オーディオのこと 29 (いい音と演奏)

 オーディオ機器をより性能(音)が良い機種に変更すると、それまでいいと思っていた演奏がそれほどでもないと思ったり、逆にそれほどでもないと思っていた演奏がこんなに良かったのかと思ったりすることがある。

 オーディオでクラシックを聴くときの「いい音」の基準は「ハーモニーが綺麗に響くこと」だと言ってもいい。オーディオ機器をグレードアップしたり、セッティングの調整をしたりして次第に「いい音」になって行くに従い、それほどでもないと思っていた演奏が良いところがたくさんあるいい演奏だった、となることが多い。それは細かい強弱の差が明瞭になるにつれて演奏家の表現が次第にわかるようになるからだ。素っ気ないと感じていた演奏の中に実は強弱の変化、色彩の変化などがあることが次第にわかってくるのである。

しかし中には音が良くなるにしたがって、意外と表現力のない演奏だったと感じることもある。例えばテンポが速い疾走するような演奏とかアタック音か強い演奏というのはそれほど音が良くなくてもいい演奏だと感じることがある。しかし、そういう演奏は微妙な強弱とか旋律を歌わせるということがあまりないので、音が良くなるメリットをあまり受けない。

 音が良くなって演奏の強弱とかアンサンブルの妙とか細かいところがわかるようになるとその曲に対する聴き方も変わってくる。そうしてテンポが速いとかアタック音が強い演奏は音が良くなっても印象はそれほど変わらないが、他の演奏が次第に良くなっていくので相対的に評価が低くなってくる。それでオーディオ機器をグレードアップして、セッティングを調整して久しぶりに聞くと意外とそうでもなかったという印象を持つことになるのだと思う。

 音が良くなったにもかかわらず、気に入っていた演奏が今までの印象と違い意外と凡庸だったと感じてしまうというのは少し複雑な気分になる。