オーディオのこと 34(ライブ配信の音質について)

 2020年春頃から世界的にコンサートの中止が相次いだが、その代わりにネットによるライブ配信が無料で見られるようになった。オーケストラのコンサートとオペラを中心に、何度か観たことがある。パソコンからUSBケーブルでCDプレーヤーのDACに接続して聴いたが、レコードやCDと比較するとあまり音はよくなかった。

 ただ、これだけでライブ配信はダメだと決めつけてしまうわけにはいかない。それ以前に録音の違いという問題がある。普段聴くレコードやCDとライブ配信では音楽ソースの録音方法がそれぞれ異なる。

普段レコードやCDで聴くのはスタジオ録音とかセッション録音という録音専用に使われたスタジオやホールで録音された演奏が多い。録音場所として有名なところではデッカのウィーンのゾフィエンザール、EMIのロンドンのキングスウェイホール、アビーロードスタジオ、ドイツ・グラモフォンのベルリン・イエスキリスト教会、RCAのシカゴオーケストラホールなどがある。ウィーン・フィルベルリン・フィルも普段ライブコンサートで演奏しているホールとは違うところで録音をしていた。

 

 それはおおよそ50年代後半から70年代ぐらいまで続いた。それ以降、名エンジニアが相次いで引退し、録音専用ホールが様々な事情から使えなくなるなど録音の環境は大きく変化した。それからしばらくしてCDが出てきて再生環境も大きく変化した。この頃、レコードかCDかとか、アナログかデジタルかという議論が盛んに行われたが、録音環境が大きく変わったという話はなかったように思う。

 

 クラシックで名盤名演とされるのはこのアナログ全盛期の頃がほとんどといっていい。エソテリックで定期的にリリースしているSACDはこの頃の録音ばかりだし、最近、再生機器が増えてきたハイレゾ音源が聴けるMQA-CDも同様だ。

 

 名門オーケストラの常任指揮者が毎月のように新譜を出していた時代はすでに90年代に終焉した。アシュケナージ、ドホナーニ、ムーティ、プレヴィン、マリナー、コリン・ディヴィス、ハイティンクシノーポリガーディナーレヴァイン、小澤などのアーティストたちがメジャーレーベルとの契約を打ち切られるか更新されなくなった。市場ではすでに新しい演奏は売れなくなり新録音が極端に減った。

 

 ベルリン・フィルは2014年に自主レーベルを起ち上げCDやレコードのリリースを始めた。その中で話題になったレコードに2016年に発売されたラトル指揮ブラームス交響曲全集がある。場所はベルリン・フィルハーモニーホール。通常のオーケストラ録音では40本ぐらいのマイクで収録するが、このレコードは指揮者の1メートル後方、高さ4.5メートルの位置に1組(2本)のステレオマイクを設置し、レコーダーを通さずにラッカー盤をカッティングするという「ダイレクトカッティングレコード」だった。珍しくオーディオ誌でも取り上げられ評論家の方は、弦楽器が前に広がり管楽器、打楽器が奥の方に聞こえ、コンサートホール中央の最前列で聴いているようだ」と評していた。しかし、その一方で「レコード再生はコンサートの代替ではなく独自の魅力をもった音楽の世界である」とも書いている。

 60年代にベルリン・イエス・キリスト教会で録音されたカラヤンベルリン・フィルや60・70年代にウィーンのゾフィエンザールでスタジオ録音されたケルテス、ウィーン・フィルブラームス交響曲全集では弦楽器に対して管楽器、打楽器はバランスよく聞こえるようによく調整されて聞こえてくる。

 

 オペラでオーケストラは舞台上にいる歌手や合唱団と客席の間にあるオーケストラピットの中に入って演奏する。客席からは指揮者の頭と奥(舞台側)の奏者がかろうじて見えるぐらいで多くのオーケストラ奏者は見えない。客席の上層階に行けばオーケストラピットの中が見えるようになるが音は遠くなる。オペラ上演では多くの場合、客席で聴くオーケストラの音は間接音が主になる。

 ステレオ録音時代になり録音技術と再生機器が大きく進歩したときに、オペラを歌手も合唱もオーケストラも明瞭な音で録ったら、生演奏よりもいい音が再生できるのではないか、と録音技術者たちが考えるのも当然だった。ショルティウィーン・フィルを指揮してデッカに8年がかりで録音した「ニーベルングの指環」全曲はおそらくそんな中で誕生した。

 

