オーディオのこと 61(ハーモニー(和音)の再生)

音楽はドレミの音階から成り立っている。音階を組み合わせたのが「和音」、「和音」を一定の法則に従って横に結び合わされたのが「和声」である。

 音階は周波数の比によってつくられている。ピアノの鍵盤を想像してほしい。1オクターブ離れた音(ドとオクターブ上のド)の振動数比は1:2、5度(ドとソ)は2:3、4度(ドとファ)は3:4、というような 1  /n という式で表され、以下のように過分数によって分割される。

オクターブを5度と4度に  2/1 = 3/2 × 4/3 

5度を長3度と短3度に   3/2 = 5/4 × 6/5    

長3度を大全音と小半音に  5/4 = 9/8 ×10/9    

短3度を大全音と大半音に  6/5 = 9/8 ×16/15                

こうして得られた音階を純正調といい、次の図のようになる。

                                       

C   D   E   F   G   A   H   C  

ド   レ   ミ   ファ  ソ   ラ   シ   ド  

1   9/8    5/4   4/3   3/2    5/3  15/8    2(Cに対する振動比)

 9/8   10/9  16/15  9/8  10/9  9/8  16/15  (2音間の音程) 

【図Ⅰ】

 

 この表からわかるように、半音はEとF、HとCの間でいずれも16/15で一種類しかないが、全音は 9/8 と10/9 の二種類あることになってしまう。また5度を12回重ねたC音と、オクターブを7回重ねたC音とは、所謂ピュタゴラス・コンマだけ違う。

(3/2)12乗÷(2/1)7乗=  531441/524288     

 この純正調の主要三和音では純粋な美しい響きが得られるが、曲の途中で移調や転調をしたときには音律が狂った印象を与えたり、和音の響きが濁ったりするので都合が悪い。そこで1オクターブをすべて均等に分け12個の半音の集まりにしてしまう12等分平均律、移調、転調をしても響きが唸る(ウルフの和音)ことがないような調律方法が生み出されてきた。数学的には割り切れないがバッハの平均律クラヴィーア曲集以降、転調移調をしても演奏が可能な調律が実際に使われてきた。

 これ以上の音階についての細かい話は専門書に譲るとして、数学的には厳密ではないとしても、ここでは音階は周波数の振動比で成り立っているということを確認するに留めたい。

 

 そこで主要三和音の一つであるドミソの和音を例に考えてみる。計算しやすいように仮にドの周波数が100Hzだとするとソは五度上なので100Hz×3/2=150Hzとなる。ミは長三度上なので100Hz×5/4=125Hzとなる。

 ドが100Hzの時のドミソの和音は100Hz、125Hz、150Hzの音で構成されることになるがこれは基音であり、実際に楽器で演奏する際にはこの基音に整数倍の倍音が加わる。基音が100Hzとすると2倍音は200、3倍音は300、4倍音は400と続く。125Hzのミの2倍音は250、3倍音は375、4倍音は500と続く。150のソの2倍音ハ300、3倍音ハ450、4倍音は600、と続く。要するにハーモニー(和音)とは倍音が重なるところと重ならない音で構成されている。因みに倍音が全て重なるオクターブ違う音同士はハーモニーではなくユニゾンとなる。倍音がほとんど重ならない音同士はノイジーでうるさいと感じる音になる。

 

 オーディオ再生でよく感じる不満の一つにオーケストラ曲などで多数の楽器が重なり大きな音になったときにうるさいと感じることが多い、ということがある。オーディオで音が重なったときにうるさくなる原因の多くは「振動」だと思っている。「フレミングの左手の法則」と「右手の法則」というのがある。力と電流と磁場の関係の法則で、力が働く方が「左手の法則」で電流が流れる方が「右手の法則」となる。レコードのカートリッジやスピーカーはこの法則で電気を発生させたり、スピーカーの振動板を動かしたりする。しかし、これはカートリッジやスピーカーだけで発生するのではない。電気が流れている箇所には磁場ができるので振動(力)が加われば電気を発生する。またトランスのように電線を巻いているところに電気を通せば振動する、ということは磁場が発生しているということだ。そう考えたらオーディオ機器の入口から出口まで電気が通っているのだからここのどこかに振動が加われば電気が発生して、それがアンプなどで増幅され音を濁すことになる。ラックやスピーカーをセッティングするときにガタつきを無くせば振動がなくなるわけではない。セッティング時のガタつきのような大きな振動ではなく、本当に有害なのはミクロン単位の振動だ。レコードの溝は数ミクロンから数十ミクロンと云われている。例えば10ミクロンだとすると1㎜の100分の1。その程度の振動でもアンプで増幅されると音になる。ミクロン単位の振動でも十分音に有害な振動になり得るということはオーディオを使いこなす上で十分に認識しておきたい。ミクロン単位の振動は見ても触ってもわからないので想像するしかない。もしかしたらここに振動が伝わって音を濁しているのではないか、そうだとするとここに対策をしてみよう、というように試行錯誤を重ねていくしかない。効果がなかったら元に戻すことも常に考慮に入れておかなくてはならない。

 

 振動の発生源は音を出すスピーカーだ。レコード時代にはよくハウリングマージンということが話題になった。ターンテーブルを止めた状態でレコード針をレコードの無音溝に置いてアンプのヴォリュームを上げていく。するとボーンというハウリングが起きる。ハウリングとはマイクをスピーカーに近づけると発生するあのワーンという音のことだ。スピーカーから出る音をマイクが広いそれがアンプでどんどん増幅されていって次第に大きな音になる現象である。それがレコード針とスピーカーの間でも起こり、リスニング時のヴォリューム位置とハウリングが起きるヴォリューム位置との差をハウリングマージンという。このハウリングマージンは大きければ大きいほどいいし、できればフルヴォリュームでもハウリングが起こらないことが望ましい。

 CDが出てきてからこのことは問題視されなくなったが、振動による音の濁りを考えると振動はできるだけない方がいいと考える。振動をなくすというのはなかなか大変で、しっかりとしたガタつきのないラックに設置したぐらいでは振動はなくならない。ガタつきがあると余計な振動が発生するが、しっかりとさせてもそれなりに振動を伝えることになる。

 振動対策として大きいのはスピーカーからの振動とアンプのトランスなどの内部からの振動だ。アンプ内部の振動はまず対策の仕様がないので他の機器に伝えないようにするしかないだろう。スピーカーの場合は床にできるだけ伝えないようにするためにインシュレーターやオーディオボードを敷くなどで対策をする必要があるだろう。ケーブルの場合は何かに載せる程度で十分だと思うが、見落とされやすいのが絨毯などの静電気対策だろう。絨毯の上にケーブルを這わせたり、ケーブルの上にカーテンがかかったりすることのないようにしたい。そのためにケーブルは、静電気を帯びない木材などの上に載せるなどの対策をした方が良いと思う。

 何か一つをしたからといって劇的に音が変わるわけではないが一つ一つ対策をしていくと大きな音が重なってもうるさくならないハーモニー(和音)の響きがスピーカーからも出てくるようになると思う。