METライブビューイング「さまよえるオランダ人」

 令和2年7月14日、札幌シネマフロンティアでMETライブビューイング「さまよえるオランダ人」を観てきた。配役等は次のとおり。

 

指揮:ヴァレリーゲルギエフ

オランダ人:エフゲニー・ニキティン

ゼンタ:アニヤ・カンペ

マリー:藤村実穂子

ダーラント:フランツ・ヨーゼフ=ゼーリヒ

エリック:セルゲイ・スコロホドフ

船の舵手:デイヴィッド・ポルティッヨ

 

 休憩なしの約2時間半の上映だった。演奏についてはあるレベル以上の満足できる演奏だった。普通は気になる歌手が一人二人いるものだがそれは特になかった。ゲルギエフの指揮も引っかかる部分はなかった。

 上映されたスクリーンはスクリーン3で259席、大きさは12.0m×5.0m、普段使われているスクリーン10は112席、大きさは8.1m×3.4mで座席数もスクリーンの大きさも約2倍だった。画面も大きくて見やすく、音も広がりがあった。

 録音は声をよく拾っているので聴きやすい。スクリーンの真ん中から声が聞こえてくるが、舞台の端で歌っていてもカメラでアップにするので真ん中から声が聞こえてきても違和感はあまりない。二重唱の時は二人を映しながら左右から音を出しているのでこれもうまく録っている。この辺りはライブビューイングの経験の豊富さが窺える。

 オーケストラは、舞台の前にオーケストラピットがあるようにスクリーンのやや下の方から聞こえてくるが、籠り気味であまり鮮明な音ではない。声の割にオーケストラの音があまりよくないのは映画館の音響設備のせいかと思っていた。映画館というのは声をよく聞き取れるようにするため、高域と低域をカットしているという話を聞いたことがある。だから映画館でオーケストラを聴くといわゆるカマボコ型の周波数特性になっているのだろうと思っていた。

 しかし、世界中の劇場で配信されている公演のアーカイブを自宅のオーディオシステムで聴いてみるとやはり同じような周波数特性だった。ということはカマボコ型なのは映画館の音響設備のせいではなく録音の問題ではないかということになる。舞台上の歌手の声はマイクでよく拾えても、オーケストラピット全体の音はなかなか拾えないのかもしれない。

 

 今はオペラもオーケストラもライブ録音ばかりになった。オペラの名録音というとショルティニーベルングの指環全曲が挙げられる。デッカのカルーショーの指環として知られている。その頃はモノラルからステレオになったばかりで、まだニーベルングの指環の全曲録音のレコードはなかった。そこにステレオ録音の指環全曲のレコードを出せば当然それなりの需要が見込める。そうすると歌手やオーケストラを拘束するなど多額の費用をかけてセッション録音(ライブ録音の反対語)ができる。そうして録音されたレコードやCDは今でも名録音として素晴らしい音で聴ける。しかし、このシステムも20世紀末に壊れてしまい、今、出てくる大編成のCD、レコードはライブ録音ばかりになった。もう大多数の演奏家を録音のためだけに拘束する費用をかけても元が取れなくなってしまったのである。

 かつてはニーベルングの指環全曲とかベートーヴェン交響曲全集のレコードやCDはそれなりに話題になり、それなりに売れていた。そのために時間と費用もかけられた。誰が録音したかもわかっていた。今、指環全曲やベートーヴェン交響曲全集のレコードやCDはどれぐらいあるのだろう。今でももうどれだけの録音があるのかわからないぐらい数が出ていて、新譜が出てもあまり話題にもならなくなった。一度世に出てしまったものはなくなることはないので、かつてのセッション録音の名演名録音の時代はもう戻ってこないだろう。

東京交響楽団 第76回川崎定期演奏会 

 指揮は飯守泰次郎、ピアノ独奏は田部京子

プログラムは 

ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲 op.43

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調op.37

メンデルスゾーン交響曲 第3番 イ短調 op.56「スコットランド」 

 