 メトロポリタン歌劇場は2006年から映画館での「METライブビューイング」を開始している。今では世界70カ国、2200館で上映され、10台の高精細映像カメラと5.1chサラウンドによる音響によって臨場感があるオペラを配信している、とウィキペディアには書かれている。

 METライブは毎年11月から翌年5月まで10作品を上映していて、時々観に行くことがある。音については、声はよく録音されているが、オーケストラは高域と低域がカットされているように感じたが、これは映画館の音響機器が原因だと思っていた。映画館ではセリフを聴き取りやすくするために敢えて高域と低域をカットしているということを以前聞いたことがあるからだ。コロナ禍でオペラが上演出来なくなった時、各地の歌劇場で上演されたオペラのアーカイブビデオを無料で配信するようになった。メトロポリタン歌劇場でも配信していたのでパソコンをDACに接続してオーディオシステムで聴いてみた。きっと映画館よりもいい音で再生できると思っていたが、結果は映画館と同じだった。高域と低域がカットされているように聞こえるのは映画館の音響機器が原因なのではなく、もともとの歌劇場の音響がそうだったのだ。他の歌劇場でも無料配信をしていたのでいくつか聴いてみたが同じ傾向の音だった。これが各地の歌劇場の音なのかと思った。

 もはやショルティの指環、メータのトゥーランドット、E・クライバーフィガロの結婚バーンスタインカルメンカラヤンのボエームとばらの騎士クナッパーツブッシュパルジファルの様なオペラの録音が出てくることはもうないだろう。

 

「いい音」というのは生演奏なのか、それとも録音場所も含めて録音技術を駆使して録音され優秀なオーディオ機器で再生された音なのだろうか。同じクラシック音楽を聴く人の中でも二極化が進んでいる原因もその辺りにあると思う。

 生演奏に親しんでいる人たちは、どのような録音であっても生演奏より音がいいことはなく、明瞭に聞こえすぎるのは不自然であり、オーディオ機器に多額のお金をかけることは無駄である、と考えているかのようだ。逆に優秀なオーディオ機器とかつての名盤名録音のソフトを揃える人は現代の演奏家とコンサートには冷淡である。

 

 これから出てくる録音はディスクであろうと配信であろうとライブ録音しかなく生演奏の代用物の様な物にしかならないように思える。鳴り物入りでリリースされたラトルのブラームス交響曲全集であってもそのような音にしかならなかった。オーディオ機器でかつての名演名盤をレコードやCDで聴いている人には興味深い音楽ソースにはならないと思う。

 クラシック音楽の楽しみ方は生演奏を各ホールで楽しむか、かつての名演名盤を優秀なオーディオ機器で楽しむか、というふうになっていくのだろう。

 

◎参考文献

 「クラシック名録音106究極ガイド」 嶋 護 著 ステレオサウンド

 「嶋護の一枚」 嶋 護 著 ステレオサウンド

「クラシックレコードの百年史」 ノーマン・レブレヒト著 春秋社

「だれがクラシックをだめにしたか」 ノーマン・レブレヒト著 音楽之友社

 

札幌交響楽団 新・定期演奏会hitaruシリーズ 第3回

 令和3年(2021年)1月28日札幌文化芸術劇場hitaruで新・定期演奏会を聴いてきた。 

 プログラムは早坂文雄「左方の舞と右方の舞」、ベートーヴェン「三重協奏曲」、ドヴォルジャーク交響曲第9番「新世界より」だった。指揮は松本宗利音、共演は葵トリオ(秋元孝介:ピアノ、小川響子:ヴァイオリン、伊東裕:チェロ)だった。

 

 クロークはまだ利用できないので座席の下にコートを入れておこうと思ったが、事前にホームページを見るとコインロッカーが100円玉を入れて施錠し、空けると返却されるので実質的に無料で利用できます、とあった。それならとコインロッカーにコートやマフラーを入れて身軽にしてホール内に入った。今回は座席の変更はなく、初めて販売当初の座席で聴くことができた。

 hitaruは1階席から4階席まであるが、他の階に行くときホールから一旦外に出てエレベーターかエスカレーターもしくは非常階段で他の階に行かなくてはならないと思っていた。それがホール内の左右の下がっていったところから出ると下の階に辿り付けるということを案内の方に教えていただいた。これなら割と簡単に他の階に移動できる。

 

 1曲目は「左方の舞と右方の舞」。14型の編成。hitaruシリーズは必ず日本人の作曲家の曲が入っている。これは雅楽をイメージした曲でオーケストラの響きが巧に使われていた。

