オーディオのこと 64(オーディオの衰退について)

 50年代60年代にはマッキントッシュマランツ、クォードといった有名ブランドの真空管アンプJBL、タンノイ、アルテックといった大型フロアスピーカーがオーディオの花形だった。しかし、一般庶民には高額すぎて購入できなかった。

 70年代になると日本メーカーが相次いでトランジスターアンプとブックシェルフのスピーカーを発売するようになった。トランジスターアンプは、それまでの真空管アンプに対してパワーがあり、歪率も少なく安価だった。ブックシェルフスピーカーはウーファーが約30㎝、重量が約30㎏のスリーウェイだった。新素材の材料でスピーカーの振動板を作り、海外製のフロア型スピーカーに比べると小型で周波数レンジも広く安価だった。

 国産のオーディオメーカーは、高額で購入できないオーディオ製品を、性能を高めたうえに購入できる製品にした。そのためオーディオの市場は急速に拡大していった。これが70年代のオーディオブームを牽引した。それに伴って真空管アンプが市場から姿を消し、いろいろな製品に使用されていた真空管トランジスターに取って替わられ生産されなくなった。

 普及価格帯にはレコードプレーヤー、AMFMチューナー、プリメインアンプ、カセットデッキ、フロア型スピーカー、ラックが一式で売られるシステムコンポがあった。それに対して製品毎に違うメーカーの製品で揃えることを「単品オーディオ」と呼んだ。ラジカセの次はシステムコンポで、10万円台からあった。当時としても決して安くはなかったが小遣いを貯めれば買えない額ではなかった。またこのシステムコンポは単品オーディオの入口にもなっていた。

 この頃、システムコンポを使用していた若い人たちにとって単品オーディオは夢に溢れていた。レコードプレーヤーならフォノモーターはこれ、トーンアームはこれ、カートリッジはこれというようにどのような組み合わせにして自分好みの音にしていこうかという夢に溢れていた。このスピーカーにはこのアンプがいいとか、こちらの方が相性はいいなどの記事がFM誌、オーディオ誌に溢れていてオーディオには「好きな音楽をいい音で聴く」という「夢」があった。

 82年にコンパクトディスク、いわゆるCDが登場する。非接触のレーザーで1と0のデジタル信号を読み取るのでもう音の違いはなくなるとメーカーは宣伝し、オーディオ評論家や音楽評論家もそう言っていた。それにも関わらず、CDプレーヤーが各メーカーから発売されるとどの製品も音が違っていた。それでもメーカーやオーディオ評論家は何の訂正もせず、デジタルになると音の違いはなくなるなんて言っていない、というような素振りをしていた。しかし供給側が音の違いはないということを訂正しなかったので一般の人たちはそのまま信じてオーディオ製品による音の違いを気にしなくなっていった。同じ音ならそれ以上はないからだ。より高額な性能が良いオーディオ機器でいい音を聴きたいという人たちがこの頃から急速に少なくなっていった気がする。この「デジタルは1と0なので音に違いはない」とメーカーが主張したことは結果としてオーディオ業界が自分で自分の首を絞めたと思う。CDプレーヤーが売れている時はまだよかったが一通り行き渡ると次はもうなかった。一部のオーディオ愛好家たちを除いて、一般の人たちはCDプレーヤーを一度購入するとそれ以上音を良くすることに関心がなくなっていった。

 CDはレコードのようにカセットテープにダビングしなくてもそのままカーステレオで再生できたこともあり急速に普及していった。CDの普及と共にアナログ製品は生産されなくなった。テクニクス、パイオニア、デノン、ビクターのレコードプレーヤーとフォノモーターがなくなり、トーンアームではサエク、FR、オーディオテクニカといったメーカーの製品がなくなった。カートリッジも大半のメーカーが製造を中止し、残ったのはオルトフォン、デノン、オーディオテクニカぐらいだった。

 レコードプレーヤーを始めとしたアナログ製品はぞくぞくと市場から消えていったのでレコードを手放す人も増えた。アナログ製品の生産終了は、かつて高級品だったレコードをこつこつと蒐集してきた音楽愛好家の情熱を無にした。