久しぶりに観客が入る生演奏の映像を見た。パソコンからUSBケーブルでCDプレーヤーのDACに入れてオーディオシステムで聴いた。音ははっきりとステレオになっていて左からヴァイオリン、真ん中から管楽器とピアノ、右側から低弦が聞こえてくる。昨年、ミューザ川崎で観客席から聴いた音よりは楽器の分離がはっきりしていた。音が溶け合うような感じで反射音が多くなるのはこのホールの特徴だろう。

 

 プロメテウスはどうどうした正統派のベートーヴェンだった。久しぶりの演奏会なので少しは奇を衒うようなところがあるのではとも思ったがそういうところはなかった。

 ピアノ協奏曲第3番も同様で、田部京子さんのピアノは骨格がしっかりとしていて音符一つ一つをはっきりと演奏していく。

 スコットランドも感情に流されることなく一つ一つのフレーズをじっくりと確かめるように進んでいく。

 

観客入りのコンサートが再開されたと言っても、指揮者もソリストも弦楽器奏者も聴衆も全員マスクをしているし、聴衆も1席置きにしか座っていない。まだまだ以前の日常が戻ってきたわけではない。

ようやくコンサートが再開されたので喜びを発散させる様な演奏になるかと予想していた。しかし、そのような感情はマスクの中にでもしまっておくかのような雰囲気だった。むしろ、こんな中でも演奏家全員で一つになって演奏をするという強い意志を感じた。

 

ツイッターのこと 2

 ツイッターで苦手な話題がいくつかある。まずはアニメとマンガ。子供の頃を懐かしんで話すぐらいならいいけど、現在進行のアニメやマンガのことをこれでもかとツイートしてきてTLがそれで埋め尽くされるような時はすぐにフォローを外した。

 それと似ているがアイドルのことをツイートしてくる方。これも昔のアイドルでこういう人がいた、ああいう人がいたという程度ならいいけど、地下アイドルというのか聞いたこともないグループのアイドルがどうとかこうとかということをツイートしてくる方もいた。これはコンサート用のアカウントではなく、政治社会用のアカウントでフォローしていた経済の解説を発信してくれる大学教授の方だった。経済よりもアイドル関連のツイートの方が多くTLがアイドルのことで溢れかえるので結局フォローを外した。

 ペットの話題も苦手だった。犬、猫といったペットは飼ったことがなく、あくまでもペットはペット、人は人としか思っていない私のような者が、家族同然のように飼っていらっしゃる方に対して、知らないうちに失礼なことを書いてしまいかねないのでペットのことには全く触れないようにしていた。

 政治社会用のアカウントでフォローしている方はある程度、実名で顔と名前を出して活躍されている方が多いのでフォロワーが何千何万といる方が多く、ツイッター上でやり取りをするということもないので、フォローを外してもまず先方にはわからないだろう。

 コンサート用のアカウントはいろいろとやり取りをした人も多く、苦手な話題が多いからといって、そういう方のフォローをいきなり外したり、ブロックしたりするわけにもいかなかった。

 コンサートがなくなりツイートに増えてきたのが「◯◯診断」とか「あなたは◯◯です」というクイズなのか占いなのかわからないようなツイート。診断の結果、「あなたは◯◯です」というツイートがきて話が盛り上がることもあるらしいが、わずらわしくてしなかった。

 ツイッターの機能をいろいろと調べてみると特定の用語をミュートする機能があるらしい。これを使用すると苦手な話題も少し減らすことができるかもしれない。

 

 コンサート用とオーディオ用のアカウントは作ってある。コンサートも始まってきたのでそろそろツイッターに復帰しようかと思っている。

コンサートとオーディオに分けたのでうまく棲み分けができるかと思っていたが、迷ったのはソフト(レコードやCDなど)についてツイートする時はどちらにしようかということ。ソフト関連のツイートはどちらにも関わることなので内容次第かなと考えている。

 

 ツイッターではできるだけ議論はしないようにしている。ツイートした方にツイートするときは賛同するか、簡単な質問程度しかできない。もし「今日のコンサートは良かった」というツイートに、「それほど良くなかった」と返信しようものなら、余計なことを言う人だと睨まれ、フォローを外されるかブロックされることになるだろう。ツイッターは「つぶやき」なので論理立てて文章を書くには短すぎる。ブログを引用する形でもいいのだけれど、反論するために時間を割いて長い文章を書くのは面倒極まりない。それよりも自分の印象をまとめて書いた方がずっといい。そのため最初から議論にならないように返信するようにしていたし、それは変わらないだろう。

