オーディオのこと 28 バイロイトの第九 各国盤比較試聴

 今までオーディオやコンサートのことをブログに書いてきたが、レコードのことをあまり書かないできたのは近い将来プリアンプの買替えを検討しているからで、せっかくレコード評を書いても機器が変わった途端に評価が覆るということ、それにレコードの各国盤の比較というマニアックな話題についてあれこれと書くことには少し抵抗があるからだった。そのため余り書かないできたのだが、このブログを読んでいるフォロワーさんがそのようなイベントに参加されたということで少しこのことについて書いてみたい。

 

 まず演奏を録音されたテープは「オリジナルテープ」と呼ばれる。これがそのまま「マスターテープ」になるわけではなく、オリジナルテープに様々な補正や調整をしてマスターテープが作られる。この「補正や調整」のところで各国のエンジニアが関わるので各国盤の違いが音に現れるのである。その調整をするときにモニターする機材やスピーカーが違えば当然結果も違ってくることになる。

 

 しかし、私たちリスナーにとって一番知りたいのは、プレスする国で音の違いがあるとしたら、どこの国でプレスされたレコードを買えばいいのかということになる。それに加えていつ頃プレスされたレコードなのかということも関心の的になる。最初にカッティングされた盤なのか2回目なのかとか、マザー盤からスタンパーがいくつか作られるが、最初のスタンパーなのか2番目なのか3番目なのかということも、そのレコードをいい音で聞きたいというマニアなら当然気にすることだ。

 だが、さすがにスタンパー番号まで気にしてレコードを買うというのは無駄が多い。拘ってもせいぜい各国盤でどう違うかというのが関の山だし、それでも相当自分が気に入った曲と演奏でなくてはそこまで買い揃えないだろう。

 

 私が拘って買い揃えたレコードはフルトヴェングラーの各国盤だった。有名なバイロイトの第九で各国盤の比較試聴をしてみたのでメモ風に簡単に音の印象を書いてみた。全曲聴き比べてレポートすると膨大になるので第4楽章の冒頭からバリトンのソロを経て合唱が出てくるまでを比較試聴してみた。レコードはいずれも2枚組で各楽章が1面ずつカッティングされている盤である。レコード番号の後ろの括弧内の数字はレコードの製作年。

 

1 アメリカ盤 RCA LM6043(56)

 メリハリがあるが少し粗い印象。細かい音も良く聞こえるし低域もよく 出ている。弦の解像度は今ひとつかもしれない。

 

2 フランス盤 パテ・マルコニ FALP381-2(55)

 音が前に出てくる。高域が伸びている低域の解像度が高い。木管のアンサンブルがきれいに響く。低弦の擦音がはっきり聞こえる。Dレンジが広い。金管が少し薄くバリトンの声がやや高いのは高域が少し持ち上げられているのかもしれない。

 

3 フランス盤 パテ・マルコニ FALP30048-9(58)

 低域がよく聞こえるが少し軽い感じがある。高域もよく聞こえるが強調されすぎるところもある。歓喜の主題が出てくるところのコントラバスは少し大きい。

 

4 ドイツ盤 エレクトローラ WALP1286-7(56)

 全体的にスケール感が小さくなる。その分細かい音が良く聞こえる箇所もある。金管は迫力に欠ける。声は普通。

 

5 ドイツ盤 エレクトローラ E90115-6(56)

 低域の解像度が低く、籠り気味でモコモコした感じがする。高域も伸びている感じはない。低弦の擦音は一つの塊のようだ。この盤だけ聞いていると録音が古いからと決めつけてしまいそうになる。周波数レンジもダイミックレンジも抑えられているようで、バリトンのソロは聴きやすいが、金管や合唱に迫力がない。

 

6 イギリス盤 HMV ALP1286-7(55)

 冒頭から金管もはっきりと聞こえる。低弦はチェロとコントラバスが分離していて擦音も聞こえる。一音一音がはっきりと聞こえ解像度が高く響きも良い。ヴィオラファゴットもよく聞こえる。金管はモノラルであることを忘れるほどスピーカー一杯に広がる。バリトンも合唱も力強い。

 

 大雑把にメモ風に書いてみた。歓喜の主題が低弦、ヴィオラ、ヴァイオリンと移ってきて、ヴァイオリンが次第にテンポを速め、クレッシェンドしながら金管の強奏に移る箇所はこのバイロイトの第九を「世紀の名演」としている一番わかりやすい分かり箇所だと思う。ここでALPではアクセントを付けながら次第にテンポを速め、音が次第に大きくなり管楽器の強奏に移るとスピーカーの幅一杯の空間に歓喜の主題が響き渡る。この表現が出るのはALPだけだった。

 

 この後、再販盤として2017年に出た2枚組と2018年に出たベートーヴェン交響曲全集盤(10枚組)に収録された盤を聞いてみた。17年盤は、音は細かくわりやすいが、少し音が遠い感じがする。それに比べて全集に収録されている18年盤は細かい音も良くは言っていて迫力もある。

 

これまでに紹介した中で一番のお勧めはイギリス盤ALPだが値段か高い。次のお勧めはフランス盤の381-2だが、フラット盤でコンディションのいいものがなかなかないのが欠点。次はフランス盤の30048-9。値段が安く音も聴きやすいしが全体的に音が少し高域に偏っていて厚みがない。次はアメリカ盤。多少粗い感じがあるが、鑑賞には十分堪える。お勧めしないのはドイツ盤。どちらもこの演奏の凄さを伝えているとは言い難い。再販盤では2枚組はあまりお勧めしないが、全曲盤はお勧めである。とても聞きやすいしフランス盤と違ってコンディションはとてもいい。

 

 メーカーはALPのクォリティでこの演奏を残していくことを考えて欲しい。