 90年頃のバブル期からの数年、国産の各メーカーは高級機器を出してきた。オーディオ市場が盛り上がるかに見えたが、バブルが弾けると大メーカーは相次いでリストラをするようになり、市場拡大が見込めないオーディオ市場から大手家電メーカーが相次いで撤退又は転業をしていった。東芝、日立、三菱、NEC、シャープ、ヤマハ、ビクターは撤退。パイオニアはAV事業に力をいれ、ケンウッドはカーステレオ、山水、オンキョーからは新製品が出なくなった。ソニーSACDを開発しCDの「二匹目のどじょう」を狙っていた。またこの頃、オーディオシステムにヴィジュアル機器を融合させようというA&V(オーディオ&ヴィジュアル)のマーケットも出てきた。ヴィジュアルを伴わないオーディオシステムを指す「ピュアオーディオ」という言葉も生まれた。

 電気製品におけるオーディオ機器の状況も変わった。かつては家電製品の中でオーディオ製品はかなりのウエイトを占めていたが、95年に「Windows95」が発売されると家電製品の中心はパソコンになり、オーディオ機器は世間の関心からも遠ざかっていった。

 オーディオ製品が売れなくなるとメーカーは様々なフォーマットの製品を出して新しく売り出そうとした。MD、Hi8、DATなどである。いずれも録音機能を備えていてカセットに替わる製品として売り出された。Hi8、DATは普及する前に姿を消した。MDは普及したが、iPodなどの携帯音楽プレーヤーやスマホが出てくると間もなく姿を消した。逆に近年はなくなりかけたカセットがまた出てきている。

 90年代末になるとCDの次世代フォーマットとしてSACDDVDオーディオが出てきた。DVDオーディオは192KHz、24ビットと従来のCDを遙かに上回る規格だったが普及することなく終了した。SACDもCDの規格よりも遙かに高い周波数を再生できる。CDはすべてSACDになるのかと思っていたが、思った以上に普及しなかった。ダビングができないため敬遠されたのかもしれない。現在では再生機の値段が高くなり、これ以上、普及することはないだろう。SACDが頭打ちとなった2000年代にはソニーもオーディオ市場から撤退していった。

 90年代半ばに大手家電メーカーがオーディオ市場から撤退した頃から、市場から全く姿を消していた真空管アンプが再び市場に現れるようになった。主にガレージメーカーや海外メーカーの製品だがオーディオ店の店頭にも展示されるようになった。

 89年に真空管アンプが欲しいとオーディオ店に行ったら店員から「今時、真空管アンプなんてない」という趣旨のことを言われたことがある。それが数年後には「真空管アンプもなかなかいいですよ」と言われるようになった。

 2011年にラックスマン、2012年に元マイクロのテクダスが再びアナログプレーヤーを出してきた。海外では試聴会にアナログレコードを使用するところが多く、SACDは全く普及していないという話を聞いた。

 また、この頃から音楽のストリーミングサービスとかCDをハードディスクにリッピングしてスマホタブレットで操作するという再生方法が出てきた。ネット配信サービスが始まって影響を受けたのはレコードではなくCDだった。むしろレコードは若い人たちを中心に売り上げが徐々に伸びていった。

 2020年にコロナ禍があり、2022年にウクライナで戦争が始まると物価が目に見えて上昇するようになった。バブル崩壊後、日本はデフレだったがオーディオ機器の値段はそれほど下がってはいなかったような気がする。それでもコロナ前まではそれほど割高感はなかったが2022年のウクライナ戦争後は原油の値上がり、原料の供給不足、円安などによりオーディオ機器の値上げが相次いで割高感を感じるようになった。

 

 以上、オーディオ業界の盛衰について思いつくままに書いてみた。「オーディオの衰退」には様々な要因があると思う。オーディオ業界そのものにも問題があったしオーディオを取り巻く環境も変わった。

 

●オーディオ業界の問題としては

1 デジタルは1と0で音に違いはないということを吹聴して訂正しなかったこと。これによりオーディオ機器をグレードアップしていく気概を失わせた。

2 高額にも関わらずこつこつと情熱を傾けて蒐集してきたアナログレコードの価値を無くし、アナログファンを顧みなかったこと。レコードを聴き続けたいという人からするとメーカーは信用できないという不信感を生んだ。