 

 ツイッターは匿名にしていることから、アカウントを削除する前はできるだけ住所とか誰なのか特定されないようにしていた。下手にオーディオ機器の写真を上げたりすると、使っている機器が特殊なので判る人には判ってしまうことも考え、できるだけ機種名はや写真は載せないようにしていた。コンサートでもどの席にいるか判らないようにしていた。オーディオ試聴会は参加人数が限られるので、そこで写真を撮ったりすると誰なのか目星をつけられることも考慮して写真は載せないでいた。

 しかし、これからツイッターを再開するに当たって誰なのか特定されたらされたでいいかなと思っている。

ツイッターのこと

 4月にツイッターでの発信を止めてから2ヶ月ぐらいが経つ。ツイッターを止めたと言っても2つあったアカウントの内の1つを削除したということではあるが。

 一度10年ぐらい前にツイッターを始めたことがあったが、知名度もない者が何を発信していいのかわからず、直に止めた。

 それが4年ぐらい前、テレビや新聞の情報が信用できなくなり、正しい情報をしっかりと発信している方々をフォローしていくと、ツイッターは発信ではなく必要な情報を得るものだと気付いた。それから積極的にいろいろな人たちをフォローしてツイートするとフォロワーも増えたりして面白かった時期もある。それは主に政治社会についてのことだったのでその中にオーディオやコンサートのことを入れるのはどうしても場違いな感じになった。

 それでもう一つ音楽とオーケストラ専用のアカウントを作ってクラシック音楽、オーディオのことに限った情報発信の場としようとした。

 当初はオーケストラやコンサートホールの公式ツイッターを当初積極的にフォローしたが特に遠征で聴きに行くことでもないとあまり必要がないと知り、これも直にフォローを止めた。

 コンサートの感想をツイートする方々は積極的にフォローした。その中には関東圏からの人たちもいた。関東圏のコンサートの感想をツイッターで読んでいる内に遠征して聴きに行きたくなり、昨年3月にはサントリーホール、7月にはミューザ川崎で聴くことができた。新しい旅の楽しみがまた一つ増えた気がした。

 クラシックのコンサートを聴きに行ってもこの演奏が果してどうだったのか数週間後の新聞評ぐらいしか目にすることがなかったが、ツイッターでは即日か翌日ぐらいには様々な人たちの感想を読むことができた。

 このアカウントはできるだけ音楽とオーディオだけのTLにしたかったが、フォローした方の中には政治社会の問題や個人的には苦手な話題のツイートをする方もいたが、そういうときは特に反応したり口出ししたりしないようにした。

 コンサートが開催されているときはそれでよかったが、コロナ禍でコンサートが開催されなくなるとTLに政治社会問題や苦手な話題で溢れてくるようになった。TLに流れてこないようにするにはフォローを外してしまえばいいのだけれど、相互フォローしていただいているのに一方的にフォローを外したり、ブロックする訳にもいかず、迷った末、アカウントを削除した。

 

 ここにきてプロ野球が始まり、そろそろコンサートも開催されるようなので再びアカウントを作った。前回の反省点として、コンサート関連でフォローした人はオーディオについてまではそれほど関心がないということがわかった。そのため、今度はオーディオ用とコンサート・音楽・日常的なこと用の二つに分けることにした。フォローする場合もTLにどのようなことが流れてくるかよくよく考えてフォローするようにしたい。

 

 今のところはオーディオの方はオーディオメーカーとオーディオ店の公式アカウントをフォローしているだけにしている。コンサート用は札響とKitaraの公式アカウントをフォローするだけにしている。

 すでに観客入りのコンサートが始まっているところもあるが、札幌でも7月1日の弦楽四重奏の演奏会から始まるようだ。札響は8月1日の名曲コンサートから始まる予定でこの日が再開後、初の演奏会になりそうだ。演奏会通いが始まると発信することもあると思うのでフォローする方も徐々に増やしていきたい。

