オーディオのこと 19 (アンプ歴)

 最初のアンプはシスコンを買ったときで、トリオのKA-3300というプリメインアンプだった。出力が35W(8Ω)、重量は7.5㎏、トーンコントロール付でフォノイコライザー内蔵という仕様だった。

 その後、オーディオにもいろいろと興味が出てきたらもっといいアンプを使いたくなった。5年ぐらい経ち、次に買ったのがサンスイのAU-707G Extraというアンプだった。出力が110W(8Ω)、重量は15.0㎏だった。トーンコントロール、フォノイコライザーの他にMCトランスも内蔵されていた。サンスイらしいブラックパネルのアンプだった。それまでのトリオのアンプよりも3倍ぐらいの値段なので音もそれなりに違った。しばらくアンプのことは考えなくてもいいかと思っていた。

 それから2年ぐらい経ち、スピーカーをロジャースのLS3/5Aに替えた時、どうも音がおかしいことに気付いた。音楽が盛り上がるところでリミッターがかかったようになるのだ。どうもおかしいと思っていろいろと調べてみるとスピーカーの能率とアンプの駆動力(必ずしもワット数ではない)に関係があると知った。LS3/5Aは能率が82.5㏈、インピーダンスが15ΩでサンスイのAU-707Gでは十分な駆動力が得られなかったのだ。

 そのため、急遽、アンプも買替えることにした。購入したのは当時、セパレートアンプでは一番安かったハーマンカードンのプリアンプhk825とパワーアンプhk870を2台用いてモノラルアンプのようにして使用した。hk825はフォノイコライザーとMCカートリッジの昇圧機能(多分ハイゲインイコライザー)を内蔵していた。パワーアンプのhk870はオーソドックスなステレオアンプで出力は100W、重量は12.5㎏だった。セパレートにしたのはこれからのグレードアップを考えてのことだった。この経験からアンプとスピーカーはセットで考えなくては駄目だと知った。

 ステレオアンプを、結線を工夫して「モノラルアンプのように」して使っていた。「ように」というのは完全に出力が2倍になるわけではなかったからだ。それを2倍にするためにクオードのモノラルコンバーターを買い足した。hk825に内蔵されているフォノイコライザーやMCカートリッジの昇圧機能はあまり性能が良くなかったので、その他にフォノアンプにオーディオクラフトのPE-5000、MCトランスにハイフォニックのHP-T7も追加して使用していた。そのためいつの間にか機器が増えてしまった。

 それを一気に解消しようと2年後、ハーマンカードンhk825から当時の国産の最高級プリアンプであるアキュフェーズのC-280Lに買替えた。MCカートリッジの昇圧はトランスではなくヘッドアンプが内蔵されていた。ヘッドアンプ、フォノイコライザーアンプ、ラインアンプが左右別々のユニットに入っていて電源も独立していて重量も18㎏もあった。それまでのアンプがおもちゃではないかと思うほど高級感があり、これはもう一生ものだと思った。

 次はパワーアンプだが、同じアキュフェーズにするつもりでいた。その頃のアキュフェーズのステレオパワーアンプではP-500Lがあった。ある試聴会でアキュフェーズP-500LととサンスイB-2301Lの比較試聴をしていた。そこでの試聴ではサンスイの方がよかったのでアキュフェーズにすることは少し考え直した。

 そんなとき、あるオーディオ店で自作マニアの方が製作した真空管アンプがあった。それを借りて自宅で試聴したところ今まで聴いたことがないような音で音楽が活き活きとなった。いろいろと考えた結果、せっかくここまで来たのだが、方針転換をして真空管アンプを購入することにした。

 そして、ハーマンカードンhk870に買替えてから3年後、パワーアンプを上杉研究所のU・BRОS-11に買替えた。これは出力30Wのモノラルパワーアンプで、松下製のEL34(6CA7)をパラレルプッシュプルとして使ったアンプだった。これで活き活きとした音が聴けると思ったが、期待した音どころか、ハーマンカードンパワーアンプよりも音が良くなかった。この時は目の前が真っ暗になった気がした。オーディオには高価なものを買っても結果が伴わないということもあるとつくづく思い知らされた。しかし、何とかセッティングなどを工夫して使っていた。

 C-280Lに買替えてから4年後、上杉研究所からUTY-7というフォノイコライザーアンプが発売された。電源部と増幅部が別筐体になっていて、MCトランスやヘッドアンプは内蔵していない。他に上杉研究所ではU・BRОS-5というMCトランスも出していた。これならC-280L内蔵のヘッドアンプやフォノイコライザーよりもいいのではないかと思った。しかし、C-280Lは入力インピーダンスが20KΩと低くUTY-7は47KΩ以上の入力インピーダンスでなくては真空管が回路設計通りの動作をしなかった。そこで一生ものと思っていたC-280Lを諦めプリアンプも上杉研究所のU・BRОS-12にすることにした。これはフォノイコライザーもMCトランスも内蔵していないラインアンプだった。それで聴いてみるとこれ以上はないと思っていたC-280Lよりも音が良くなっていた。特にレコードの音は良かった。この時からアンプは全て真空管アンプになった。