 2曲目は「三重協奏曲」。12型の編成。協奏曲はソロ楽器が加わるがこれはピアノトリオがオーケストラと協演するというもの。ピアノトリオの中でもチェロが活躍していてヴァイオリンとピアノを先導しているという印象がある。チェロがあるフレーズを演奏するとヴァイオリン、ピアノがそれに続く。この葵トリオではチェロが弾いた後、次にヴァイオリン、ピアノはこう弾くだろうということがすぐに想像できるぐらい息が合っていた。札響も聴き映えがするように下支えをしていた。

 アンコールはハイドンピアノ三重奏曲第27番 ハ長調 第3楽章」。札幌では5月にふきのとうホールで葵トリオの演奏会があるようなので、この日の演奏を聴いた方は要注目の演奏会になると思う。

 3曲目は「新世界より」。14型の編成。hitaruで新世界交響曲を聴くのは2年前のプラハ交響楽団以来になる。その時は中域が張り出して高域と低域があまり聞こえないという印象があった。この日の演奏では全帯域に亘って良く聞こえていたので、ホールの「エージング」が進んだのか、反射板が乾燥してきて響きが良くなったのかはわからないけど明らかに音が良くなっていると感じた。

 「新世界」はオーケストラの各パートがソロで目立つ箇所が多い交響曲だが、弦の厚み、木管の妙なる響き、金管と打楽器の迫力とどれをとっても聴き応えがある演奏だった。聴き慣れた曲でも演奏がそれほどでもないと長く感じたりするが、この日の演奏は短く感じた。演奏は折り目正しくきちっと角を出すような演奏という印象だった。札響の楽団員も若い指揮者のために協力的に良い演奏をしようという雰囲気も感じ取れた。指揮者の松本宗利音はこれをスタートラインにこれからどのような深い表現力を身につけていくのかこれからが楽しみである。

第634回札幌交響楽団定期演奏会

 令和3年(2021年)1月22日、第634回札幌交響楽団定期演奏会(hitaru代替公演)を聴きに行ってきた。 

 プログラムはモーツァルト魔笛」序曲、ブルックナー交響曲第8番(ノーヴァク版、1890年稿)指揮者はマティアス・バーメルトが来日できず、大植 英次だった。大植はPMFで札響を指揮することはあったが定期を指揮するのは初めてとのことだった。

 

 1曲目は魔笛序曲。編成は12型。モーツァルトの曲は大ホールの実演で聴くと録音で聴くような鮮明さに欠け物足りないことが多い。この日の演奏はそんなことはなく弦も管も鮮明でバランスが取れていた。

 休憩なしの2曲目はブルックナー交響曲第8番。今シーズンの札響定期の当初の予定ではドイツ・レクイエム(曲目変更になった)と並んで注目の曲だった。hitaruの響きでも11月にはマーラーの5番、12月にはペトルーシュカと大きな編成の大曲で見事な演奏が聴けただけにこの8番も期待が高まっていた。

 冒頭から金管の咆哮が火を噴くようにホール全体に響き亘る。弦楽器も埋もれることなく奏でられていた。ブルックナーらしい重々しいリズムも申し分なかった。

ブルックナー交響曲第8番は名曲で名演も多くレコードもいくつか持っているが、ほとんど聴くことがない。どうにも取っ付きにくいところがある。この日の演奏を聴いて、シューリヒト指揮ウィーン・フィルフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの録音を復習のように聴いてみた。

 シューリヒト盤は聴きやすくウィーン・フィルの巧みな弦が印象的だった。フルトヴェングラー盤は荒野を突き進むような推進力があり、ベルリン・フィルの逆巻くような弦のうねりが印象的だった。この日の大植指揮札響の演奏は金管の咆吼と重量感のある響きと共に広大な空間を表出させていたことが印象的だった。

 今までレコードでもあまり聴いてこなかったブルックナーだがこの日の演奏はこれからのスタンダードになりそうだ。

令和2年(2020年)を振り返る

 12月15日の「こうもり」で今年のコンサートは全て終了したので今年のコンサートとオーディオのことを中心に振り返りたい。 

 今年は1月に札響のニューイヤー、定期、カルメンと順調に進んだが、2月の名曲コンサートを最後に、新型コロナの影響により、コンサートが全て中止になった。3月に聴きに行く予定だった東京芸術劇場の読響と横浜みなとみらいホールの日フィルのコンサートも中止になった。ただ、この時の旅行代金とコンサート代は全額もどってきた。