オーディオのこと 22(システムコンポのカタログ)

 前回、スピーカー歴のことを書こうと思い、昔のオーディオ機器をインターネットでいろいろと検索していると、かつてのカタログがオークションに出ているのを見つけ、懐かしくなって買ってみた。

 

 76年に購入したトリオのシステムコンポのカタログには「硬派のコンポ」という宣伝文句が謳われている。奇を衒わない質実剛健なイメージとして売り出そうとしていたのだろう。

 この頃は大手家電メーカーも積極的にシステムコンポを販売していた。パナソニック(この頃は松下電器あるいはナショナル)はテクニクス、三菱電気はダイヤトーン、日立はLo-D(ローディー)、東芝はオーレックス、サンヨーはOTTO(オットー)、シャープはオプトニカというブランドで音響機器を販売していた。音響専門メーカーとしてはトリオ、パイオニア、ビクター、ソニーサンスイデンオン(現デノン)、ヤマハなどがあった。これほどコンポは販売競争が熾烈だった。

 その中でトリオは音響専門メーカーとして定評があり、中身で勝負しようとしたのだろう。それがカタログにも現れている。「システムKライン」というシリーズでシステムコンポーネンツK3MKⅢ、K5MKⅢ、K7MKⅢという三つのラインナップがあった。金額は、レコードプレーヤー、プリメインアンプ、AM・FMチューナー、スピーカー、カセットデッキ、ラックを併せるとK3が約20万円、K5が22万、K7が25万という値段設定だった。購入したのはK3で、10万円台の前半ぐらいで買った記憶がある。

 レコード演奏が終わるとアームが自動的にレストにもどるのがとても楽しかった思い出がある。カセットデッキもラジカセのようにカセットテープを縦に入れるのではなく、斜め横に入れるところは本格的に感じた。ラックもしっかりした造りで安定感があった。当時、スピーカーはフロア型が一般的で今のように小型のブックシェルフというのはほとんどなかった。

 カタログを読んでみると今とあまり変わらないと思うところと、違うなあと思うところがあって面白い。アンプの欄では「ヘビー級の電源トランスと大容量コンデンサーによりピアニッシモからフォルテッシモまで再現」とあるのは今と同じ。レコードプレーヤーでは「ハウリングに強いS字型アーム」とあるがS字型アームがハウリングに強いという話は聞いたことがない。カートリッジは「振動系の質量が小さく」とあるがこれはこの頃、軽針圧のカートリッジがもてはやされていたからだろう。今はボディの剛性とか、出力電圧が高いということがよく謳われる。チューナーはまだバリコンでFM放送のチャンネルセパレーションがすぐれているという謳い文句になっている。スピーカーは「強力マグネット、力強い低域、シャープでクリアな高域」とあるのは今とあまり変わらない。

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トリオ システムコンポKシリーズのラインナップ

 

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トリオK3の説明

 次は82年のパイオニアのカタログ。システムコンポーネント「プロジェクトGシリーズ」で

 G3、G5、G7、G9というラインナップだった。レコードプレーヤー、プリメインアンプ、チューナー、カセットデッキ、スピーカー、ラックを併せた金額は、それぞれG3が約20万円、G5が約24万円、G7が約27万円、G9が約30万円、前述のトリオのシリーズにもう一つ高級なシステムが一つ加わった形だ。

 ラックには横型に加えて縦型のヴァージョンが出てきた。前述のトリオのシスコンの後、「立った、立った、コンポが立った」というテレビCMがあった。その流れから縦型のラックもラインナップに加わったのだと思う。レコードプレーヤーはラックの上ではなく中に入るようになった。