3 CDに味を占めたのか、次々と新しいフォーマットを出して普及しないと直ぐに生産を中止したこと。メーカーは購入した人が馬鹿を見るような製品を出しても羞じなかった。これもメーカーに対する不信感を生んだ。

4 かつて真空管アンプよりトランジスターアンプ、レコードよりCDが、それぞれ音がいいとメーカー、オーディオ評論家、音楽評論家は挙って主張していた。その結果真空管アンプとレコードは急速に市場からなくなりトランジスターアンプとCDが急速に普及した。

 それが、年月が経つと真空管アンプやレコードの方が、音がいいと言い始めるというのは余りにも節操がなさすぎる。なぜあの時トランジスターアンプの方が、音がいいと言ったのか、またなぜレコードよりもCDの方が、音がいいと言ったのか。メーカー、オーディオ評論家、音楽評論家は総括して改めて説明すべきだと思うが全くそんなことは言っていないような素振りしかしていない。

 

●オーディオを取り巻く環境の変化としては

1 ゲーム機、パソコン、スマホなどが出てきてお金の使い道がオーディオ以外へ向けられるようになった。それらの製品でも音楽が聴けたので相対的に単品オーディオへの関心が薄れていった。

2 以前はシステムコンポが単品オーディオへの入口だったが、パソコン、スマホは単品オーディオの入口にはなっていない。パソコン、スマホDAPなどでヘッドフォン、イヤホンで聴くことが主流になり、スピーカーで音楽を聴くという習慣がない人が増えた。そのため若い人たちがオーディオ機器に興味を示さなくなった。

3 80年代後半にバブルが始まり、土地の値段が急激に上がった時、マスコミは「都心に庭付き一戸建てを持つというサラリーマンの夢が遠のいた」と報じていた。この頃まで多くの人たちが一戸建てに住みたいと郊外の一軒家を求めていた。しかし、今では都心のタワーマンションに住むことがステータスになった。マンションでは換気口などから各部屋に音が漏れることがあるらしい。ある程度収入がある方々が住環境からオーディオシステムを入れられないということにもオーディオシステムが売れない原因があるのではないかと推測している。

4 70年代、80年代にオーディオが盛んだった頃は、中古品というと50年代60年代の真空管アンプや大型フロアスピーカーといった、いわゆるヴィンテージ機器が多く、その頃の現行品とは音の傾向もかなり違っていた。

 それが、2000年代に入りネット通販が普及すると80年代、90年代の国産アンプやスピーカーも中古市場に出てくるようになった。中古市場の需要の拡大は現行製品への需要を縮小した。20年前、30年前の機器でも現行品の機器とそれほど音が変わらないのなら中古品でもいいと考える人が増えた。

 

 ここまで「オーディオの衰退」につながったのではないかと考えられることを思いつくままに書いてみた。オーディオ業界や評論家がしたことは商売上仕方がなかったといえるかもしれない。オーディオを取り巻く環境の変化は「時代の流れ」なので仕方がないといえるかもしれない。

 しかし、オーディオが盛んな頃に比べて「自分が好きな音楽をいい音で聴きたい」という拘りを持つ人が少なくなったという感じは否めない。やはりそういう人が増えなければオーディオに興味を持つ人は増えないだろう。

オーディオ試聴会 27(DSオーディオ試聴会)

令和6年(2024年)3月16、17日、DSオーディオの試聴会に行ってきた。場所は大阪屋6階の試聴室。講師はDSオーディオの青柳哲秋氏。DSオーディオは2013年に設立した光カートリッジのメーカー。

試聴会での使用機器は次の通り。

 

○DSオーディオ

・光カートリッジ DS-E3(4月発売予定) 予価:125,000円(税抜き)

・光カートリッジ DS-003  定価:225,000円(税込)

・光カートリッジ DS-W3   定価:495,000円(税込)

・光カートリッジ DSマスター3 定価:880,000円(税込)

・光カートリッジ DSグランドマスターEX 定価:2,200,000円(税込)

 

・光専用フォノアンプ DS-E3(4月発売予定) 予価:150,000円(税抜き)

・光専用フォノアンプ DS-003  定価:275,000円(税込)

・光専用フォノアンプ DS-W3  定価:935,000円(税込)

・光専用フォノアンプ DSマスター3 定価:1,980,000円(税込)

 

・偏心検出スタビライザー ES-001 定価:605,000円(税込)

 

○エソテリック

・アナログプレーヤー グランディオーソ T1 定価:7,700,000円(税込)

