都道府県魅力度ランキングのこと

 毎年、都道府県と市町村の魅力度ランキングが発表されている。民間のシンクタンクの調査なのだが、年々注目度が高くなり22年はテレビ番組で生放送もされた。毎年、上位よりも最下位がどこになるのかということで話題になる。22年も北海道が1位で、最下位は佐賀県茨城県は最下位を脱した。

 順位が下の県出身の芸能人の方々がマスコミやSNSやネット番組などでいろいろと話題になっているが、少し違うことも感じているのでブログを書くことにした。

 

 まず、「魅力がある」、「魅力がない」、というのはすぐ感情的な反応を起こしやすいので少し冷静になってこの調査はどういう調査なのかということを見ることから始めたい。 

 地域ブランド調査というのは「ブランド総合研究所」という民間会社が行う調査で、この会社は「地域ブランドおよび企業ブランドの研究とコンサルティングを行う専門企業」とホームページに書かれている。

 この「地域ブランド調査」はホームページによると、「全国約3万人の消費者からの回答を集める調査で、2006年から(都道府県は2009年から)毎年実施しています。各都道府県と市区町村の魅力度やイメージ、観光・居住・産品購入の意欲など、110項目(2019年実績)にわたって徹底的に調査をしています。」と書かれている。

 調査方法について異論があるだろうが、唯一絶対ではなくても信頼度は高い調査だと思っている。「魅力度」という言葉から様々な憶測が働いてしまうのであくまでもこれは「ブランド」になっているかどうかという調査と割り切った方がいい。なんとかの工業生産高が一位だとか、交通の便がいいというようなことは調査項目には入っていない。それはこの「ブランド総合研究所」が調査しなくても政府統計や不動産会社が調査している。

 

 これらのことを踏まえた上で今一度「都道府県魅力度ランキング」を見ると、上位の都道府県から北海道と沖縄県を除くと、上から京都府、東京都、大阪府、神奈川県で21年は順位が少し落ちたが20年まではこの下に奈良県が入っていた。この5つの都府県に共通しているのは日本史の各時代を象徴する場所があるということではないだろうか。奈良県には飛鳥・奈良時代法隆寺や大仏がある東大寺京都府には平安時代清水寺寝殿造りの平等院、神奈川県には鎌倉時代の大仏や寺、また京都府に戻って室町時代金閣銀閣大阪府には安土桃山の天下統一のシンボル大阪城、そして江戸時代と現代の首都東京、というところがランキングの上位であり、それが「ブランド」になっているということだと思う。

 由緒ある神社仏閣や城は各地にあるが、その時代を象徴しているかどうかがブランドとして認知されるかどうかにつながっていると思う。

 そこに北海道と沖縄県が加わる。これは青森県から鹿児島県までの他の都府県とは似ていないということが大きいと思う。似ていない(つまりは違いが大きい)ので認知されやすくイメージされやすいから順位も高くなるのだと思う。

 この上位9県(奈良県は今年8位、修学旅行が減ったからだろうか。福岡、長崎も日本史と大きく関わっている)を除いて10位以下の点数を見てみると、10位が約33点、47位は約13点となる。この20点の間に38の県が入り平均すると約0.5点の差で順位が付けられていくことになる。10位から47位までは順位が僅差でしかない。

 

 ここで住んでいる北海道のことについて書いてみたい。北海道はなぜこんなに点数が高いのか、また「市町村魅力度ランキング」で札幌、函館、小樽、富良野が並みいる大都市に伍してトップ10に入っているのはなぜなのかを少し考えてみたい。

 先に北海道と沖縄県を除いて、ブランド力があるのは日本史の時代の中心になった都府県と書いた。その視点から北海道を見ると明治、大正、昭和を象徴するイメージがあるような気がする。市町村魅力度ランキングでは、21年は一位が札幌、二位が函館、四位が小樽、十位が富良野となっている。函館の五稜郭ができたのは幕末だが、それはペリー来航後の「夜明け前の明治」であるし、札幌時計台は明治初期の開拓使時代の建築、小樽運河ができたのは大正12年、富良野はドラマ「北の国から」の影響もあり、高度経済成長期前の「昭和」のイメージが残っている。このように過去の「近現代」のイメージが残っているので沖縄よりも少し点数が高くなっている要因かもしれない。

 

 また先に「北海道と沖縄は違いがわかりやすい」と書いたが、このことをもう少し考えてみたい。数年前に初めて神戸に行ったときのこと。神戸空港から三宮に向かうためポートライナーに乗った。そして、ポートライナーから外を見た途端、一瞬「えっ!」と思ったが、そうかここは雪が降らないのかと思い直した。ポートライナーは札幌地下鉄南北線のようにパンタグラフではなく案内軌条式で側方から電気をとりゴムタイヤで走行する。「えっ!」と感じたのは雪が降ったら多分動けないだろうというようにしか見えなかったからだ。北海道なら冬の寒さと雪対策で南北線のようにシェルターを設置するなどの対策をしなくてはならない。

