オーディオのこと 44(カートリッジの針圧)

 カートリッジには適正針圧というものがあり、その範囲内で使用するようにメーカーでは推奨している。その範囲内でどこがいいのか、軽い方なのか重い方なのかそれとも中間なのか試聴してみても一長一短なのでなかなか決めきれないことが多い。

 カートリッジの針圧は軽い方がいいと主張していたのが、オールホーン型のゴトウユニットで「原音再生」をしていた高城重躬氏(1912-99)である。高城氏の意見を抜粋すると「どんな複雑な音溝も完璧にトレース(溝を正確にたどること)するためには、軽針圧でかかるカートリッジでなければならない」というものだった。いろいろなカートリッジを使用していたが、1g以下でしかかけなかったらしい。また軽針圧であれば針先もレコードも摩耗しにくいとも主張されていた。

 それに対して適正針圧の範囲で重い方がいいとしていたのがオーディオ評論家の上杉佳郎氏(1942-2010)だった。ステレオサウンド78号「上杉流 オーディオ作法心得」の中で次のように書いている。「適正針圧が1gから1.5gだったら・・・重い方の1.5gで使ってください、といいたい。・・・無難に安定した状態で聴きたければ重い方に合わせることを薦めます。レコードを大事にする上でも、重い方に合わせてカートリッジのトレース能力を安定させた方が結果としては傷つけることもないと考えます。」

 

 このように大変オーディオに精通した方々が、全く違う主張をされている。いろいろな情報をネットなどで拾ってみても結局は聴いて自分で判断したらいいぐらいのことしか書かれていない。聴いて判断しようと、まず軽い方で聴いてみると、やわらかく聴きやすい音になりきつい音はしない。しかし聴いていくと何となく物足りなさも出てくる。次に重い方で聴いてみると、輪郭がはっきりしてきて解像度が高くなる。しかし聴いていくときつい感じが気になる。このように「聴いて判断する」といっても一長一短で簡単に判断がつかない。レコードによって使い分けるといっても最初の内は面白いかもしれないが毎日となると煩わしくなってくる。無難なところで真ん中あたりにするかとなってしまう。

 

 それが最近ようやく解決した。先日、少し音が甘い感じが気になってきて、これはそろそろアンプの限界が見えてきたかなという気が何となくしていた。

 また、レコードをかける前に針先の埃を掃除しても、片面をかけるとそれなりにゴミも付いてくる。それが演奏途中でゴミが付着することにより歪んだ音になることがよくあった。ふと針圧が軽くなっているのではと思い、カートリッジの針圧を針圧計で測ってみると1.83gだった。使用しているフェーズメーションのPP-2000は適正針圧が1.7g~2.0gなのでほぼ真ん中辺りだが、少し軽い感じがしたので1.99gまで針圧を重くした。そうするとそれまで少し甘く感じていた音は、輪郭がすっきりとしてDレンジも広くなり鳴りっぷりも良くなった。かつては、きついと感じたところもなく、音が甘かったのはアンプの所為でもなかった。それとゴミが多少付着しても音にはあまり影響がなくなった。

 これで自分なりの結論は出せたように思う。「カートリッジは適正針圧の範囲内で重い方にした方が安定したトレースができて音も安定する。」