ディスクのこと 3(バイロイトの第九考)

 第九のレコードというとこれを置いて他にないという程、発売されたときから第九の決定盤とされてきたのが「バイロイトの第九」である。1951年7月29日、バイロイト祝祭劇場における、フルトヴェングラー指揮、バイロイト祝祭管弦楽団、ソプラノ:エリーザベト・シュヴァルツコップ、アルト:エリーザベト・ヘンゲン、テノール:ハンス・ホップ、バス:オットー・エーデルマン、バイロイト祝祭合唱団の演奏で、戦後のバイロイト音楽祭復活の際に演奏された録音である。

 独盤WALP1286の説明書には通し稽古(プローベ)の時の写真が載っている。それを見ると、コントラバス10、チェロ12、ヴィオラ14が写っているのが確認できるのでおそらく18型の編成と思われる。ソリスト4人は正面の木管楽器群の前に座っている。フルート3(ピッコロ1)、オーボエ3、ファゴット4(コントラファゴット1)、ファゴットの後ろにホルンがいて、その後ろに合唱団という配置になっている。

 因みに1942年のベルリン・フィルを指揮した第九の第4楽章の最後5分ぐらいの映像があるが、それではコントラバス8で16型の編成で、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分れる対向配置となっている。ソリストは打楽器の後ろで合唱団の前で歌っている。

バイロイトの第九は通常の編成よりも大きかったことが窺える。また、今では一番多く見かける第1、第2、チェロ、ヴィオラの順に弦楽器を並べる(ドイツ式配置)のは戦後になってフルトヴェングラーが最初に始めたらしい。

 

 次のドイツ語の文章はWALP1286のドイツ盤の説明書に書かれているもので、このレコードが出てきた経緯が書かれている。

「DOKUMENTARISCHE AUFNAHME AUS  DEM FESTSPIELHAUS BAYREUTH ANLÄSSLICH  DER  WIEDERERÖFFNUNG  DER  BAYREUTHER  FESTSPIELE  AM  29.  JULI  1951・HERGESTELLT  NACH  EINEM  IN  PRIVATBESITZ  BEFINDLICHEN TONBAND ・ VERÖFFENTLICH  MIT  GENEHMIGUNG  VON  WIELAND  UND  WOLFGANG  WAGNER  UND  FRAU  ELISABETH  FURTWÄNGLER」

 ドイツ語の先生に頼んで次のように和訳をしてもらった。

「1951年7月29日にバイロイト音楽祭が再開された際のバイロイト祝祭歌劇場でのドキュメンタリー(記録)録音。個人が所有していた録音テープを基に製作。ヴィーラント・ワーグナー、ヴォルフガング・ワーグナー及びエリーザベト・フルトヴェングラー夫人の許可を得て公表(販売)」

 ドイツ盤の説明書に書かれている文章を紹介したが、イギリス盤、フランス盤、アメリカ盤にも同様に書かれているが、「個人が所有していた録音テープを基に製作(HERGESTELLT NACH EINEM IN PRIVATBESITZ  BEFINDLICHEN TONBAND)」に当たる文章が省かれている。

 このレコードは55年11月に最初イギリス盤が販売され、ドイツ盤の販売は56年だった。ヴィーラント・ワーグナーとヴォルフガング・ワーグナーリヒャルト・ワーグナーの孫で戦後のバイロイト音楽祭の総責任者である。二人とも当然この第九の演奏を会場で聴いていただろう。その二人がこのレコードはバイロイト音楽祭再開の記録として許可してレコード化されることになった、ということのようだが、テープの提供者までは書かれていない。

 

 今年はフルトヴェングラー生誕135年ということでCDやレコードがリマスターされて出てくるようだ。CDはバーゲン価格だしレコードも海外の初期盤程高くはないのでこれからフルトヴェングラーを聴いてみたいという方にはお薦めだと思う。