ドキュメンタリー番組「最高の音響を求めて」

 6月30日深夜のNHKBSのプレミアムシアターで「最高の音響を求めて」というホールのドキュメンタリー番組を放送していた。ドイツの放送局が制作した番組で、「シューボックスとワインヤードではどちらの音がいいか」という副題がついた番組だった。98年から08年まで(ということはKitaraは入っていない)世界中で100以上のホールが企画・建築され、その代表がハンブルクのエルプフィルハーモニーだった、と紹介されている。ここは10年近くの工期を経て2017年にオープンし、音響的にも世界最高峰の響きを目指したホール、とのことだった。ホール音響の設計者として永田音響の豊田泰久氏が紹介されている。このホールは8億ユーロというから1000億円以上かかっているようだ。

 

 ベルリン国立歌劇場では音響改善のため、7年をかけて天井を5メートル高くして、空間容積を9,500立方メートル(hitaruは19,000立方メートル)にしたり、壁板を全て一新したりして残響時間を1.1秒から1.6秒(hitaruは1.9秒)にしたそうだ。

 

 次に指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが出てきて「良いホールとは、実際の音以上に響きを良くしてくれるホール」であると述べている。次に指揮者のアラン・ギルバートが出てきて「ホールは見た目や雰囲気、様式感も大事」だと述べている。視覚的要素も音響には大事なようだ。

 

 コンサートホールも1960年代は六角形のホールが人気があり、それは音の反射は早ければ早いほどいいと考えられていたからだそうだ。しかし、大事なのは側面からの反射で、天井から反射する音は両耳で同時に聴くが、側面からの反射は左右別々に聞くので立体的になるようだ。

 また、アラン・ギルバートが演奏について、「乾燥していて音の広がりや響きが少ないホールなら少し長めに音を出し、反響する場所ならしっかりとメリハリを付ける」と述べていて、ホールによって演奏の仕方が変わることを示唆している。

 また、ホールは観客がいるときといないときの差が少ない方が演奏者は準備がしやすくそういうホールの方が演奏しやすいようだ。ヴァイオリン奏者が出てきて、「演奏する舞台でいい音がしても客席では響かなかったり、逆に舞台の音が良くないときもある。コンセルトヘボウは有名なホールですが、自分の音が聞こえにくい」と述べている。要するに客席でいい音がしても、舞台の音に問題があると演奏者が演奏しにくいので演奏会を成功させることが難しくなるのである。

 次にモスクワの赤の広場付近に建築中のコンサートホールの様子が映し出された。指揮者のゲルギエフと建築家の豊田泰久が打ち合わせをしている。豊田氏がワインヤードを支持しているのは視覚的な理由からのようだ。

 次にオペラの殿堂ミラノ・スカラ座でも音響が問題になっていることが紹介されていた。第2次大戦中に空襲で破壊されたが、戦後すぐに建築する必要があったためあまり音響のことは考慮されなかったらしく、今の基準から言うと残響時間が短すぎるのだそうだ。特に桟敷席には布張りで詰め物が使われている手摺りが音を吸収するのだそうだ。昔は桟敷席には鏡があり、それが音を反射していたという、実験結果も得られたが、まだ試行錯誤の段階で本格的な音響の改善はまだまだこれからのようだ。

 最後に豊田氏が「音響に謎はないが音楽に謎は多い」とかパーヴォ・ヤルヴィが「演奏する側としてはホールで3~4小節も音を出せば響きがいいかどうかはすぐにわかる。それは明らかで感覚的なものだが言葉で正確に言い表すのは難しい」と述べているて、結論としてはわかったようなわからないようなことで終わっている。

 それにしてもベルリン国立歌劇場ミラノ・スカラ座、コンセルトヘボウといった有名なホールも、それぞれに問題を抱えていることを知ることができて、なかなか興味深いドキュメンタリー番組だった。