この中で購入したのはG7のレコードプレーヤーとスピーカー。レコードプレーヤーはフルオートプレーヤーになった。ボタン一つでアームがレコードの外溝に移動して演奏を始め、終了するとアームが自動的にレストまでもどってきた。このパイオニアのレコードプレーヤーを購入したのはカートリッジがMC型だったから。アームはストレートになり「共振を少なくし、安定したレコード再生が可能」と書かれている。チューナーはかなりスリムになってきているがまだバリコンだった。プリメインアンプは出力が72Wとあるが電源トランスとかコンデンサーのことは書かれていない。ヴォリュームはスライド式になっている。このシステムで画期的なのは、マイコンが入っていてワンタッチオートプレイが可能になったこと。レコードプレーヤー、チューナー、カセットデッキのスイッチを入れると自動的にアンプのセレクターが電源を入れたソースを選択するようになっていた。逆にアンプ側でソースを選ぶとソース機器の電源が入るというようになっていた。スイッチ一つでいろいろなことができることが売になる時代の始まりだった。スピーカーは前面ネットが外れるようになり3ウェイで一回り大型になった。カタログ上の謳い文句はあまり変わりがない。カセットデッキは、カセットテープを縦に入れるタイプでオートリバースになった。片面が終わると逆回転をして自動的に裏面へ録音再生ができるようなった。ラックにはガラス扉がついている。ヘッドフォン端子がアンプにしか付いていないとガラス扉を開けたままにしておかなくてはならないが、閉めたままでもヘッドフォンが聴けるようにラックにヘッドフォン端子が付いている。

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イオニア プロジェクトGシリーズのラインナップ

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プロジェクトGシリーズ G7の説明

 システムコンポの前はモジュラーステレオといって、レコードプレーヤー、チューナー、アンプが一体になっていた。それがそれぞれ別筐体になりシステムコンポになった。そして、この82年のパイオニアの後はミニコンポの時代になっていく。スピーカーは小型になり、チューナー、アンプ、レコードプレーヤーは次第にコンパクトになっていった。この年、CDが出てきて数年後にはレコードの生産を追い越していく。

システムコンポは高級コンポへの入口だった。例え今は2万3万の機種かもしれないが将来は何十万もする高級機にできるという夢をみることができたのが、システムコンポだった。

 今でも2万円台、3万円台のレコードプレーヤー、CDプレーヤー、プリメインアンプ、スピーカーというのはそれなりの数が売られているし、40年前と違って程度のいい中古品もたくさんある。多くの若い人たちがポータブルオーディオをイヤホンで聴くのではなく、コンポを組むことからオーディオを始めて、将来、本格的なオーディオへの道に進んでもらいたいと思う。

 

 

オーディオのこと 21(スピーカー歴)

 カートリッジ、トーンアーム、レコードプレーヤー、アンプ、CDプレーヤーの使用歴を書いてきた。今回はいよいよ最後のスピーカー歴について書いてみたい。

 最初のスピーカーは、1976年、トリオのシステムコンポネントシリーズのシステムKラインの「システムK3MKⅢ」セットに付いていたJL-3100というスピーカーだった。値段は2本1組38,000円。スペックは、ウーファーが20㎝、ツイーターが5㎝の2ウェイ、再生周波数特性45Hz~20kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル90㏈、大きさは320W×695H×320D、2本1組の重量が26㎏(1本13㎏)、だった。

 使い始めた頃、モノラルとステレオの区別を知らず、正面のオーディオラックの左横に左スピーカー、右真横に右スピーカーを置いていた。要するに90度違う方向から音を聴いていたのである。その頃は単に音が違う方向から聞こえてくると面白いだろうという程度だった。数年が経ち、オーディオ雑誌を読むようになると、スピーカーは正面に平行に置き、スピーカーを結ぶ線を底辺とした二等辺三角形の頂点がリスニングポジションであるという記事を読み、スピーカーをラックの左右両側に置くようにした。その後、モノラル音源のレコードも聴くようになるとモノラル録音とステレオ録音の音の出方が違うことに気付いた。ステレオであれば音源が左右に分かれ、モノラルであれば真ん中に集まる。ステレオというのは一種の音のトリックだと知った。

 次に購入したスピーカーは82年、パイオニアの「PROJECT G7」というシステムコンポーネントのCS-7100というスピーカーだった。値段は2本1組66,000円。スペックはウーファーが28㎝、スコーカーが12㎝、ツイーターがリボン型で通常のダイナミック型よりも高域が伸びているとされていた。再生周波数特性35Hz~40kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル92㏈、大きさは360W×798H×343D、1本の重量が17.5㎏、だった。

