~創立60周年記念~第640回札幌交響楽団定期演奏会  

 令和3年(2021年)9月11日、12日 第640回札幌交響楽団定期演奏会を聴きに行ってきた。Kitara改修後、初の札幌定期演奏会でもあり、札幌交響楽団60周年の記念演奏会でもある。

 

 プログラムはシューベルト交響曲「未完成」、ブルックナー交響曲第7番だった。当初、ブルックナー交響曲第7番ではなくブラームスの「ドイツ・レクイエム」だったが、合唱団の練習がコロナ禍の中で準備ができないため変更になった。指揮は札響首席指揮者のマティアス・バーメルト。これまではなかなか来日ができず昨年1月以来の指揮となった。

 

 編成は14-12-10-8-7。今までと少し違うなと思ったのはコントラバスで、前列が3台、後列が4台なのだが後列が迫りの上に乗っていた。札響の弦楽器奏者が迫りの上に乗って演奏するのはKitaraでは初めてのような気がする。

 

 1曲目は「未完成」。前は交響曲第8番で最近は第7番になったと思ったらパンフレットには番号が書かれていなかった。ホルンはいつもの左側ではなく右側に配置されていた。

 第1楽章では、冒頭の慎重かつ抑制された旋律から明るく歌う旋律、そして突然のクライマックスと激しい展開など、異なった部分を流れが途切れないように演奏していた。

 第2楽章は弦の激しさと神秘的な木管の旋律が交錯する楽章だが、これも各部分が離ればなれにならず結びつき会うように演奏されていた。同じ旋律がクラリネットオーボエで奏される。クラリネットは次を予感させ、オーボエは前の旋律を受け止め応えるように演奏されていた。最後にフルートで奏されるときには楽章の終わりを予感させていた。

 互いに異なる部分をより際立たせようとすると繋がりが途切れがちになる演奏もあるが、旋律の美しさとダイナミックスを見事に融合していて、とてもドラマチックな演奏に聞こえた。

 

 2曲目は「交響曲第7番」。弦楽器はいつも通りのドイツ式配置(左から第1、第2、チェロ、ビオラ、右奥にコントラバス)だが、金管がいつもと違い、左からトランペット4本、トロンボーンバストロンボーン、チューバ、ワーグナーチューバ4本、ホルン5本という配置だった。

 第1楽章冒頭のトレモロから壮大な空間が創出されることを予感させる。低弦の主題が舞い上がるように始まりヴァイオリンに受け継がれる。木管は透明感をもって響き、金管は壮大な空間を創出していた。

 第2楽章は弦の厚みがある響きがとても良かった。ワーグナーチューバが素晴らしい響きを奏でていた。最後のシンバルとトライアングルも大きな音量にもかかわらず全体の響きの中に嵌まっていた。

 第3楽章では金管と弦のバランスが見事だった。緻密でオーケストラが一体となった響きに圧倒された。

 第4楽章では木管の軽やかな響きと叙情的に歌う札響らしい弦の響きがよかった。

 

 ブルックナー交響曲では金管楽器の咆吼が弦楽器をかき消すようなことが往々にしてあるが、この時の演奏では、弦楽器の音を金管が包み込むような空間を創っていて響きが重奏する鳴り方になっていた。これはホルンと主旋律を奏でるヴァイオリン群を離した効果かもしれない。

 

 札響がブルックナー交響曲第7番を演奏したのは2013年5月17,18日の第559回定期演奏会尾高忠明指揮以来で、17日の演奏をホールで聴いている。SACDにもなっているが「札響もブルックナーを「無難」に演奏できるようになったなあ」という程度の印象しか残っていない。

 その他には2017年11月にヘルベルト・ブロムシュテット(当時90歳)の指揮でブルックナーの7番を聴いている。ドイツのオーケストラらしい低音が充実した演奏を期待していたが、これもあのエリシュカさんのフェアウェルコンサートの直後ということもあったのか、とくによかったという印象は残っていない。

 この日のバーメルト札響は、それらの演奏を凌駕しているだけではなく、レコードで聴ける名演に比肩するほどと言ってもいい。前日にフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのレコードを聴き、きっとバーメルト札響はこれに勝るとも劣らない演奏をしてくれると期待したら、本当にその通りの演奏だった。

 

 札響の60周年にこれだけの演奏を聴けたのはとても感慨深い。「札幌交響楽団50年史」によると75年に正指揮者に就任した岩城宏之は就任のあいさつで「札響を日本のクリーブランド管弦楽団にしたい」という抱負を語った、とある。これはジョージ・セルの手腕によって「地方」オーケストラから世界的な楽団に成長したクリーブランド管弦楽団を目標にするという宣言だった。

 ジョージ・セルの弟子となりクリープランド管の常任指揮者になったのがマティアス・バーメルトで、そのバーメルトが札響を指揮して目の前でこれだけ素晴らしい演奏をしてくれた。

 札響の初代常任指揮者の荒谷正雄は戦時中にフルトヴェングラーベルリン・フィルの演奏を聴き、ドイツの終戦後、日本ではまだ戦時中に帰国し、北海道、札幌の音楽振興に尽力して札響の初代常任指揮者に就任し札響の礎を築いた。

 60周年ということでこれらのことと、この日の演奏の素晴らしさを重ね合わせると本当に感慨深いものを感じる。

 

 最後に改修後のKitaraの音響についてだが、やはり変化しているのではないだろうか。改修前はすこし低弦やホルンの響きが少し散漫になるというか、言い方を変えるならやわらかく包まれるような響きになるところがあった。それが改修後は各楽器が明瞭に聞こえながらも、うまく調和して鳴っているように感じた。コントラバスは後列を迫りの上に乗せた効果もあるのか、低音がより重量感をもって響いてくる。より好ましい響きになったと思う。