オーディオのこと 41(アンプの増幅方法による音の違い)

 オーディオ試聴会がなくなりYouTube動画でオーディオ店やオーディオメーカーの動画サイトで新製品の紹介などをよく見るようになった。中には初心者向けに丁寧に作られているなあと感心する動画があったり、試聴会さながらの動画があったりとオーディオファンとしてはとても楽しみに見られる。もちろん中にはどうかと思うような内容のものもないではないが、それはオーディオ試聴会でも同じなので特に気になるほどのことではなかった。

 YouTubeなのでいろいろと動画を見ているとお薦め動画が上がってくる。その中に「○○の館」というチャンネルがあってオーディオについて「検証」するかのように実験して結論を出しているというチャンネルがあり、なんとなく面白いなあと思っていくつか見ていたが、実験の方法があまりにもお粗末だったので、いくつか動画を見てそれっきり見なくなっていた。

 最近になって大阪のオーディオ店「オーディオ○品館」という新製品の試聴動画をたくさん上げているありがたいお店のブログで、「1万円のアンプと330万円のアンプでは有意義な差がない、というオーディオ誌があり、これを事実であるかのようにして配信しているYouTube動画がある」と書いていた。あの「○○の館」動画のことだなと気付いて、そのことを扱っている動画を見ると40万回以上の再生回数になっていたので、気になってそのオーディオ誌の記事を調べてみた。

 そのオーディオ誌は音楽之友社から出ている「ステレオ」という雑誌で、この記事が書かれていたのは2004年3月号でデジタルアンプの特集の中の記事だった。この頃はソニー、シャープ、ヤマハ、オンキョーなどがデジタルアンプは効率が良いということから相次いで製品が出ていた。それまではデジタルアンプは音が悪いという「先入観」というか「定評」があったが、その先入観を覆そうという狙いの特集記事でもあった。

 問題の記事は、6種類のデジタルアンプと2種類のアナログアンプの計8種類のアンプを4人のオーディオ愛好家がブラインドテストをして、デジタルアンプかアナログアンプかということと、それぞれのアンプに順位付けをするというものだった。

試聴した製品は次のとおり。

1 アキュフェーズ C2800+M8000×2(アナログアンプ 330万円)

2 ソニー TA-DR1(デジタルアンプ 100万円)

3 ラステームシステムズ RSDA202(デジタルアンプ 9,800円)

4 PSオーディオ HCA-2(デジタルアンプ 248,000円)

5 ヤマハ MX-D1(デジタルアンプ 60万円)

6 デノン PMA-2000Ⅳ(アナログアンプ 12万円)

7 フライングモール DAD-M1×2(デジタルアンプ 8万円)

8 ソニー TA-DA9000ES(デジタルAVアンプ 60万円)

※順番は試聴順。

 

 結果は、デジタルアンプかアナログアンプかを判別できたのは4人の内1人でそれもデノンの1機種だけで、アキュフェーズは4人ともデジタルアンプだったと答えている。

 順位では1位が多かったのがソニーTA-DR1、その次にヤマハ、デノン、フランイングモールが2~4位を競る状況で、4人とも8位だったのが330万円のアキュフェーズで9,800円のデジタルアンプよりも順位が下だったという結果になった。

 

 2004年にはまだソニー、オンキョー、ビクター、シャープがオーディオ市場に参入していて、デジタルアンプに再起をかけていたのかもしれない。特集記事では、これからはデジタルアンプの時代だといわんばかりの内容になっている。

 現在、国産でDクラスアンプ(今はデジタルアンプとはいわなくなり、Dクラスアンプ、スイッチングアンプというようになっている)を出しているのはマランツテクニクス、スペックといったメーカーで海外メーカーではジェフローランド、リンなどもスイッチングアンプである。小型とか薄型で重量が軽い割には出力が大きいアンプはDクラスアンプであることが多い。スイッチングアンプというのは昔からあり、それがここ十数年ぐらいの間にオーディオでも使用されるようになった。すでにDクラスアンプは珍しくもなく特別なものでもなくなっている。

 

 アナログアンプの代表として取り上げられたアキュフェーズはA級とAB級の2種類を出し、デノンはAB級アンプを出している。A級とは小出力で効率も悪く発熱も多いが音質がいいとされている。B級はパワーがあり効率も高いが歪みが多いとされている。そのため小さい出力の時はA級で動作させ大きいパワーの時はB級で動作させるAB級アンプが出てきた。オーディオ市場で一般的なアンプはAB級が多く、値段が高い小出力のアンプはA級であることが多い。

 アキュフェーズ、ラックスマン、エソテリックといった国産の老舗メーカーはA級とAB級の2種類を出しているが、セパレートアンプでA級アンプを出しているのはアキュフェーズだけ。

以前、オーディオショウのアキュフェーズブースで同じ価格帯のA級パワーアンプとAB級パワーアンプの比較試聴をしたことがあるが、A級の方が良かったと手を挙げる人が圧倒的に多かった。

 その昔、アンプは出力ではなく重い方が音はいいと言われたことがあった。出力よりもトランスやコンデンサーに容量が大きいものを使用し、筐体をしっかりした物にすると当然、重量は重くなる。オーディオ評論家の長岡鉄男氏(1926-2000)唱えた説?でこれは出力偏重へのアンチテーゼでもあった。Dクラスアンプはアンプが重い方がいいという説へのアンチテーゼとして出てきたのかもしれない。そのために冒頭のような雑誌でのかなり強引な特集記事が出てきたとも考えられる。確かにいくら音がいいといっても発熱も多く重いアンプは使いづらいことも確かだ。そのためにDクラスアンプのような小型でパワーがある製品がユーザー側も求めていたところもあるのだろう。

 

 それでも専ら音のことだけを考えるならアキュフェーズの試聴会のようにA級アンプに分があることも確かだと思う。家庭で使用する上でいろいろと制約があるならAB級やDクラスアンプという選択肢もあるということだろうか。