オーディオのこと 51(私のオーディオ歴 2018~21)

 18年4月、2010年末に上杉佳郎氏が亡くなられ、元ビクター、フェーズメーションにいた藤原伸夫氏が上杉研究所を継いだ。もう新製品が出ないと思っていたが、フォノアンプ、プリアンプ、パワーアンプ、プリメインアンプの後継機が出てきた。なかなか試聴する機会がなくどんな音なのか気になっていた。あるところでフォノアンプU・BRОS―220とプリアンプ(ラインアンプ)U・BRОS―280を試聴する機会があり、聴いてみると明らかに音が良くなっていた。同じ傾向で音が良くなっているのでわかりやすい。

 フォノアンプU・BRОS―220はMCトランスが内蔵されバランス入力があり、回路もNF型からCR型に変更され、増幅部も左右に独立していた。また、ステレオとモノラルの切替えスイッチ、MCカートリッジを消磁するミュートポジションが設けられているなど欲しかった機能も付いていた。プリアンプU・BRОS―280は左右の増幅部が独立になりリモコンで音量調整と入力切替えができるようになった。内部構造の充実がそのまま音の良さとして表れていた。

  この時にスピーカーケーブルをウエスギのU・BRОS-SC1に替えた。クセがなく長時間聴いていても聴き疲れせずに気持ちよく音楽が聴けるようになった。

 7月、何となくレコードの音が細いと感じてきたのでシェルリード線を取替えてみようと思った。いろいろと考えてリード線の他にシェルも取替えてみた。それまではフェーズメーションのCS―1000というシェルを使っていた。新しくイケダのIS-2Tというシェルを購入した。少しは音が変わったが思い通りの音にはならなかった。

 9月に北海道で地震があり、全道が停電になるブラックアウトがあった。実はこの時家の下敷きになるのではないかというぐらい長く揺れた。震度5強だったが、幸い、家に被害はなくオーディオ機器もウインド・ベルのおかげなのかスピーカーの位置が少しずれただけだった。そんなことがあり、欲しいものは買いたいときに買っておこうとフォノアンプU・BRОS―220を購入することにした。

 フェーズメーションのT―500とU・BRОS―220の内蔵トランスを比較すると内蔵トランスの音の方がよかった。トランスはどうしても高域特性が落ちるので低容量のケーブルを使わなくてはならないらしい。トランスの性能が同等なら信号経路が短い内蔵トランスの方が有利なのかもしれない。まだ買って間もないT―500だがこれでお役御免となった。MCトランスというのは小さいがなかなか置き場所に困る。ケーブルは長く引き回せないし、下手なところに置くとハムを拾うこともある。

 モノラルレコードを聴くとき、モノラルカートリッジを使用していてもフォノアンプはモノラルポジションの方がいい。音に安定感がある。MCカートリッジの消磁は定期的にした方がいい。30秒ぐらいで済む。何となく最近音が鈍いなと感じたら消磁をすると針先の動きが軽くなるのか解像度が少し上がる。

 U・BRОS―220は背面にコンセントが装備されていなかった。今まではプリアンプだけをクリーン電源に接続して他はプリアンプまたはフォノアンプの背面コンセントに接続していたが、それを全部やめて全てクリーン電源に直接接続することにした。

 10月、季刊「analog」誌61号でトーンアームの特集をしていた。トーンアームの特集記事は珍しく雑誌では初めて見たかもしれない。アームにはストレートとS字、ショートとロング、スタティックバランスとダイナミックバランス、オフセット角があるアームとリニアトラッキングアームなどのオフセット角がないアーム、という違いがある。当時使用していたアームはオルトフォンの212SでS字、ショート、スタティックバランス、オフセット角有りのアームだった。カートリッジもフォノアンプもグレードアップしてくるとトーンアームの役不足感が出てきたので同じオルトフォンのダイナミックバランス型にしてみようかと考えていた。そこでアームのことを上杉研究所の藤原さんに相談したところ、アームのことならこの方に訊いて欲しい、と言われグランツの濱田さんを紹介していただいた。濱田さんにいろいろなタイプのアームの違いを訊ねると「ショートとロングではロング、ストレートとS字ではストレートの方がそれぞれ音はいい。スタティックとダイナミックは音の違いはない。オフセット角がないピュアストレートはトラッキングエラーの影響が出る。トラッキングエラーがないリニアトラッキングアームは構造が複雑で音質に影響する。」という趣旨のことを聴いた。グランツではS字タイプにしているのは汎用性を持たせシェル交換ができるようにしているとのことだった。

