第635回札幌交響楽団定期演奏会

 令和3年(202⑴年)3月5日、第635回札幌交響楽団定期演奏会(hitaru代替公演)を聴きに行ってきた。

 

 プログラムはリャードフ「魔法にかけられた湖」、尾高惇忠「チェロ協奏曲」、ラヴェルマ・メール・ロワ組曲、「ダフニスとクロエ」第2組曲だった。チェロ独奏は宮田大、指揮者は尾高忠明だった。開演前に尾高惇忠氏の逝去に伴い札響事務局長から挨拶があった。

 1曲目は「魔法にかけられた湖」。編成は14型。今年度の定期演奏会のテーマは「おとぎ話」でこの曲も「おとぎ話的な絵画」という副題が付いている。リャードフはロシアの作曲家でロシア民謡を生かした曲をたくさん作っているらしい。この曲は風や波を描写した美しい音楽だった。それをとても幻想的に響かせていた。

 

 2曲目は「チェロ協奏曲」。編成は12型。プログラムには尾高惇忠氏の「チェロ協奏曲ノート~初演によせて」という手記が掲載されていたのでそれをここに全文引用したい。

「この協奏曲は2016年3月、日本フィル定期(広上淳一指揮・サントリーホール)でのピアノ協奏曲初演を終えた後、次はチェロ協奏曲を・・・との想いが拡がり、そこから構想を練ったもので、2017年11月8日に完成しました。丁度この頃、チェリストの宮田大 君が拙作『独奏チェロのための瞑想』(1982、全音)を独奏チェロのためのリサイタルで取り上げてくれ、私もサントリーホールへ足を運びました。その素晴らしい演奏にすっかり魅了され、その時、チェロはこの人に、そして指揮は弟の忠明にしてもらえたら、と心に決めたのでした。

 時は流れ、この度の札響定期演奏会で宮田大 君のチェロ、そして指揮は忠明という私の願ったメンバーでこの曲が初演されることになり、大変嬉しく思っています。そしてまた、本日寒い中お越し下さったお客様方をはじめとする関係者の皆様に、この場を借りて改めて感謝致します。

 

 曲は独奏チェロと標準的な2管編成により、3つの楽章で構成されています。

 第1楽章では前述の『独奏チェロのための瞑想』を独奏チェロという極めて限定された枠から解き放ち、今度はより多様な可能性を持つオーケストラという媒体と共にある時、私の瞑想はどのような拡がりを聴かせるか、というようなことを模索しながら書き進めていきました。

 第2楽章は、2015年に出版された『12のピアノ作品』(全音)に収められた『レクイエム』を編曲したもの。その時のノートに「この曲はいつの日かオーケストラにしてみたい」というコメントが有り、それを実現させる形となりました。歳を重ね、最近では後期高齢者などという嫌な称号を与えられた私の極めて内相的な曲となっており、チェロの高音域での美しい響きを求めています。

 終曲(第3楽章)は極めて短い序奏のあと、Assez Vif(十分に生き生きと)の速くてリズミカルなスケルツォ風の音楽が続き、それはやがてテンポを落としてAndante(アンダンテ)となって優しいロマンチックなチェロの歌が歌われます。その後再びAssez Vifの音楽が、今度はより積極的に展開され、発展して終結部へ至ります。ここでは第1楽章冒頭の瞑想的な音楽が静かに再現され、独奏チェロのラ音の反復が提示されますが、これは私の祈りの象徴として置かれ、それは無限の宇宙空間へと導かれて行きます。

(2021年1月9日)」

 

 第1楽章は「瞑想」で第2楽章が「レクイエム」、第3楽章が「やさしいロマンチックな歌」とあるように非常に内的な曲だった。楽器の一音一音がチェロと共に静かに沈潜するように響いていた。

アンコールはバッハ無伴奏チェロ組曲第1番からメヌエットジーグだった。

 

 休憩後の3曲目は「マ・メール・ロワ組曲。編成は14型。2016年1月の第585回定期にバーメルト指揮で聴いている。聴いた後、レコードを探したが、手頃な価格のものがなく結局いままで買えなかった。短い美しい曲がちりばめられている組曲で、繊細な響きでおとぎ話の世界を表現していた。

4曲目は「ダフニスとクロエ第2組曲」。編成は14型で変わらないが管楽器と打楽器が増えた。

 この曲は1995年にウィーンに行ったときにムジークフェラインザールでズービン・メータ指揮ウィーン・フィルの演奏で聴いているし、2004年にベルリン・フィル札幌コンサートホールKitaraで公演したときサイモン・ラトル指揮で聴いていて、どちらもよく印象に残っている。ウィーン・フィルはオーケストラ全体が一体となった響きが素晴らしかったし、ベルリン・フィルは目の前に巨大な空間が拡がる圧倒的な音量が記憶に残っている。札響では2015年1月の第576回定期にユベール・スダーン指揮で聴いているが、この時の印象はあまり記憶に残っていない。ダフニスとクロエ第2組曲ウィーン・フィルベルリン・フィルの生演奏を聴いた記憶があるのでどうしても評価が辛くなる。

 しかし、この日の尾高忠明指揮による札響の演奏は見事に期待に応えてくれた。「夜明け」は水平線から次第に太陽が昇り、空高く照らす様子を見事に表現していた。高さを感じさせる響きが素晴らしかった。「無言劇」は木管の軽妙なリズムと静寂のバランスが見事。「全員の踊り」では複雑なリズムをオーケストラが一体となって叩きつけるように鳴らしていた。5年前よりも札響の演奏は良くなっていると思う。

 3月28日にNHKFMで放送されるので録音は忘れないようにしたい。