 もどってきたお金でトーンアームのアクセサリーを買った。トーンアームには、アームを上げ下げするアームリフターやアームを留めておくアームレストが付いているが、これをアーム本体から外して、別売のリフターとレストをレコードプレーヤーの天板に取り付けるというアクセサリーだった。要するにアームから余計なものを取り外すと音が良くなるというものだ。普通のアームはそう簡単には外せないが、グランツのアームは取り外した方が音は良くなるということからこのようなアクセサリーを用意している。外してみると確かに音が良くなった。今年買ったオーディオ機器というとこれぐらいかもしれない。

 また一生手に入らないだろうと思っていたフルトヴェングラーブルックナー交響曲第7番の仏盤も手に入れることができた。このレコードはどこのレコード店でも15~20万ぐらいはするのだが、海外のサイトから3万円程度で購入できた。

 しかし、こんなことをしていたのも3月一杯ぐらいまでで4月に非常事態宣言が出て街中のデパート、地下街など、どこの施設も一斉に休業になるとツイッターも一旦、休止することにした。その後、PMFを始め、5月、6月、7月のコンサートの中止が発表されるようになった。6月新国立での「ニュルンベルクのマイスタージンガー」も中止になった。
5月にはガソリン代が安くなったので、稚内など道北にドライブ旅行に行く予定でいたが非常事態宣言が解除されず急遽中止にした。

 5月末に非常事態宣言が解除され、街中もデパートや地下街が開店すると人出も戻ってきた。コンサートやスポーツ観戦は7月に開催されるようになり、その頃、ツイッターに復帰した。

 7月に東京で感染が拡大する中、東京に行った。講演を聞くためとイベントに参加するためだったが、イベントが中止になったので、浅草で初めて寄席を観た。

 札響のコンサートが再開されたのは8月1日の新hitaru定期だった。それからは札響主催の公演は中止されることはなくなった。最初の頃は入場するにもかなり時間がかかったが、次第にスムーズに入場できるようになった。

 コンサートは再開されたが、オーディオ試聴会、オーディオショウは全国的に軒並み中止になった。オーディオの情報をネットで探していたら各地のオーディオ店がオーディオ機器の試聴動画をアップしていた。試聴会はなくても各メーカーからは新製品が出ていたのでそれらの動画を見てどんな製品なのか見当をつけていた。

 8月末には5月に行く予定だった稚内と道北ドライブ旅行にも行ってきた。割引がありかなり格安で泊まることができた。

 9月、10月は延期になっていたコンサートが相次いで開催されたことからコンサートの日程が詰まりコンサートを聴くのに忙しかった。

 11月には3月に行けなかった横浜みなとみらいホールで神奈川フィルと読響を聴くことができた。横浜みなとみらいホールは来年1月から2年近く改修期間になるので改修前に聴くことができてよかった。みなとみらい、中華街、山下公園港の見える丘公園、そして小田原城と箱根にも行くことができた。

 新国立劇場の引越し公演も11月のバレエ「眠れる森の美女」、12月の喜歌劇「こうもり」を無事に観ることができた。

 Kitaraが11月から改修期間に入ったので、11月と12月の札響定期はhitaruで開催された。今までhitaruの音響はKitaraが100とすると70かよくても80ぐらいかなと思っていたが、代替ホールとしてかなりいいところまで聴ける感じがしたのは収穫だった。ホールの音響がオープン当初と比較して変わってきたのか、札響の使い方が良くなってきたのかはわからないが良い方に変わってきたことは喜ばしい。

 今年の札響のコンサートのベスト3を選ぶとしたら1月札響定期のバーメルト指揮のベートーヴェン交響曲第7番、11月希望のシンフォニーの秋山和慶指揮ベートーヴェン交響曲第8番、12月札響定期の広上淳一指揮、ゲルハルト・オピッツのピアノによるブラームスピアノ協奏曲第1番とペトルーシュカだろうか。

 来年の1月から3月までは札響主催コンサート(定期2回と新hitaru定期2回)とチケットが取れればだが北海道二期会蝶々夫人ぐらいになりそうだ。札響定期会員は継続するとしてhitaru定期と名曲シリーズはどうするか迷っている。遠征して聴きに行くとしたら芸劇と新国立と東京オペラシティで聴けたらと思っている。