 その後、オーディオフェアがあり、いろいろなアームを聴いた。フェーズメーションでは試聴会でグランツのアームを使用している。フェーズメーションの方にダイナミックバランスのアームのことも訊いてみた。ダイナミックバランスは常に針をレコードに押し付けているので音に伸びやかさがなく、機構が複雑なため故障も多いらしい。

 雑誌の記事ではスタティックバランスよりダイナミックバランスの方がレコードの反りに強く音がいいと書かれていることがあるが、必ずしもそうとは限らないようだ。この辺りのことは、グランツのカタログやホームページ、季刊「analog」誌70号の濱田氏のインタビューに書かれていることでもある。

 結局、グランツのSタイプを購入することに決め、ローンを組んでグランツのMH-104Sに買替えた。グランツではMH―4Sというヘッドシェルも出している。ステンレスの削り出しでシェルとプラグが一体となっている。アームに1つ付属しているのだが、値段が高いのでステレオカートリッジだけに使いモノラルカートリッジはイケダのシェルをそのまま使うことにした。

 しかし、付け替える時に妙なことがあった。グランツのシェルは差し込むときにスムーズに入ってネジを回せるのに、イケダのシェルは少し押し込まないとネジを回せるところまで入っていかなかった。プラグ部分を比較してみるとグランツのシェルの方が1㎜ぐらい長くなっていた。音は出るので通常の使用では特に問題はないのだが、シェルのプラグ部分は規格が決まっていると思っていたので疑問に思ってグランツの濱田さんに訊いてみた。すると「シェルには特に規格はなく、グランツでは昔からこの規格でシェルやアームを製作してきた。」という回答だった。ステンレスの削り出しなので51,700円(税込)とシェルとしては破格の値段だが、やむを得ずグランツのシェルをもう一つ購入することにした。濱田さんとのやり取りの中でレコードプレーヤーに付属しているゴムシートは音の立ち上がりが鈍るので使用しない方がいいというアドバイスもいただいた。また、グランツの取扱説明書には「針飛びがしなければインサイドフォースキャンセラーは外してもよく、その方がよりクリアな音質が聴けます。」と書かれている。

 グランツのアームではシェルがアームと接する部分から針先までが5㎝であればオーバーハングが取れるようになっている。この調整にはノギスを使用すると便利だ。ノギスを使うとアームの高さもかなり精確に調整できる。これでアームを調整するプロトラクターNGが必要なくなった。

 このシェルの話を、当時参加していたフェイスブックのオーディオ関連のグループに投稿したところSMEのアームを使用している方から「そんなことより接点のクリーニングをしろ」などと返信してきて、意味がわからず無視していたら急に語気を強めた文面でSMEのアームはこんなに素晴らしいという内容の投稿をしてきた。おそらく、「何故SMEを使わずグランツのアームなんか買ったのか」ということを言いたかったのだろう。以前、SMEを使用していたがそれよりもオルトフォンの方がよかったし、そのオルトフォンよりもグランツの方がずっといいと投稿してもよかったのかもしれないが、こんな人を相手に時間費やすのは無駄と思いやめた。気味が悪くなったので投稿を全部削除して退会した。

 