・プリアンプ グランディオーソ C1Xsolo 定価:2,200,000円(税込)

パワーアンプ グランディオーソ S1X 定価:3,300,000円(税込)

 

○スピーカー B&W 801D4 定価:2,970,000円(1本/税込)

 

1日目はDSオーディオの方の説明。光カートリッジとはLED光源と太陽電池の間に遮蔽板があり、それがカートリッジのカンチレバーに固定されていて針先の振動に合わせて遮蔽板が明るさをコントロールして音楽信号を取り出すという方式のカートリッジで、アナログをデジタルに変換するのではなく純粋なアナログ信号となる、という説明があった。

 

最初はE3とセットのフォノアンプで試聴。

・女声ヴォーカル ダイアナクラール

 妙な付帯音がまとわりつかない

 70年代に東芝、シャープ、トリオが光電式カートリッジを1972年に発売した。しかし、その頃は白熱電球の熱でゴムのダンパーの弾性が変化して内周になると音が変化した。今は熱を出さないLED、効率がいい太陽電池を使用できるので実用化できるようになった。

アコースティックギター

 音がすっきりして聴きやすい。

・女声ヴォーカル

 E3のフォノアンプとDSマスター3のフォノアンプの比較試聴

 電源が強化されるのでスケール感、中低域の厚みが圧倒的に違う。

 カートリッジをダイヤモンドカンチレバーのDSマスター3に変更。

シューベルト アルペジョーネ・ソナタ ロストロポーヴィチ

コルトレーン バラード

 従来のアナログともデジタルとも違うが、かといって生演奏とも違いマイクを通して録音された音がそのまま出てくる感じがする。

玉置浩二 田園

 マスター3とカンチレバースタイラスがダイヤモンド一体となったマスターEXとの比較試聴。

 EXの方がより鮮明になる感じがした。現在ではアナログの最高峰。

・女声ヴォーカル リンダロンシュタット

 偏心検出スタビライザーはグルーヴ(レコードの溝)の最内周の位置を光で検出して中心との「ズレ」を検出する。

 調整前は250、調整後は20で試聴した。調整後の方が溝の深いところの情報が再生されている感じがした。

モダンジャズカルテット ラストコンサート

 

○17日のフリー試聴

 フリー試聴ではカラヤンパルジファル前奏曲ショルティラインの黄金フルトヴェングラーエロイカ交響曲をW3で聴いた。

 付帯音のないすっきりとした再生音で、小さい音から大きい音まで淀みなく再生され、長時間聴いても聴き疲れのしない音という印象だった。モノラルレコードでも十分な再生音だったことが確認できた。

第659回札幌交響楽団定期演奏会

 令和6年(2024年)2月25日、第659回札幌交響楽団定期演奏会を聴きに行ってきた。

 指揮は、当初、札響名誉音楽監督尾高忠明だったが、肺炎のため急遽出演できなくなったため藤岡幸夫に変更になった。プログラムも後半のエルガー交響曲第2番はなくなった。チェロ独奏は上野通明。

 開演前のロビーコンサートはトランペット:福田善亮、鶴田麻記、小林昌平、佐藤誠、ホルン:𡈽谷瞳、トロンボーン:山下友輔、中野耕太郎、田中徹、澤山雄介、チューバ:玉木亮一で、パーセル:トランペット・チューン、エルガー:「エニグマ」よりニムロッドだった。

 

プログラムは、次の通り。

エルガー:夕べの歌

エルガー:チェロ協奏曲

 

 1曲目は「夕べの歌」。編成は12―10―8―6―5。もともとは「愛の挨拶」のようにヴァイオリンとピアノのための小品をエルガーが小編成管弦楽用へ編曲した。聴きやすいメロディを散りばめたような曲。

 2曲目は「チェロ協奏曲」。後半の曲がないため今回のメインプログラムとなった。上野のチェロは良く音が通り曲の中に引き込まれる感じの演奏だった。札響とも息が合いとても良い演奏だった。

 アンコールはハルヴォルセン:ヘンデルの主題によるパッサカリアだった。

第24代札幌コンサートホール専属オルガニスト オルガンウィンターコンサート

 令和6年(2024年)2月10日、Kitaraの専属オルガニスト ウィリアム・フィールディングさんの標記コンサートを聴いてきた。フィールディングさんは1999年のイギリス生まれ。

