オーディオのこと 54(ラインケーブル)

 「ラインケーブル」はソース機器とアンプ、またはプリアンプとパワーアンプの間に使用するケーブルで、トーンアームとMCトランスまたはフォノアンプの間に使用するケーブルは「フォノケーブル」と呼ばれている。フォノケーブルはアース線があったりプラグの形状が違っていたりするので、ここでは区別しておくことにする。

 プラグにも2種類あり、RCAプラグとかピンプラグ(ここではRCAに統一)と呼ばれる一般的なケーブルとXLRプラグあるいはキャノンプラグ(ここではXLRに統一)と呼ばれる端子がある。

 先月、久しぶりにラインケーブルを全て取替えたのでそのことを書いてみたい。ラインケーブルを取替えると音が良くなると一般的に知られるようになったのはCDプレーヤーが普及してきた80年代半ば頃だと思う。その頃、オーディオクラフトというメーカーのケーブルを使用していたことを憶えている。

 その後、純度の高い銅線を使用した高価なケーブルが出てくるようになった。一般的な無酸素銅(OFC)の純度は99.90%(3N)だが、99.9999%(6N)、99.99999%(7N)、そして遂に99.999999%(8N)まで出てきた。それに加えて銅だけではなく銀も使用されるようになってきた。当然値段もうなぎ上りになり、数千円程度だったケーブルもあっという間に1万円/mを超え、遂に10万円/mというケーブルまで出てくるようになった。今はもっと高いものもある。

 オーディオ店に薦められて8Nのケーブルをしばらく使用していたことがある。しかしどうにも音がよくない。そんなときにステレオサウンド147号(2003年夏号)に上杉佳郎氏(故人)、三浦孝仁氏、柳沢功力(いさお)氏というオーディオ評論家3氏による「SS流オーディオケーブル放談」という記事があった。その中で上杉氏が「(ラインケーブルは)低抵抗、低容量、低インダクタンスであればよい」という趣旨の発言をしていた。自分が使用しているアンプの製作者が言うのだからと、それ以来高価なケーブルを使用するのを止め上杉氏の薦める条件にあったラックスマンのケーブルを使用してきた。音も素直でクセがないことからケーブルはこれでいいかなと思ってきた。

 

 それが1ヶ月ほど前にオーディオ店のYouTube動画にアコースティックリバイブ(以下アコリバ)の社長さんが出演していた。その中で弊社のケーブルは高いと言われるが、被膜に安い塩化ビニールではなく高価なテフロンを使用するなど全く手を抜いていないからだ、と説明していた。また、XLRケーブルも何十万もする高価なケーブルでも2芯ケーブルのシールドをアースに接続しているが、弊社のケーブルは3芯ケーブルでシールドは別にしている、と話していた。

 使用しているラックスマンのXLRケーブルを見ると2芯ケーブルとシールド線になっていて被膜も塩化ビニールだった。それでXLRケーブルだけアコリバにしようと同社の「XLR-SOLID」というケーブルに替えた。すると低音の解像度が上がり音場の見通しがよくなった。

 これに気をよくしてフォノアンプとプリアンプの間のRCAケーブルにも使用することにした。ラックスマンのケーブルには方向性を示す矢印があったがアコリバのケーブルには矢印がなく、片側のプラグにシールド線が接続されているという目印があるだけだった。説明書には試聴してどちらにするか決めて下さい、と書かれている。どちらを出力側(フォノアンプ側)にするか入力側(プリアンプ側)にするかアンプメーカーに訊いても他メーカーのケーブルのことまでわからないと言われた。そこで、最近話題のチャットGPTに質問してみた。概ね、シールド線を接続しているプラグは出力側(フォノアンプ側)に接続した方がいいとの答えで、ツイッターのフォロワーの方々の回答も同様だった。

 フォノアンプとプリアンプの間に接続すると音が良くなっていたので、プリアンプとパワーアンプの間にも使用することにした。

  全部ラックスマンのケーブルからアコリバのケーブルに交換してみると想像していた以上に音が変わった。オーケストラを聴くとトゥッティ(全奏)がスピーカーの幅一杯に響きが満たされたような音になる。それでいて奥行きも拡がり各楽器の分離もいい。特に低域のコントラバスの音が良く聞こえる。楽音と一緒に出てくる「ズン、ズン」というリズムをとるコントラバスの音が右側奥の方から聞こえてくる。

 一昨年、プリアンプを替えたときにも左右前後に音場が拡がったが今回のケーブルの交換はそれが更に鮮明になった感じがする。音が奥に引っ込んだようにも感じたが、歪がなくなり音量を上げてもうるさくなくなった。ヴォリュームも一目盛ぐらいあげられるようになった。今まで不鮮明にしか聞こえなかった楽器の音もはっきりと聞こえてくるようになった。それなりに高価なケーブルだったが値段なりの効果はあったように思う。