに行くのは批評するためではなく、そのオーディオシステムを使っている人がどのような基準で、どのような音を目指して大がかりなオーディオシステムで音楽を聴いているのか、ということを知りたかったからだった。

 私のオーディオの音の基準というとやはり生演奏ということになる。コンサートを聴きに行き、帰ってから自宅のオーディオ装置で聴くとなんてプアな音なのだろう、もっと生らしい音にならないだろうかというところからオーディオをスタートさせていた。

 クラシックの生演奏といってもいろいろあるが一番多いのはオーケストラである場合が多い。2000人ぐらいの大ホールで聴くオーケストラの音を基準にしてオーケストラシステムの音を調整していくのが一つの基準となる。オーケストラのなかで再生が難しいのがヴァイオリンの音で、その中でも特に高音域の音はなかなか綺麗な音で再生できない。そのために様々な方法を駆使して、いわゆる「使いこなし」をするのだが、高域を伸ばそうとすると音が「きつく」なり聴いていると疲れてくる。音が「きつく」ならないようにしようとすると「物足りなく」なる。

 音が「きつく」なるのは楽音にはない余計な振動がスピーカーが出ているということだし、「物足りなく」なるというのは十分に音が拾えずどこかで相殺されてしまっているということだ。音が出ている以上はスピーカーが振動しているということなので、それが他のオーディオ機器にフィードバックして余計な振動となる。これを何処かで遮断させないと、先程の高域が綺麗に伸びたヴァイオリンの音にはならない。オーディオ機器だけではなく電源プラグやピンプラグの振動対策もしなくてはならない。ピンケーブルが振動したり、電源プラグにガタがあったりすると音が濁ると思った方がいい。そんなことを一つ一つ積み重ねて一歩ずつ高域の濁りを取っていく。イメージとしては都会の灯り(濁り)を消していくと、星(楽音)が少しずつ見えてくるようなものだろうか。

 しかし、オーディオカフェのいろいろなオーディオシステムを聴いてみると、低音がボンボンと出て迫力があるとか、芯がないようなフワッとした音とかばかりだった。自分が目指しているいい音でもないので賞めることもできず、かといってあそこがダメだと言うわけにもいかないので黙っているしかなかった。

 これらの音を聴いてきて気付いたのが、普段、生演奏に接しているかどうかということではないかということだった。音がいいかどうかという基準が生演奏ではないのだろう。それならそれで仕方がないと思う。低音に迫力があるといってもオーケストラのバランスが崩れているし、低音楽器の音程が聞き取れない。芯がないフワッとした音は高域も伸びていないし、演奏家の表現がわからない。

 こういう音ならもう旅行先でもオーディオカフェ巡りはしなくてもいいかなと思っている。旅行してまでオーディオ機器の音を聴くなら、メーカーやオーディオ店のオーディオ試聴会の方がずっといい音で聴けると思う。