オーディオのこと 43(オーディオマニア考)

 ″オーディオマニア″といってもいろいろな解釈があるが、長年に亘りオーディオを趣味としてそれなりに機器を揃え、雑誌を読んで情報を取得しているような人たちの総称としておく。オーディオファンとかオーディオファイルという言い方もあるが、オーディオファンでは少し浅いし、オーディオファイルと呼ぶほど格好が良いものでもないのでオーディオマニアにした。

 

 以前、フェイスブックのオーディオ関連のグループに参加していたことがある。オーディオに関心がある人に日常生活の中で出会うことがあまりないのでSNSを利用してオーディオマニアの生の情報に接していた。

 グランツのトーンアームを購入した時に、グランツのシェルとイケダのシェルではアームに差し込む部分の長さが違いことに気がついた。そのことを投稿したところ、返信欄に「そんなことより接点のクリーニングをしましょう」などと見当違いな投稿があった。返信の意図がよく判らなかったので、無視して「シェルにはこれといった規格がないそうだ」とグランツのメーカーの方から聞いた話しを再び投稿した。すると無視されたことが気に障ったのか、アームの銘機ではこうだとかいろいろと書いてきた。そんな面倒な人と議論したくもなかったので、投稿を削除してすぐにそのグループを退会した。その銘機は以前使用していたことがあった製品だが投稿のなかでそのことには全く触れてはいなかった。

 後日、一体何が気に入らなかったのかと考え、あることに思い至った。それはオーディオを長年趣味にしている人は使用しているオーディオ機器を選んだ理由と同時に選ばなかった機器についても選ばない理由というのを持っていて、選ばなかった機器を選んだ人に自分が選ばない理由を機会があるときに披露したいということなのだろう、ということだった。安くない金額で、銘機ではなく違う製品を良いと判断して買った人への反発もあったのだろう。

 

 同価格帯のA、B、Cというアンプがあったとする。オーディオマニアの甲は試聴したり雑誌やネットの評判などを調べたりしてAというアンプを選んだとする。それは単にAを選んだというだけではなくBやCについても選ばなかった理由も同時に持っている。それに対してオーディオマニア乙は同じように試聴や雑誌、ネットの評判からBを選んだとする。乙もBを選んだ理由と同時にAやCを選ばなかった理由も持っている。

 選んだ理由と言っても多くの場合は「音がいい」とか「好みの音」ということがほとんどだろう。選ばない理由はその反対ということになる。甲がAを選んだ理由を、Bを選んだ乙が聞いていると乙はBを貶されたように感じるだろう。選んだ理由だけで選ばない理由を話していなくても、複数の候補がある中から1つの製品を選んだという理由をいうだけで、その他の製品はそうではないとその他の製品を選んだ方は否定的に受け止めることがある。

 そんなことから甲と乙は険悪になることもしばしばだが、そこにオーディオマニア丙が出てきたとする。丙がA又はBを選んだとすると2対1になるがCを選ぶと三つ巴になる。それに加えてオーディオはアンプだけでは成立しないのでスピーカーとの組み合わせということも出てくる。X、Y、Zというスピーカーがあったとして、それぞれにA、B、Cと組み合わせると9通の組み合わせになり、それぞれについてあっちがいいとかこっちがいいという話しが出てくる。

 ある製品について選ぶ理由と選ばない理由がぶつかり、それに組み合わせた理由が加わる。それぞれの主張には試聴しているという体験と雑誌などから得られる技術的な情報が結びついているので違う考えを聞いても簡単には同調することはあまりない。その上、選んだ方はそのために多額の金額をかけて購入しているのだから、それを否定されるだけでも気分を害されることになる。

 

 オーディオ機器を選ぶことだけではなく、オーディオマニアはいわゆる「使いこなし」についても一家言持っている。オーディオの音の不満というのは「音がきつい」、「物足りない」、「低音が出ない」あるいは「低音が出すぎる」、「音像がぼやける」というようなことが多い。「長年、趣味にしている」ということはそれらの不満に対して「対策」を施して音を良くしてきたという「成功体験」をオーディオマニアは持っていて、それを押し付けようとする傾向がある。

 例えば「音がきつい」ということがあり、ケーブルを交換して音が改善したという「成功体験」を持つオーディオマニアはそれが唯一の改善策であるとして他人に押し付けてくる。「音がきつい」といってもその原因は様々で、ケーブルとは限らず、セッティングかもしれないし、オーディオ機器の方の問題かもしれない。オーディオで故障ではない何となく音が良くないという時は最初から原因がはっきりと判っているわけではない。もしかしたらケーブルかなと見当を付けて、ケーブルを交換してみると良くなったらケーブルが原因だったということになるが、もしそれでも音が良くならなかったら他の原因をいろいろと考えて探さなくてはならない。何となく音が濁っていると感じて接点をクリーニングすると直ったときに初めて、音が濁っていたのは接点が汚れていたからだとわかる。もし接点をクリーニングしても音の濁りがなくならないと他の原因を探すことになる。もし何も思い浮かばないと雑誌を読んでみたりオーディオ店で相談したりネットで調べることになる。

 「対策」といってもお金がかかったり、改造したりするような手間がかかり元に戻せないようなことは他人に勧められない。自分でも高価なアクセサリーを使用したり、より性能が高い機器にグレードアップしたりして音質が改善したことがあるが、それを誰にでも勧めるわけにはいかない。簡単にできて簡単に元に戻せることでなくては他人に勧められない。

 オーディオマニアの人と話すときはどこで「地雷」を踏むかわからないので、自分が使用しているオーディオ機器の話しなどくれぐれもしないことだろう。