 

プログラムは次の通り。

・フンパーディング/フィールディング編曲:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲

ヴィドール:オルガン交響曲第5番より第2楽章

・フレイスン:わびしき真冬に

       第1曲 コラール

              第2曲 フーガ

       第3曲 バグパイプ

       第4曲 ララバイ

       第5曲 スノーストーム

ドビュッシー子供の領分より 第4曲 雪は踊る

チャイコフスキー/フィールディング編曲:組曲くるみ割り人形」より

 小序曲~行進曲~金平糖の踊り~ロシアの踊り(トレパック)~葦笛の踊り~花のワルツ

 

 前任の専属オルガニストが任期途中で本国に帰ったため久しぶりのオルガンコンサートとなった。

 フィールディングさんの演奏は初めて聴いたが、オルガニストしては珍しくスケールの大きさよりは繊細な表現を重視する演奏家だと感じた。プログラムもそういう曲を集めたらしい。今年度はCDも発売されると思うのでそれも楽しみだ。

 聴衆も9割ぐらいの入りだった。

札幌交響楽団 hitaruシリーズ定期演奏会 第16回

 令和6年(2024年)2月8日札幌文化芸術劇場hitaruで第16回hitaruシリーズ定期演奏会を聴いてきた。指揮は、友情指揮者の広上淳一、ピアノ独奏は伊藤恵だった。

 プログラムは、

伊福部昭:土俗的三連画

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番

ベートーヴェン交響曲第6番「田園」

 

 1曲目は「土足的三連画」。編成は2-2-2-2-2。伊福部が生まれた道東の厚岸の風景などを曲にしたらしい。

 2曲目は「ピアノ協奏曲第20番」。編成は12-10-8-6-4。流麗でしなやかなモーツァルトだった。多彩な音色を表現しながら全体の構成から外れることがないバランスがとても見事だった。

 3曲目は「交響曲第6番」。編成は14-12-10-8-7。ベートーヴェンでもモーツァルトで見せたバランスが生きている。札響の田園で印象に残っているのは2018年2月3日の名曲シリーズでポンマー指揮の演奏。重厚さとスケールの大きな田園だった。広上さんの指揮はより求心的な中身の詰まった響きという印象だった。聴き慣れた曲をここで音楽が生成していくように聴けたのは広上さんの指揮に札響がよく応えている証だろう。

 終演後のトークで「札響は世界に通用する楽団」という趣旨の話もされていたが、半分は社交辞令だろうが半分は当たっているかもしれない。2011年頃から札響を再び聴き始め、以前に比べて随分と上手くなったと感心していたが、今はもうそんなことも通り越して期待以上の演奏を常にできるようになっている。来シーズンの札響の演奏も楽しみだ。

オーディオ試聴会 26(エソテリック試聴会)

 令和6年(2024年)2月3、4日、エソテリック試聴会に行ってきた。場所は大阪屋6階の試聴室。講師はエソテリックの町田裕之氏、代表取締役社長加藤徹也氏だった。

試聴会での使用機器は次の通り。

○エソテリック

SACDプレーヤー グランディオーソ K1X SE 定価:3,520,000円(税込)

・プリアンプ グランディオーソ C1Xsolo 定価:2,200,000円(税込)

パワーアンプ グランディオーソ S1X 定価:3,300,000円(税込)

・ネットワーク N-01XD SE 定価:2,035,000円(税込)

・プリメインアンプ F-01 定価:1,980,000円(税込)

・プリメインアンプ F-02 定価:1,870,000円(税込)

 

○スピーカー アヴァンギャルド G3 UNO SD 定価:2,585,000円(1本/税込)

・スピーカー タンノイ STIRING-lll LZ 定価:990,000円(1本/税込)

 