 迫力ある音が出るかなと思っていたが、高域と低域がバラバラという印象になった。確かに高域と低域が伸びているが、どうもそれがうまく繋がっていない感じに聞こえた。そのため次にセッティングのため置き台を試してみようと思った。いろいろ試してみると確かに音は変わるけど良いところもあるが逆に悪いところも出てくるという感じでどれも一長一短だった。

 次に購入したスピーカーは86年、イギリス製でロジャースのLS3/5Aというスピーカーだった。値段は2本1組140,000円。スペックはウーファーが10㎝、ツイーターが2㎝のドーム型、再生周波数特性70Hz~20kHz、インピーダンス15Ω、出力音圧レベル82.5㏈、大きさは185W×305H×160D、1本の重量が5.3㎏、だった。パイオニアのCS-7100と比較するとカタログ値はほとんど劣っているが音は段違いに良くなった。小さいスピーカーは前後左右に音場がとてもよく再現できる。オーケストラを聴くと、左からヴァイオリン群、真ん中から管楽器、右からチェロやコントラバスでそれが前後にも音場が広がるように聞こえた。

 この頃、一番欲しかったスピーカーはダイヤトーンのDS-10000というスピーカーだったが2本1組で800,000円(専用台含む)だった。LS3/5Aよりも音場感をより広大にして解像度と質感を良くしたような音だった。何とか無理をして買っていたら、今、真空管アンプを使うことはなかったかもしれないし、レコードもとっくに手放していたかもしれない。

 LS3/5Aはとてもよかったが、10㎝のウーファーでは低音の再現に限界を感じたのでヤマハのNS-W2というサブウーファーを追加した。25㎝のウーファーが1個入っていて、アンプ内蔵型でボリュームが付いていた。大きさは450W×360H×315D、重量は12㎏、100Hz以下を再生するというものだった。しかし、全く別のところから低音だけが出てくるというのは、どうにも不自然で数回試しただけで外してしまった。

 次に購入したスピーカーは88年、ドイツ製でカントンのCT90というスピーカーだった。値段は2本1組540,000円だが、中古を買ったので半額ぐらいだったような気がする。スペックはウーファーが26㎝、スコーカーが12㎝のコーン型、ツイーターが2.5㎝のドーム型、再生周波数特性20Hz~30kHz、インピーダンス4Ω、出力音圧レベル93.4㏈、大きさは310W×900H×327D、1本の重量が24㎏、だった。               

 エンクロージャーがラッカー仕上げでとても綺麗だったが、CT90の音の印象はあまり残っていない。可もなく不可もなくという感じだったような気がする。エンクロージャーがパーチクルボードでネジがすでに何本かバカになっていた。パテで修復しようとしたが、今度は逆に固まり過ぎて狼狽したことを覚えている。

 

 次に購入したスピーカーは91年、ダイヤトーンのDS-V3000というスピーカーだった。値段は2本1組900,000円だが、展示品だったのとCT90の下取りがあったので半額ぐらいだったような気がする。スペックはウーファーが30㎝、スコーカーが7.5㎝のボロンのドーム型でアルニコ内磁型の磁気回路、ツイーターが2.3㎝のボロンのドーム型、再生周波数特性23Hz~80kHz、インピーダンス6Ω、出力音圧レベル90㏈、大きさは400W×900H×388D、1本の重量が53㎏、だった。DS-10000のような音離れのいい音を期待したのだが、真空管アンプとの相性なのか低音が出ないとか、音が平板になるなど期待したような音が出なかった。真空管アンプではなくパワーのあるトランジスターのアンプにしていたらもっといい音で鳴っていたかもしれない。

 

 次に購入したスピーカーは93年、イギリス製タンノイのスターリングTWというスピーカーだった。値段は2本1組440,000円(専用台は2台1組59,000円)。スペックはウーファーが25㎝、ツイーターが25㎜のホーン型の同軸型、再生周波数特性35Hz~25kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル93㏈、大きさは486W×700H×310D、1本の重量が22㎏、だった。これでようやくアンプと相性がいいスピーカーとの組み合わせができたような感じがした。この頃からオーディオ試聴会で他の製品を聴いてもあまりいいとは思わなくなってきていた。そんなことからこれまで2年置きぐらいでスピーカーを買替えてきたが、このスターリングTWは22年間使用することになった。