 それでもまだあの活き活きとした音に到達していなかったのでU・BRОS-11に買替えてから3年後、パワーアンプをUTY-8に買替えた。出力はU・BRОS-11と同じ30Wで出力管はKT-88のプッシュプルのモノラルアンプだった。これはとても良かった。かなり無理をして買替えた甲斐があった。音が立体的になり、躍動感や迫力も出てきた。

 真空管アンプインピーダンス(交流抵抗)が高く、スピーカーのインピーダンスに合わせるため出力トランスが付いている。スピーカーのインピーダンスにより4Ω、8Ω、16Ωとある。0Ωはスピーカーのマイナス側と接続しプラス側をそのどれかと接続する。その頃使用していたタンノイのスターリングTWは公称インピーダンスが8Ωだった。そのため8Ωに接続していたが、オーディオ誌である評論家が「一番上のインピーダンスでトランスを目いっぱい使った時のほうが音はいい。4Ωでは使わない巻線がでるので、トランスが遊んでしまう。」という趣旨の記事を読み、16Ωでしばらく聴いていた。

 しかし、どうも合点がいかないので上杉研究所の方に直接訊いてみた。すると「8Ωではパワーはあるが歪みが少し増える。4Ωではパワーは落ちるが歪みが減る。16Ωではパワーが落ち、歪も増える。だから通常の家庭であれば歪みが少ない4Ωがいい。」と教えていただいた。それから4Ωに接続して聴いた。そして雑誌の記事もあてにならないことを痛感した。

 もう20年ぐらい前になるが、次に購入したのはクリーン電源。クリーン電源といってもいろいろな種類があるが、上杉研究所で出していたU・BRОS-22という製品は家電製品に使用されているマイコンなどから家庭用電源に入り込む500Hz以上の高周波をカットするというものだった。今は様々な製品が出ているがコンセントも含め電源もやはり重要だと思う。

 14年前にオーディオ誌「管球王国」の上杉佳郎氏のアンプ製作記事にアナログレコード再生用のTAF1という真空管式のサブソニックフィルター(不要な低域をカットするフィルター、ローカットフィルターともいう)の製作記事が掲載された。フィルターといっても真空管を使用し電源も入る本格的な製品だった。このフィルターを通すと低音再生とは関係がないバタバタしたウーファーの振動(いわゆる混変調歪み)がなくなるため、低音の切れ込みがよくなり全体的にも澄んだ音になると紹介されていた。これは効果がありそうだと思い、すぐに完成品を申し込んだ。数か月後に製品が届き接続すると、記事通りの効果がありハウリングもなくなった。

 9年前に、上杉研究所の創業者である上杉佳郎氏が前年に亡くなり、もしかしたら上杉ブランドの製品がなくなると思っていたことと、新たにバイアンプ用として上杉研究所のパワーアンプU・BROS―30MkⅡを購入した。バイアンプにしたいと思ったのは、上杉佳郎氏のアンプ製作記事に、バイアンプ駆動をするとツゥイーターとウーファーの干渉がなくなるなど音質の向上に効果があるという解説を読んでいたからだった。その時バイアンプ駆動をする際の接続と調整方法を、上杉研究所を引き継いだ藤原伸夫氏にとても丁寧に教えていただいた。

 もしかすると、なくなるのではないかと思っていた上杉アンプも、上杉研究所を引き継いだ藤原伸夫が製作したアンプが次々と出てきた。2年前に試聴する機会があり、音質が向上していることが確認できた。そのため26年使用してきたフォノイコライザーアンプUTY-7をU・BRОS-220に買替えた。UTY-7は入力の切り替えのみでシンプルな構造だったが、U・BRОS-220はステレオとモノラルの切り替え、カートリッジを消磁するミュート機能、バランス入力、MCトランスが内蔵されていた。それらを考えると値段はそれほど高くなっていなかった。UTY-7でも十分よかったのだが、モノラルカートリッジを使用するときはモノラルポジションの方がやはり音はいいし、今までは少し音が滲んでいたこともわかった。

 このような経緯で今のアンプはフォノイコライザーアンプU・BRОS-220、プリアンプU・BRОS-12、サブソニックフィルターTAF-1、ここから出力が2系統に分かれて高域用パワーアンプU・BRОS-30markⅡ、低域用パワーアンプUTY-8となった。

 オーディオシステムというのはどこかに弱点があるとそこの音があぶり出されてくることがある。例えば、レコードプレーヤー、フォノアンプ、プリアンプ、パワーアンプ、スピーカーというコンポーネントでオーディオシステムを組み合わせたとする。それぞれが値段も含めて同等の性能であれば特に何も感じないのだが、周りを良くしていくと後回しになったコンポの性能の劣った部分が出てくる。例えば、経験した中で言うと、レコードプレーヤーをグレードアップするとカートリッジが物足りなくなり、カートリッジをグレードアップするとアームが物足りなくなった。また、パワーアンプを追加してバイアンプにしたときはスピーカーの限界がはっきりした。

 今、プリアンプで使用しているU・BRОS-12はもう28年が経つので以前はなくてもよかったが今では必要になってきた機能も欲しくなってきた。CDプレーヤーには音質的に有利なバランス入力がない。リスニングポジションでの音量調節ができない。上杉研究所にはU・BRОS-280というプリアンプが新しく出ていて、これはバランス入力もリモコンによる音量調節もできる。また、これが肝心なのだが、U・BRОS-12よりも明らかに音がいい。次はプリアンプの買替えになるだろう。