 また、オーディオではプリアンプが更新されたら、今まで避けてきたレコードやCDの試聴記も書いてみたい。避けていたのは、オーディオ機器が更新されると以前はこうだったが機器を買替えると違って聞こえた、というように書くのが煩わしいからだ。どれぐらいの頻度でできるかわからないが、いろいろと試してみたいと思っている。

新国立劇場制作 ヨハン・シュトラウスⅡ世 オペレッタ「こうもり」

 令和2年(2020年)12月15日(火)、札幌文化芸術劇場hitaruでオペラを観てきた。指揮はクリストファー・フランクリン、演奏は札幌交響楽団

 

 配役は、アイゼンシュタインはダニエル・シュムッツハルト(バリトン)、ロザリンデはアストリッド・ケスラー(ソプラノ)、フランクはピョートル・ミチンスキー(バス・バリトン)、オルロフスキー公爵はアイグル・アクメチーナ(メゾ・ソプラノ)、アルフレードは村上公太(テノール)、ファルケ博士はルートヴィヒ・ミッテルハマー(バリトン)、アデーレはマリア・ナザロワ(ソプラノ)、ブリント博士は大久保光哉(バリトン)、フロッシュはペーター・ゲスナー(俳優)、イーダは平井香織(ソプラノ)だった

 演出にハインツ・ツェドニクとあり、どこかで聞いた名前だと思ったら、ブーレーズが指揮した1980年のバイロイト音楽祭ニーベルングの指環でローゲとミーメを演じていたあのツェドニクだった。この指環はパトリス・シェローの演出で、1988年にニーベルングの指環全曲の最初の映像ソフトとして出ていた。

 

 こうもりの生演奏は初めてだが、映像ソフトではドミンゴ指揮とC・クライバー指揮の盤を見たことがある。ドミンゴ盤はガラパフォーマンスがあり、ヘルマンプライがジプシー男爵の曲を歌っていた。また登場人物だけではなくシャルル・アズナブールが出てきてシャンソンを歌うという賑やかなガラパフォーマンスだった。また、フロッシュに喜劇役者を配して指揮者のドミンゴと絡んだりしていた。フロッシュが牢に入っているアルフレードに仕事は何かと尋ね、国立歌劇場のテノールだと誇らしげに答える、という場面があった。これはドミンゴ盤でもあるが、ドミンゴ盤ではその後にフロッシュが「かわいそうに」と言って小銭を渡すという場面があった。

 C・クライバー盤はもっと特にガラパフォーマンスもなく、すっきりとした演出で盛り上がる盤面は「雷鳴と電光」でパーティーの参加者がドミノ倒しのように倒れるというところだった。今回、ドミノ倒しはなかったが「雷鳴と電光」は演奏され、東京シティバレエ団が参加して踊っていた。

歌手はそれぞれの役を見事に歌っていたと思うが、中でもロザリンデ役のアストリッド・ケスラーがとてもよかった。高音までよく出ていて聴き応えがあった。

 札響の演奏はとくに気になることなく伴奏に徹していた。座席が1階席の通路の直ぐ後ろで、劇を観るにはとてもいいが、オーケストラピットの音を聴くには前過ぎるのかあまり鮮明に聞こえてこなかった。

こうもりは他のオペラ作品とは違って、とても雰囲気が楽しく、アドリブもあり、特別な演出も可能な作品だ。それは映像ソフトでも十分に伝わってくる。それが札幌の劇場で生演奏でも観られるようになったことを思うと感激も一入だ。やはり一人でも多くの方に観てもらいたかったので1席おきの座席配置で半分にも満たない定員だったのはとても残念だった。

オーディオのこと 33(NHK地上波の音)

 11月にNHKのEテレで「希望のシンフォニー」と題して地方のオーケストラがベートーヴェン交響曲を1曲ずつ演奏しそれを放送するという番組があった。札響は第8番でそれは札幌コンサートホールKitaraの客席でも聴いた。

 オーディオシステムとビジュアルは切り離しているが、なんとかオーディオシステムでも聴きたいと思い、まず内蔵HDDからBDにダビングした。そして、使わなくなっていたBDレコーダーを押し入れから出して、光音声出力をCDプレーヤーの光音声入力に接続してCDのDACを使用して聴いてみた。地上波の音はこんなに悪かったのかと愕然とした。ホールで聴いた音の半分も伝えていない。

 せっかく各地のオーケストラの音の比較をしようと思って聴いてみたが、とても聴き比べが出来るような音質ではなかった。これならYouTube配信をパソコンからUSBで同じようにDACに接続する方が音はいい。