 1日目はエソテリックの方の説明。使用スピーカーはアヴァンギャルド、アンプは1曲目だけF-01だった。

 F-01にはオプション電源がある。CDプレーヤーにも追加して音が良かったのでプリメインにも電流増幅のトランスを追加したら音が良くなった。

・クリスボッテ ダニーボーイ ピアノとトランペット

次にC1XとS1Xに切り替え

・リッキーリー・ジョーンズ ネイキッドソングからヤング・ブラッド

バランスがいい

K1XSEは水晶発振器を自分たちで造ったことから始まった。

ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 大植英次指揮 ミネソタ

解像度はあまり高くない。低音は良く出る。

N-01Xに切替。アナログ電源にして音の太さにも拘っている。

ビル・エヴァンス 枯葉

 音が丸い感じがする

 スピーカーのスコーカーの能率は107デシベル。振幅の遅れが少なくなる。スコーカーにはネットワークがない。

・アマンダ・マックブルーム 

 女声ヴォーカルは聴きやすい。ネットワークなしの良さがある。

 プラスチックのホーンは自動車メーカーで作っている。音楽は中域が7割で人の声がその帯域。

伊藤君子 リンゴ追分 

6インチのボイスコイルのウーファー

・ジャズ (ハイレゾ

 サックスはすごくいい。分離もいい 録音のせいか?

・マルメ交響楽団 日本の古楽との融合 Dレンジの広さが聴きどころ

 

 2日目はフリー試聴。タンノイスターリングⅢLZも聴いた。とても聴きやすく音場が広い。アヴァンギャルドのホーン型よりも個人的にはやはりこちらの方が好み。

 

 新製品のプリメインアンプF-01(A級)とF-02(AB級)の比較試聴も行った。こちらは個人的には音場の広さでF-02の方が好み。細かい音のリアリティを求めるならF-01かもしれない。

第658回札幌交響楽団定期演奏会

 令和6年(2024年)1月27日、28日、第658回札幌交響楽団定期演奏会を聴きに行ってきた。

 指揮は今年度で首席指揮者を退任するマティアス・バーメルト。テノールはイギリス出身のイアン・ボストリッジ。ホルンはイタリア出身のアレッシオ・アレグリーニ。

 開演前のロビーコンサートはヴァイオリン奏者:会田莉凡、ヴィオラ:櫨本朱音、コントラバス:下川朗、オーボエ:浅原由香、クラリネット:白子正樹で、プロコフィエフ:五重奏曲より第1楽章、第5楽章だった。

 

 プログラムは、次の通り。

ブリテン:セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための

     Ⅰ:プロローグ、Ⅱ:パストラル(牧歌)、Ⅲ:ノクターン夜想曲)、Ⅳ:エレジー(悲歌)、Ⅴ:哀悼歌、Ⅵ:讃歌、Ⅶ:ソネット、Ⅷ:エピローグ

ブルックナー交響曲第6番

 

 1曲目は「セレナード」。編成は10-8-6-4-3。今回が札響初演。1943年に作曲された連作歌曲でテキストは「夜」にかかわる古今の英詩から採られている。冒頭のプロローグのホルン独奏から曲に引き込まれる。ホルンとテノールの息も合っていた。ポストリッジの歌唱も朗々とホールに響き渡るほど素晴らしく、ジークフリートを歌ってくれないかと思うほどだった。最後の「エピローグ」はホルンがステージ袖に引っ込んだところでの演奏だった。演奏終了後、ホルン奏者が舞台中央に戻る長い静寂の後で拍手になった。ブリテンが指揮したレコードも出ているのでいつか入手したい。

 

 2曲目は「交響曲第6番」。編成は14-12-11-8-7。この曲は2019年のPMFのホストシティ演奏会で、ホルン奏者で有名なラデク・バボラーク指揮による札響の演奏で聴いている。この時のブログを読み返してみたがあまりこれといった印象はなかったが、今回は全く違った。

 普段からあまり聴かない曲ではあるけど第1楽章冒頭からブルックナーらしい響きに聴き入ることができた。バーメルトは曲の形式を聴きながらはっきりとわかるような演奏をするという特長がある、と感じている。その特長が、主題が何度も繰り返されるブルックナー交響曲でもよく発揮されていて、主題の連関が聴いていてわかりやすい。それが聴き慣れない曲でも退屈にせずに聴き入られるのではないかと思った。

 第4楽章に潜んでいるヴァーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」の「愛の死」のモティーフも、ここにそのモティーフがありますという感じでわかりやすく演奏していた。

 バーメルトさんはこれで退任となるが来年2月にまた聴くことができるし、札響との協演もこれでおわりではないのでコロナ禍で指揮者が交替してしまったブルックナー交響曲第8番もいつか聴いてみたい。