 19年10月、ナスペックで扱っているカーマスオーディオのKA-RC-1という超音波式レコード洗浄機を購入した。これまで20年以上に亘り中古の輸入盤を購入してきたのでレコードの洗浄にはとても苦労していた。レコードはどんな状況で保存されてきたかで汚れ具合も違ってくる。タバコのヤニ、油汚れ、カビ、細かい塵など汚れにもいろいろある。そのためカビ取り剤、中性洗剤、消毒用アルコール、レイカのバランスウォッシャーなどを使ってきた。どれも一定の効果はあったと思うが、乾かすのに時間がかかり一日で洗える枚数はせいぜい10枚程度だった。

 レコードクリーナーには2種類あり、超音波式とバキューム式がある。超音波式は眼鏡店によく置いてあるクリーナーと原理は同じで超音波を当てて埃を振動させてレコードから剥がすというもの。バキューム式は専用のクリーニング液を塗布してバキュームで吸い取るというものである。某レコード店ではバキューム式を推奨していて購入されたレコードは全てバキューム式クリーナーで洗浄してから送っていると謳っている。そのレコード店からレコードを購入したことがある。盤面はとてもきれいだが針を通してみると埃がかなりこびり付いてきた。バキューム式といっても完全ではないらしい。

 超音波式もすでにあったが高額なうえに専用液を使用するためランニングコストも結構かかり、一度に一枚しか洗浄できない。そのため効果があるのはわかっていても購入は諦めていた。そこにカーマスオーディオの超音波式クリーナーが出てきた。一度に30㎝LP2枚と25㎝盤1枚、17㎝のドーナツ盤1枚が洗浄できる。価格も203,500円(当時税込み)でそれまでのクリーナーの半額以下で水道水が使用できるのでランニングコストもかからない。早速購入して1日約五十枚、一月半で約二千枚のレコードを全て洗浄した。レコード洗浄に合わせてレコード袋も新しくするためナガオカから静電気を除去する効果がある内袋とのりしろがない外袋を購入した。のりしろがない外袋はラックに収まりがよく数枚余計にレコードが入るようになった。ただのりしろがないので出し入れをするときに引っかかったりするとすぐに裂けてしまうことがある。

 

 20年3月、コロナ禍でコンサートが相次いで中止になり代金が戻ってきた。そのお金でトーンアーム本体に取り付けられているアームリフターとアームレストを外し、別売りのリフターとレストに付け替えることにした。グランツのカタログにも余分なものはない方が歪み音は減ると書かれている。アームの可動範囲のなかでレストとリフターの位置決めをしなくてはならず少し戸惑ったがアームがスムーズに動く場所を見つけ位置決めができた。

 機器をシンプルにすると音がすっきりとすることがよくある。今回もおおよそそれぐらいの音の違いだろうと想像していたが、それよりも遙かに音が良くなった。余計な共振がなくなったせいか左右の分離が良くなり低音がはっきりと聞えるようになった。

 10月、長らく待っていた上杉研究所の新しいプリアンプU・BROS-280Rが発表された。前作のU・BROS-280は増幅部が左右独立したが、280Rはそれに加えて電源とヴォリュームが左右独立になった。納期は翌21年の1月だったが、様々な事情で延期され4月の初めに納品されたが、ヴォリュームに初期不良があり結局完成品が届いたのは4月中旬だった。

 聴いてみると今まで聴いたことがないほど素晴らしかった。音場も左右、前後に定位し同じ方向から聞こえてくる楽器が混濁しなくなった。弦楽器、管楽器、打楽器やパイプオルガンなども「自然な響き」でなり、逆にいうと高域や低域に特長を持たせるような作られた感じが全くしない。280Rでは左右前後上下に音場感の拡がりと共に定位する。280では左右に音場が拡がる感じだったが、あまり奥行き感がなく音場感は平面的だった。280Rではそれに前後の奥行き感が出てきて音場が立体的になった。値段も980,000円(税別)と高額だが、音も内容もそれに見合うだけのものになっている。

 

 11年にバイアンプにしてから約10年かけて次々とオーディオ機器を更新してきた。音も満足できるものになったのでこれで一応の区切りとしたい。