オーディオのこと 49(私のオーディオ歴 1986~2006)

 オーディオを本格的に始めようとした86年頃、自宅で聴きたいと思い描いていたオーディオシステムは、ダイヤトーンのDS―10000というスピーカーとアキュフェーズのセパレートアンプだった。当時、ダイヤトーンではDS―1000という1本10万円のスピーカーを出していて、それを徹底的に練り上げた製品が10000だった。それを試聴会で聴いたところ、スピーカーの存在を感じさせないような素晴らしい音を出していた。今と違いこの頃は小型の高級スピーカーというのはそんなに多くなく、この10000なら場所をとらずにいい音が聴けるので、自宅で聴くならこれだと思ったのである。セパレートアンプをアキュフェーズにしようとしたのは試聴会でいつも使用していて優秀なアンプだと思っていたからだった。しかし、いずれも高級品であり、いきなり揃えることはできないので段階を踏んで徐々に買い揃えていこうと考えた。

 

 86年、とりあえずCDを聴けるようにするため、マランツCD―45というCDプレーヤーを買った。次はシステムコンポのスピーカーから脱却しようと思い、スピーカーをロジャースのLS3/5Aに買い替えた。しかし、このスピーカーは能率が82.5dB、インピーダンスが15Ωで、当時使用していたサンスイのプリメインアンプAU-D707G(出力110W)では満足にならせなかった。707Gはこのクラスのプリメインアンプとして定評があったが、LS3/5Aと接続すると電源が弱いため、音が頭打ちになるような鳴り方になってしまった。そこで止むを得ず707Gを諦めて買い替えることにしたが、さすがにアキュフェーズのセパレートアンプはまだ高価で買えない。そこで安価なセパレートアンプにすることにして、当時セパレートアンプとして一番安かったハーマンカードンのプリアンプHK―825とパワーアンプHK―870を2台用いてモノラルアンプにすることにした。これでLS3/5Aを十分に鳴らすことができるようになった。このことからアンプとスピーカーはセットで考えなくてはならないと知った。LS3/5Aはウーファーの口径が10㎝しかない小型スピーカーで壁から少し離して設置すると前後左右に音場が広がりスピーカーの存在を忘れるようなスピーカーだった。

 

 87年、CDプレーヤーをアキュフェーズの一体型高級機DP―70に買い替えた。私にとって初めての高級機でCD―45とはスイッチの感触、入出力端子、トレイの出し入れのスムーズさ、重厚感のある造りなどが全く違い、高級機と普及機の差は歴然としていた。

 またこの年だったと思うが、あるオーディオ店でDS―10000がどうにか安くならないかと値段まで出してもらったが、予算的にまだ無理だと諦めてしまった。DS―10000は300セット限定でその後まもなく完売してしまった。

 

 88年、プリアンプをアキュフェーズのC―280Lに替えた。すでに時代はCDだったが、フルトヴェングラーの国内盤レコードを多数所有していたためヘッドアンプとフォノイコライザーに定評があるプリアンプにしたかったからだ。280Lは当時、国産最高峰のプリアンプでこれならレコードを最高の音で再生してくれると思った。それまではMCトランスにハイフォニックHP―T7、フォノイコライザーアンプにオーディオクラフトPE―5000を使用していた。280Lはこれらの製品よりも音が良かった。

 周辺機器を良くしていくと次第にLS3/5Aの低音不足が不満となり、スピーカーをカントンのCT90に替えた。CT90にしたのは、ウーファーが26㎝あり低音不足が解消できると思ったことと、フロア型なのでスピーカー台も必要なかった。当時は、小型スピーカー用の良質なスピーカー台というのはほとんどなく、LS3/5Aには専用台があったが鉄の角パイプを組んだようなものでスピーカーを駆動するとこのパイプがよく鳴いた。そこで、ゴムを巻いたりしたがどうにも見栄えがよくない。そんなことからスピーカー台を使用しなくはならないブックシェルフ型ではなくフロア型のスピーカーにした。ただ、このCT90も今となると音の印象はほとんどない。次にパワーアンプをアキュフェーズにしてセパレートアンプは完成させる予定だった。

 

