オーディオのこと 57 (オーディオ機器を「試聴する」ということ)

 購入するかもしれない機器、今、話題の機器を試聴してどんな音がするかを確かめるために試聴するのはオーディオ趣味の醍醐味のひとつかもしれない。自分のオーディオシステムに、アクセサリー等も含め違う機器に取替え、試聴して、どう音が変わるのかというのは興味があることだ。何かを替えれば音が変わる、これは確かにその通りだがなぜ音が変わったのか、音が変わった原因は何なのかという理由をはっきりさせるのは実はなかなか容易ではない。音が変わったのは、替えた部分によるものと考えるのが当たり前と思うかもしれないが、オーディオシステム全体で考えるとそうではない場合もあることをこれから考えてみたい。

 

 最初に、フィクションとして「完璧」なオーディオシステムということを考えてみたい。レコードをオーディオシステムで聴くとすると「完璧」なシステムを次のように「定義」してみる。まずカートリッジはレコードの溝を正確にトレースして「完璧」に電気信号に変換する。ケーブルは「完璧」に入口から出口まで伝送する。アンプは入力してきた電気信号を「完璧」に増幅する。スピーカーはその電気信号を「完璧」に振動板を動かし音に変換する。これらの機器で構築されたシステムを「完璧」なオーディオシステムとして考えてみる。ここでの「完璧」は「そのまま」と言い換えてもいい。とりあえずここでは「完璧」という言葉をこのような意味で使うことにする。 

 このような「完璧」なシステムに、カートリッジだけを高域が強調されたような特性の機種に変更したとする。そうすると出てくる音は高域が強調されたきつい音が出てくる(例1)。それ以降の機器は「そのまま(完璧)」電送し増幅し変換するからだ。

 次に、(例1)のシステムに高域特性が落ちる(カートリッジの高域が強調された分と丁度相殺される程度)ケーブルに変換したとすると全体ではバランスが取れた音が出てくる(例2)。このシステムの高域が強調されたカートリッジを、「完璧」な性能のカートリッジに付け替えたとする(例3)。そうすると高域特性が落ちるケーブルの音が「そのまま」出てくることになり高域が足りない音になる。

 行っていることはカートリッジの交換、出てくる音は高域が足りない音、となれば普通は、その原因を「このカートリッジは高域が落ちているから」と判断すると思う。しかし、もしそのシステムが(例2)の場合にはその判断は間違っているということになる。高域が落ちているのはケーブルが原因でカートリッジは「完璧」な変換をしているからだ。しかし、カートリッジを取替えて音が変わり、その原因を他に求めるというのはなかなか難しいかもしれないが、(例2)が(例3)になる可能性はいつも考えておかなければならない。

 誤解のないように書いておくが、取り替えた機器が、音が変わる原因ではない、と言おうとしているわけではなく、取替えた機器が原因ではない「可能性」もあり得るということだ。

 (例1)の場合は出てくる音の原因が取替えた機器であると判断していい。他にも(例2)の場合のように相殺されて音のバランスがとれている場合に、例えば高域が足りないアンプを接続すると出てくる音は高域が足りない音になる。

 いろいろと書いてきたが、言いたいことは音が変わった原因は必ずしも替えた機器ではなく違う機器の「可能性」もあるということだ。これはあくまでも「可能性」があるということで替えた機器が原因になることはないという極端な話ではない。音が変わる原因は替えた機器が原因になることもあれば違う機器が原因になることもある。

 機器を替えた、音が変わった、だから音が変わったのは替えた機器が原因という場合もあるし、そうではない場合もある、ということを可能性として考えておきたい。