オーディオのこと 27 (レコードとCD)

 前回のメールを書いた後、フォロワーの方から質問をいただいた。それを整理すると次の三点である。

1 CDよりレコードの方が「表現力」があるのはなぜか?

2 時代が進むほど録音技術は向上しているのではないか?

3 記録方法で(音の)違いはあるか?

ということだった。

 

 最初に言い訳をしておくとオーディオマニアと言われる人たちはオーディオにしてもソフトにしても「商品」として出てきた物についてはある程度詳しくても、商品になる前の電気的な理論とか製作しないと知り得ないようなことについてはそれほど詳しくない。そのため1の問いに答えることは難しい。答えになるかどうか判らないが、3とともにCDとレコードの再生について考えてみたい。

 まずマイクロフォンで録音してマスターテープを作るところまでは同じだが、レコードではそこから高域を上げて低域を下げる特性のアンプに通してからディスクにカッティングをする。そのままカッティングをすると高域と低域の幅が違いすぎて、溝がある一定の幅に収らなくなるためだ。カッティングは、カッティングマシーンで「ラッカー盤」を刻んでいく。そのラッカー盤をメッキして「ニッケルマスター」が作られる。それからスタンパーを作るための「マザー」が作られ、それを元にして「スタンパー」が作られる。そのスタンパーで塩化ビニールをプレスして「レコード」が作られていくのである。これが通常のレコードの製作である。

 再生するときはレコードの溝(マイクログルーヴ)をカートリッジの針先がトレースして機械信号を電気信号に変換する。それからカッティングする前と対照的な高域を下げて低域を上げる特性のフォノイコライザーアンプに入力する。この時に高域を下げるためLPは「ザー」というサーフィスノイズを下げることができるのである。それをアンプが増幅してスピーカーに送り振動板が振動して音になる。このアナログの原理的な方式を「相似性記録再生変換方式」と呼ぶこともある。

 CDはマスターテープまでは同じだが、それをデジタル信号に変換しそのデジタル信号をCDに記録する。CDプレーヤーはそのデジタル信号をピックアップで読み取り、内蔵されているDAC(DAコンバーター)でデジタル信号をアナログ信号に変換する。それからアンプで増幅しスピーカーを駆動するのはレコードと同じである。

 CDになんらかの情報の欠落があると仮定するなら、可能性として考えられるのは、①マスターテープのアナログ信号をデジタル信号に変換するとき、②デジタル信号をピックアップで読み取るとき、③DACでデジタル信号からアナログ信号に変換するとき、の三つが考えられるが、これが原因だと決めつける根拠はない。もう10年以上も前になるがあるオーディオ試聴会でメーカーの方が「アナログをデジタルに変換すると音が悪くなる」と話していたことを覚えている。それが原理的なものか技術的なものかはわからない。デジタルは日進月歩なので今ではかなり克服されている部分もあるかもしれない。

 「表現力」というのは細かい強弱といってもいいと思うが、CDは信号を読み取るときエラーがあると自動的に補正している。実はそこに山や谷の強弱があっても補正するときは直線になって補正されてしまうということもあるのかもしれない。ただ、これも想像の域を出ない。

 もう一つ具体的な話をすると、18年末に、ベルリン・フィルが戦時中のフルトヴェングラーの演奏の22枚組のSACDを一挙に発売した。SACDは理論上、100kHzまでの音が出る。戦時中のフルトヴェングラーの演奏はメロディア盤ですでに全て持っているが、予想通りレコードを上回るものではなかった。この頃の録音には100kHzはおろか20kHzの音も入っていないだろう。それでも音質にはっきりと差がある。

 ただこれも使用しているCDプレーヤーが50万円台の中級機で100万円以上の高級機ならどうかとか、プリアンプにバランス入力があったらもう少し音が良くなるのではないかということも考えられるので、これはまだ今のところはということにしておきたい。

 

 2の質問についてはおそらくステレオ期(50年代後半)以降は録音技術というのはあまり変わっていないのではないかと思う。アナログ時代は名プロデューサーや名エンジニアの名前がたくさん上がるが、デジタルになってからはそういう名前は全く聞かなくなった。それでも極端に音質が落ちたとは思わない。デジタルで発達したのは音質そのものというよりは編集のしやすさではないだろうか。

 むしろ変わってきたのは録音の環境だろう。オーケストラやオペラといった大編成の録音は、ライブ録音ばかりになってしまった。かつてはショルティの「ニーベルングの指環」のように歌手やオーケストラを長時間拘束し、スタジオなどで録音していたが、今はそこまで費用をかけても回収できるほどCDやレコードといった録音媒体が売れなくなっている。ヴァイオリンやピアノのソロ、室内楽など編成が小さい曲はスタジオ録音ということがあるが、オーケストラやオペラの録音環境は以前と比較して良くなっているとは思えない。

 

 とりあえず答えになっているかどうかわかないが、思いつくところを書いてみた。