 89年、あるオーディオショップでマニアの方が自作した真空管アンプが展示してあった。その真空管アンプを珍しそうに見ていると、店員の方から聴きたかったら貸してあげます、と言われたので、その真空管アンプを借りて自宅で試聴させてもらった。するとこれまで聴いたことがないほど音楽が生き生きと鳴ったことに驚いた。いろいろと迷ったが、フルトヴェングラーのレコードを聴くならどっちがいいだろうと考えた末、方針転換をして真空管アンプでオーディオシステムを構成し直すことに決めた。そして、パワーアンプを上杉研究所のU・BROS-11に買い替えた。この頃、真空管アンプの機種は数える程しかなく、日本や欧米ではすでに真空管の製造はしていなかった。そんな中で真空管アンプを選んだのだから真空管の予備のことも考えておかなくてはならない。ウエスギアンプを選んだのは、音に定評があっただけではなく、メーカーが真空管全盛期に製造された日米欧の優秀な真空管を充分に在庫していて、アフターサービスも充実していたからである。しかし、かなり予算的に無理をしてU・BROS―11に買い替えたにもかかわらず、期待した音どころか、ハーマンカードンパワーアンプよりも音が良くなかった。この時は目の前が真っ暗になった気がした。オーディオには高価なものを買っても結果が伴わないということもあるとつくづく思い知らされた。

 

 90年、アナログプレーヤーがなくなるかもしれないと思い、以前から使っていたトーレンスTD―147から、トーレンスTD321MkⅡとSME3010Rの組み合わせに買い替え、カートリッジも新しくオルトフォンSPUクラシックを買った。この三つのメーカーを選んだのは、最後までアナログ製品を作り続けてくれると思ったからだった。

 この頃からビジュアルも本格的に始めようと液晶プロジェクターとスクリーンを購入した。それに伴いCDプレーヤーもデジタル入力が設けられているアキュフェーズのDP―70Vに買い替えた。70Vのデジタル入力にBSチューナーやLDプレーヤーのデジタル出力を接続し、70VのDACを通すことによってよりいい音で聴こうと考えた。これはそれなりに効果があり、単体で聴くよりも音の厚みや音場の広がりが良くなった。

 

 91年、試聴会でダイヤトーンのDS-V3000を聴いたところ、3ウェイでありながらフルレンジのように各ユニットの繋がりがよく音離れもよかった。それはかつてのDS―10000に近い音だと感じ、スピーカーをV3000に買い替えた。当時は知らなかったのだが、このスピーカーはスコーカーにアルニコを使用していた。V3000はかつてのDS―10000のような音が出るだろうと期待したが、低音が充分に出ず音離れもあまり良くなかった。

 LD(レーザーディスク)プレーヤーにパイオニアのCLD―939を購入した。これは両面再生ができCDもかかるコンパチブルプレーヤーである。ここからCDプレーヤーのデジタル入力に接続してオペラやコンサートを見ていた。映像で字幕を観ながらオペラを見る方が、対訳を読みながらCDやレコードを聴くよりもずっと楽なのでオペラの筋を覚えるにはとてもよかった。

 

 92年、上杉研究所からフォノイコライザーアンプUTY―7が発売された。以前から280Lはいずれ真空管アンプにしなくてはと思っていたのでUTY―7を買うことにした。UTY―7と280Lは入出力のインピーダンスマッチングが取れないので、280Lを手放してウエスギのプリアンプU・BROS-12と低インピーダンスカートリッジ用のMCトランスU・BROS―5Lに買い替えた。これで全て真空管アンプになり、音に芯が出てきたが、まだ躍動感や迫力が今一つだった。その後、上杉研究所から電源に贅を凝らしたパワーアンプUTY―8が発売された。この際、パワーアンプもグレードアップを図ろうとU・BROS―11をUTY―8に買い替えた。今まで不満だった迫力や躍動感が出てきて、目指している方向の音になってきた。

 この時、ソニーのTA―NR10というMOSFETを10パラレルで使用した出力100Wの高級モノラルパワーアンプとUTY―8を自宅で試聴する機会があった。TA―NR10は平面的な音でDレンジは狭く音の躍動感が感じられなかった。

 カートリッジもオルトフォンSPUの最高峰として発売されたSPUマイスターAを購入した。SPUの太い音に繊細さも加わった音だった。

 

 93年、V3000とウエスギアンプの組み合わせでは、いいところを打消し合っているという感じがしていたので、スピーカーをウエスギアンプと相性がいいと言われていたタンノイのスターリングTWに替えた。スターリングTWはV3000の半分ぐらいの値段だかV3000より鳴らしやすくバランスがいい音がした。

 ビジュアルの方でもVHSデッキの最高級機ビクターHR―20000を購入した。録画するとき、映像は単体のBSチューナーで受信してHR―20000に、音声は一度、DP―70VのDACを通してからHR―20000にそれぞれ入力していた。BS放送から映画やオペラをたくさん録画し、液晶フロントプロジェクターでスクリーンに映して観ていた。