 また、幹線道路から少し入ると狭くて曲がった道が多い。そんな道を歩いていると雪が降らないとこれでいいんだなあと感心することがある。それに比べると北海道の街の道路は広くて直線的だ。その方が除雪車は短時間で除雪ができる。

 狭くて曲がった道路は別に神戸という街の特徴になっているわけではなく「内地(本州、四国、九州のこと)」の街の道路はそれが普通で北海道だけが違っている。広くて直線的な道路は北海道の特徴にはなっても、狭くて曲がった道路は普通の街の道路であって特定の街の特徴にはならない。

 寒さや雪対策でしていることは北海道の特徴にはなるが、そうでないところがその街の特徴になるということはまずない。これが「北海道は違いがわかりやすい」と書いた理由でもある。

 

「市町村ランキング」では今まで1位になった都市は札幌、函館、京都の3都市しかないらしい。京都の方なら1位になっても「当然」という気持ちがあるかもしれないが、札幌が1位になっても札幌市民は「なぜ」とか「どこが」と思う人が多いように感じる。というのも我が街にはこれがある、というのが札幌にはないからだ。人気のテーマパークもないし、港もないし、城もないし、歴史的な名所旧跡もない。そのため札幌に住んでいる人は何もないと思っている。

 住んでいる人は普段の生活圏の情報と、テレビなどのメディアに出てくる他都市の選りすぐりの情報を比較してしまうため「何もない」と思いがちだ。札幌に住んでいる人には当たり前すぎることが他都市の人には魅力的に感じるということが、おそらく多いのだろう。

 

 北海道が魅力度ランキング1位を道民がどう受け止めているかということにも様々な違いがあるような気がする。「道民」を次の4つに分けてみた。

 ①生まれ育ちが北海道で道外に出るのは旅行、出張程度。

 ②生まれ育ちは北海道だが、進学、就職、転勤、結婚などで道外に住んだことがあ  り、その後再び北海道に住んでいる。

 ③生まれ育ちは北海道だが、進学、就職、転勤、結婚などで今は道外に住んでいる。

 ④生まれ育ちは道外だが進学、就職、転勤、結婚などにより今は北海道に住んでいる。

 北海道が魅力度ランキング1位ということで一番喜んでいるのは③の人が多いように思う。北海道出身のテレビなどに出ているタレントが良く自慢しているところを目にする。他には④の人も①の道産子には気付かない北海道のいいところを感じていると思うことがある。②の人はやっぱり北海道が良いという人と北海道はここがダメという人に分れるような気がする。特にこの後者のタイプは①のような道外に住んだことがないような人に対して上から目線でものを言ってくる人にしばしば出会うことがある。

 

 生まれも育ちも北海道の私にからすると「北海道が魅力度ランキング1位」と聞くと、他の都府県に旅行する楽しみがなくなるのではないか、と感じてしまう。もちろん実際に行けばそんなことはないからそんな順位なんて関係ないともいえるが、それはこの「魅力度」とは違うような気もする。

 この「魅力度」はその都道府県の地域の中に何があるかというより、○○県という名前にブランド力があるかどうかが大きいと思う。名古屋に「八丁味噌」という「ブランド品」があるが、「北海道産大豆使用」と書かれた八丁味噌が少し高い値段で売られていた。東京でも「北海道産生乳使用」など「北海道産○○使用」という表記をあちこちで目にする。他の都府県もあることはあるが「北海道」が圧倒的に多い。

 この調査は、上の順位よりも最下位に近い順位の県がいつも注目され、その県出身の方が○○県にもこんないいところがあると話すのが定番になっている。しかし、この調査は順位の下の県に魅力があるかないかではなく、イメージのしやすさを調査しているような気がする。札幌でいうと「時計台」の写真を見せると全国の人が「札幌」と言ってくれるし、「ニッカウヰスキー」の看板を見せると「すすきの」と言ってくれる。実はこんな場所は全国的にそんなに多くはない。お城の天守閣の写真を見せて○○城と言うのは地元の人は直ぐにわかるだろうが、全国の人が誰でもわかるとは限らない。それはお寺でも神社でも同じだ。わかりやすい清水寺金閣がある京都、大仏がある奈良と鎌倉(神奈川)が上位に入っているのもそのためだと思う。

 

 「都道府県魅力度ランキング」はマスコミの取り上げ方がおかしいと思う。下位の県に「魅力がない」のではなくその県をイメージできるものが少ないと捉えた方がいいと思うし、そういう調査だと思う。「住んでいる県に魅力がないことはない」と感情的に捉えずにもう少し冷静になってこの調査の目的を「正確」に捉え直した方がいいと思う。