 このスターリングTWも限界が見えてきたのが、11年にバイアンプにしてからだった。アンプの駆動力にスピーカーが追いついていないという印象だった。オーディオシステムでは入口から出口までの、性能が劣る機器の音がどうしても出てしまう。途中で性能が劣る機器があると周りを良くしても劣る機器に足を引っ張られてしまうのだ。そのためこの頃から次はスピーカーの買替えを考えていた。機種もアンプとの相性からタンノイのアルニコ磁石を使用したモデルにしようと決めていた。

 次に購入したスピーカーは15年、イギリス製タンノイのターンベリー85LEというスピーカーだった。値段は2本1組1,008,000円。中古だったこととスターリングTWの下取り価格が意外と高かったので半額以下で購入できた。中古といっても12年にタンノイ85周年記念モデルとして全世界85セット限定で出たスピーカーで3年ぐらいしか経っていなかった

スペックはウーファーが25㎝、ツイーターが51㎜のホーン型の同軸型、アルニコ磁石、再生周波数特性29Hz~22kHz、インピーダンス8Ω、出力音圧レベル93㏈、大きさは456W×950H×366D、1本の重量が36㎏、だった。アルニコ磁石に拘ったのはウエスギアンプのカタログに「アルニコ対応」を謳っていたからだった。

 音を聴いてみると、やはりオーディオはスピーカーだと実感した。まずピアニッシモが余韻をもってきれいに響く。奥行きもありながら前に出てくるところは出てくるので、前後左右に音場が広がり自然な響きになる。楽音に妙な付帯音がまとわりつかない。高域は澄み、低音もあいまいさがなく軽い躍動感も出てきて音程もはっきりとするようになった。今までも何度かスピーカーを替えてきたがこんなに音が変わるとは思わなかった。前のスピーカーとは格の違いを感じた。

かつてタンノイはクラシック向き、JBLはジャズ向きとされたことがあったが、現行のモデルはもうそんなことはなく、どんな音楽ソースでも聴ける。これはオーディオ試聴会で実際に聴いてもそう思う。

 もし次にスピーカーを購入するとしたら1本200万以上のスピーカーになるだろう。ターンベリー85LEよりもはっきりと音が良くなると実感できるスピーカーの価格帯はこの辺りになるからだ。タンノイならカンタベリーJBLならK2S9900、B&Wなら802D3か800D3、ファインオーディオのF1-12、ソナスファベールのイルクレモネーゼなどがある。もし、これらのスピーカーの中古品などが適価で売られていたとしても、どれも大きさと重量で今の部屋に導入できるかどうかわからない。ブックシェルフでいいスピーカーもあるがフルオーケストラを聴くとなるとやはり物足りない。今のところ、部屋の中に設置できてターンベリー85LEよりも音がいいと確実に思えるようなスピーカーは幸か不幸か今のところ見当たらない。

オーディオのこと 20(CDプレーヤー歴)

 この「オーディオのこと」も20回目になる。今回はCDプレーヤーについて書きたい。CDは82年に初めて発売された。当初、CDはデジタルだから0と1の信号しかないのでプレーヤーによる音の違いはなくなると吹聴されていた。しかし、いざCDとプレーヤーが各メーカーから発売されるとどれも同じCDから再生される音は違っていた。

 CDプレーヤーは、出初めは値段が15万から20万と一般的には値段が高かった。しかし、それから各メーカーとも普及させるために次々と値段が安い機種を出してきた。10万円を切ったというだけで話題になった。そんな中で注目を浴びたのが85年に出たマランツのCD-34で59,800円という値段だった。中身や音は10万円のCDプレーヤーと比較しても遜色のないものだった。今でもメーカーの方は、本来なら10万円以上の製品をこの価格で出したので、これは戦略価格だったと言っている。