 

 95年頃、一度は市場からなくなりつつあった真空管アンプの機種が増えてきて真空管アンプ専門の雑誌も出てきた。その雑誌の中にウエスギのパワーアンプU・BROS-23の試聴記事があり、著名な評論家の方が次のように述べていた。「出力インピーダンスは2Ω、4Ω、8Ωに対応しますが、ここでは4Ωのスピーカーも聴いてみました。やはり(出力端子は)4Ωで聴くよりも、8Ωでトランスを目いっぱい使った時のほうが音はいいですね。4Ωでは使わない巻線がでるので、トランスが遊んでしまうのです。」一般的に真空管アンプは出力トランスがあり、スピーカーのインピーダンスに合わせて接続する端子が複数設けられていることが多い。UTY―8には0Ω、4Ω、8Ω、16Ωの端子がある。0Ωはスピーカーのマイナス端子に接続し、プラス端子はスピーカーのインピーダンスに合わせて4Ω、8Ω、16Ωのいずれかの端子と接続する。スターリングTWはカタログによると公称インピーダンスが8Ωとなっていたので8Ω端子に接続していた。それが前に引用した評論家の方の、出力トランスの巻線を目いっぱい使った方がいいという記事を読み、16Ω端子に接続し直した。すると若干派手な元気のいい音になった気がしたので数年ぐらいはこのまま聴いていた。

 

 98年、輸入盤のアナログレコードの音の良さに気付き、フルトヴェングラーのレコードを全て輸入盤で買い直すことにした。そこでしばらく眠っていたアナログシステムを再調整して、オルトフォンのCA-25Diというモノラルカートリッジも購入した。このカートリッジはとても迫力がある音を再生するが歪みも多かった。また、スピーカーを16Ω端子に接続していることに疑問が湧いてきて、どの端子がいいのか上杉研究所の上杉佳郎氏に直接電話で訊いた。そうすると「8Ωではパワーはあるが歪みが少し増える。4Ωではパワーは落ちるが歪みが減る。16Ωではパワーが落ち、歪も増える。だから通常の家庭であれば歪みが少ない4Ωがいい。」と教えていただいた。これは本当に目から鱗だった。U・BROS―11を使っていた時もなかなかいい結果が出なかったのは接続する出力端子が違っていたからかもしれない。とにかくそれからは雑誌の記事を鵜呑みにすることはせず、オーディオについてわからないことは上杉氏に直接訊くことにした。

 

 2000年、上杉研究所のクリーン電源のU・BROS―22を購入した。これは家電製品に使用されているマイコンなどから家庭用電源に入り込む500Hz以上の高周波をカットするというもので、アナログオーディオ機器用5系統、デジタルオーディオ機器用3系統のACアウトレットが設けられている。各オーディオ機器の電源の接続は、壁コンセントに電源ボックスなどを接続して、それにアンプやプレーヤーなどのオーディオ機器を接続するというのが一般的だと思う。雑誌などを読んでも電源ボックスを使用してアンプの背面にあるACアウトレットは使わないようにと書いてあることが多い。しかし、上杉研究所ではプリアンプの背面にあるACアウトレットは音質管理をしているので積極的に使用してほしいと謳っている。この点についても上杉氏に直接訊いたところ、壁コンセントにU・BROS―22を接続、U・BROS―22のアナログ機器用ACアウトレットにプリアンプU・BROS-12を接続、U・BROS―12の背面にあるACアウトレットにフォノイコライザーアンプ、パワーアンプを接続、U・BROS―22のデジタル機器用ACアウトレットにCDプレーヤーを接続するといい、と教えていただいた。試してみるとイコライザーアンプやパワーアンプを直接U・BROS―22と接続するより、上杉氏に教えていただいた上記のような接続の方が音はすっきりとしていた。

 

 06年、オーディオ誌「管球王国」第40号の上杉佳郎氏のアンプ製作記事にアナログレコード再生用のTAF1という真空管式のサブソニックフィルター(不要な低域をカットするフィルター)の製作記事が掲載された。このフィルターを通すと低音再生とは関係がないバタバタしたウーファーの振動(いわゆる混変調歪み)がなくなるため、低音の切れ込みがよくなり全体的にも澄んだ音になると紹介されていた。これは効果がありそうだと思い、すぐに完成品を申し込んだ。数か月後に製品が届き接続すると、記事通りの効果がありハウリングもなくなった。