 また以前クラシカ・ジャパンがCSで放送されていたときに無料放送でベートーヴェン交響曲全集が放送された。この時の演奏を録画したBDがあったのでそれもかけてみたが、地上波はもちろんYouTubeよりも音がよかった。「希望のシンフォニー」も来年、BSで放送されるようなので、こちらを録画した方が音は良さそうだ。

 

オーディオのこと 32 (ここ10年のオーディオシステムの変遷)

 以前、オーディオ機器ごとの変遷を書いたが、今回はここ10年のオーディオシステムの変遷をまとめてみたい。というのも来月、新しくプリアンプを買替えて10年かけて更新してきた一区切りとしたいからである。

 

 10年前(2010年)、当時のシステムは次のとおり。

カートリッジ  オルトフォン SPU Royal A 

トーンアーム  SME 3010R 

レコードプレーヤー トーレンス TD-321markⅡ 

MCトランス  ウエスギ U・BRОS-5L 

フォノアンプ  ウエスギ UTY-7 

プリアンプ   ウエスギ U・BRОS-12 

サブソニックフィルター ウエスギ TAF-1 

パワーアンプ  ウエスギ UTY-8 

スピーカー タンノイ スターリングTW  

 

 ここから時系列で購入歴を書くと次のようになる。

11年 (高域用)パワーアンプ ウエスギ U・BRОS-30markⅡ

13年 カートリッジ フェーズメーション PP-300

14年 カートリッジ フェーズメーション PP-Mono

 〃  レコードプレーヤー ラックス PD-171AL

 〃  トーンアーム オルトフォン 212S

15年 SACDプレーヤー エソテリック K-05X

 〃  スピーカー タンノイ ターンベリー85LE

16年 インシュレーター 特許機器 ウインド・ベル

17年 MCトランス フェーズメーション T-500

 〃  カートリッジ フェーズメーション PP-2000

18年 フォノアンプ ウエスギ U・BRОS-220

 〃  トーンアーム グランツ 104S

19年 超音波式レコード洗浄機 カーマスオーディオ KA-RC-1

21年 プリアンプ ウエスギ U・BRОS-280R(予定)

 

 トータルではそれまでの2倍ぐらいにはなると思うが、それまで使用していた機器は下取りや買取りに出しているのでそのまま出費になっているわけではない。10年以上前まではかなりの金額をレコードに費やしていたがそれをオーディオに振り向けた。15年と18年がかなりの出費になっているようだが、SACDプレーヤーとトーンアームはローンを組んで買っている。

 

 10年かけて更新してきた理由は、オーディオシステムというのは弱いところの音が出てしまうからだった。きっかけは、最初のバイアンプにするためパワーアンプを1台追加したところから始まる。これによりスピーカーの役不足が顕著になった。確かに音は良くなったが、スピーカーの物足りなさも同時に出てきた。

 それで次はスピーカーと思ったが、これ以上となると一気に2倍ぐらいの値段になる。これは数年がかりでお金を貯めるしかないと思っていたら、25年使用し続けたレコードプレーヤーが壊れた。買替えと同時に現在の新しい製品に更新していくことも考え、トーンアームも新しくした。

 次こそスピーカーと思ったらCDを大量に譲り受けることになりSACDプレーヤーを新しく買わなくてはならなくなった。手持ち資金がないのでローンを組んだ。そして突然、程度のいいタンノイのアルニコスピーカーの中古が出てきて、下取りも予想以上に高かったので直ぐに買替えた。スピーカーを替えたので、少しでもセッティングを良くしようとバネ付のインシュレーターを購入した。

 これで一段落かなと思っていたら、出口が良くなると入口の役不足感が出てきた。それまでSPUに拘ってきたが、これも今までとは違う新しいメーカーのカートリッジにすることにした。カートリッジが良くなるとフォノアンプの役不足感が出てきたのでフォノアンプを替え、カートリッジとフォノアンプが良くなるとトーンアームの脆弱さが音に出てきたのでトーンアームを替えた。

 そして、今はプリアンプの役不足感が出てきているように感じる。具体的には左右の分離、周波数レンジの狭さ、音の立体感、それと大入力が入ったときの歪みというところに不満がある。これも他の機器が良くなったために出てきた不満だ。

 新しいプリアンプはその辺りが改善されていると思う。無事にプリアンプを導入して音が落ち着いてきたらソフトの試聴記も書いてみたい。