初めて買ったCDプレーヤーは86年、マランツCD-45というCD-34の次に出たモデルで、値段は54,800円だった。

 価格競争の結果、値下がりを続けてきたCDプレーヤー市場もCD-34が出てきて打ち止めとなり、逆に高級路線を打ち出すメーカーが出てきた。

 85年にはソニーがデジタル信号を読み取るCDトランスポートとデジタル信号をアナログ信号に変換するDAC(DAコンバーター)を発売して高級化路線を取ると続いてローディー(Lo-D、日立)がDAD-001を出して高級CDプレーヤーはセパレートという流れができていた。

 86年、アキュフェーズがDP-80、DC-81というセパレートCDプレーヤーを出した。セパレート型は筐体が2つになり値段も高いので一体型で音がいいCDプレーヤーが出てこないかと思っていた。

 すると87年、アキュフェーズから一体型のDP-70が出てきたのでこれに買替えた。値段も430,000円と私にとって初めての高級機でCD―45とはスイッチの感触、入出力端子、トレイの出し入れのスムーズさ、重厚感のある造りなどが全く違い、高級機と普及機の差は歴然としていた。

 その後、90年頃からビジュアルも本格的に始めようと液晶プロジェクターとスクリーンを購入した。それに伴いCDプレーヤーもデジタル入力が設けられているアキュフェーズのDP―70V(480,000円)に買い替えた。高級機は下取り価格が高く値段よりは持ち出し金が少なくて済む。そのため次期モデルに買替えもしやすいということがある。70Vのデジタル入力にBSチューナーやLDプレーヤーのデジタル出力を接続し、70VのDACを通すことによってよりいい音で聴こうと考えた。これはそれなりに効果があり、単体で聴くよりも音の厚みや音場の広がりが良くなった。

 それをしばらく聴いていた。しかし、95年頃から3年ぐらいオーディオや音楽から遠ざかっていたときがあった。その後、98年頃に外国盤のレコードの音がいいことに気づくようになって、再びオーディオに戻ってきた。しかし、レコードばかり聴くようになってしまったのでCDはほとんど聴くことがなくなっていった。そのうち映像機器をオーディオシステムから外し、その次にCDプレーヤーも外してしまった。結局、11年には映像機器、CDプレーヤー、LD、VHSテープなどの機器を処分した。

 しかし、14年に知人からCDを1,000枚ぐらい譲り受けることになり、CDプレーヤーを24年振りに買うことに決めた。SACDは聴きたいがあまりお金はかけたくないので最初は10万円程度でいいと思っていた。アナログはなくなっていったがCDは流石に残っていると思っていた。しかし、探してみるとデノン、マランツヤマハの3機種しかないことに驚いた。オーディオ店の展示品で10万円クラスのCDプレーヤーを実際に操作してみると、どうも動作がぎこちない感じがしたし、スイッチの感触など高級機との差は明らかだった。せっかくいただいたCDなので少しでもいい音で聴きたいと思い50万円台のCDプレーヤーを購入することにした。実はこの価格帯の機種が一番多い。デノン、マランツヤマハの最上級機がこのクラスで、アキュフェーズ、エソテリック、ラックスマンがこの価格帯から製品を出しているからだ。店頭で聴いたり、試聴機を借りて聴いたり、オーディオ試聴会で聴いたりした結果、エソテリックK-05X(580,000円)に決めた。CDを譲り受けてから1年後だった。

譲り受けたCDだが、実はあまり聴いていない。CDプレーヤーの出力はRCAのピンプラグかXLRのバランスがあるが、K-05Xはバランス出力の方が出力電圧も高く音がいい。バランス入力があるプリアンプを借りて1週間程度聴いたが、やはりバランスの方が音はよかった。そのため次にバランス入力があるプリアンプを購入するまであまり集中的に聴かないようにしている。

 K-05Xを購入した後、トーンアームをグランツのMH-104Sに替えてから、アナログプレーヤー関連とCDプレーヤーでは価格差が3倍ぐらいに広がり、音質差も広がってしまった。いずれもう少し上のCDプレーヤーにすることも考えたいが、希望としてはDACチップではなくディスクリートタイプの機種にしたいと思っている。アキュフェーズのDP-70と70Vはディスクリートだった。ディスクリートの方が落ち着いた音楽的な表現に長けているように感じる。