グランドオペラ共同制作 「カルメン」

 令和2年(2020年)1月26日(日)、札幌文化芸術劇場hitaruでオペラを観てきた。指揮はエリアス・グランディ、演奏は札幌交響楽団

配役はタイトルロールのカルメンはモスクワ・ボリショイ劇場のアグンダ・クラエワ(メゾソプラノ)、ドン・ホセは城 宏憲(テノール)、闘牛士エスカミーリョは与那城 敬(バリトン)、ホセの幼馴染みのミカエラに嘉目真木子(ソプラノ)、カルメンの仲間役フラスキータに青木エマ(ソプラノ)、同じくメルセデス役に富岡明子(メゾソプラノ)だった。

 演出は田尾下 哲で、今回の公演は「ショービジネス」を舞台にしているという演出が話題になった。プログラムには「闘牛士エスカミーリョはなぜ“SONG”を歌うのか?」とだいした演出家の解説が載っている。闘牛士であるエスカミーリョがなぜ歌手であるカルメンと同じように歌を歌わなければならないのかという疑問から今回のようなショービジネスの世界を舞台にするという発想が生まれた、とある。それに加えて「闘牛士」という牛を公開処刑するという「前時代」の職業で、カルメンたち「ジプシー」も他人族からの蔑称で自らは「ロマ」であり、ロマの女性はカルメンのようなふしだらな女ではないと抗議をしているらしい。そういうことを踏まえた上で「カルメン」という作品は普遍的な物語とされていく、というような趣旨のことが描かれている。

 今回の演出は第1幕の高級クラブから始まり、第2幕はブロードウェイ、第3幕はサーカス、第4幕はアカデミー賞授賞式のレッドカーペットという舞台設定だった。特定時代から離れて21世紀の日本でもコンプライアンス的にもわかりやすい演出を目指したのかもしれないが、逆にその時代ならではの人間の生き様とか身分を超えた恋心というものが判らなくなっていたようにも感じる。

  

 タイトルロールのカルメンを歌ったクラエワとホセの城は見事だった。それに対してエスカミーリョがあまり目立たなかった。ミカエラは安定していた。今回の演出で一番嵌まっていたのはフラスキータ役の青木エマだった。手足が長くスタイルも細身で、出てきたとは歌手ではなくバレリーナの踊り役の方かと思ったが歌っているので歌手だとわかったぐらいだ。カルメンもホセもエスカミーリョもこの演出でなくてはならないという必然性はあまり感じられなかったが、この演出はフラスキータ役の青木エマを生かすためだったのかと思ったぐらいだった。

 

 札響の演奏もリハーサルをかなり重ねたこともありとてもよかったし、指揮も歌手を生かすような指揮振りに感じられた。