札響名曲シリーズ 2020 「ベートーヴェン、皇帝に捧ぐ」

 令和2年(2020年)10月10日、札幌コンサートホールKitaraで首記の札幌名曲シリーズを聴いてきた。コロナ禍の中で定期は3回、新hitaru定期は1回中止になったが、名曲シリーズは演奏者と曲目の変更はあったが4回すべて開催された。11月から来年6月までKitaraが改修になるが、名曲シリーズはKitaraでの演奏ということがテーマになっているため来年は8月からシリーズが始まるらしい。

 指揮は当初、マックス・ポンマーだったが、来日できないため秋山和慶に変更になった。入場制限が緩和されて6割ぐらいは入っていただろうか、再開後では一番聴衆が多かった。

 指揮者は変更になったがプログラムに変更はなかった。ただ「水上の音楽」がハーティー編に変更になった。ヘンデル 「水上の音楽」組曲(ハーティー編)、メンデルスゾーン真夏の夜の夢」より序曲~スケルツォ~間奏曲~ノクターン~結婚行進曲、ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」。ピアノは小山実稚恵。編成は12型だった。

 

 1曲目は「水上の音楽」。バッハの教会での音楽とは対照的にヘンデルは王宮での華やかな音楽をたくさん書いた。金管楽器が華々しく活躍するフレーズがところどころに出てくる。弦と管のバランスもよく取れていた。

 2曲目は「真夏の夜の夢」からの抜粋。序曲はプレヴィンやクーベリックの演奏をよくレコードで聴いているので、この曲の演奏は楽しみにしていた。冒頭の弦楽器の細かいフレーズが曖昧にならず、またヴィオラや低弦のピチカートもはっきりと聞き取れた。繊細な弦の音と透明感がある木管がとてもよかった。スケルツォは管楽器と弦楽器のバランスがよく取れていて、速い曲でも音と音の間が流れることなくリズムをしっかりと刻んでいた。間奏曲は、重く暗い演奏もあるが、秋山と札響のコンビは爽やかさと清涼な雰囲気で演奏していた。この方が喜劇に合っていると思う。ノクターンは、けだるく悲しい雰囲気の演奏もあるがホルンの豊かに広がる響きがとても暖かい雰囲気を醸し出していた。結婚行進曲は堂々とした厚い響きが印象的だった。「真夏の夜の夢」は、天使のいたずらで好きな相手があっちに行ったりこっちに行ったりして最後は2組の夫婦が誕生するという喜劇で、結婚行進曲はめでたしめでたしとなる大団円の場面だ。それに相応しい演奏だったと思う。

 

 3曲目は「皇帝」。6日のベートーヴェン交響曲第8番もそうだったが、この日の皇帝もこれだけの演奏は聴けないのではというぐらいの名演だった。実演でも何度か聴いているしレコードでも名盤があるが、この日の演奏はそれらを凌ぐと言っても過言ではない。それぐらい指揮者とオーケストラとピアニストが一体となり互いに刺激し合いながらいいところを引き出していた。

 第1楽章は、冒頭の力強い和音に始まり、それに続く勢いがあるカデンツァが見事。最初から最後まで明晰さと力強さを失わない。第2楽章では深く叙情的な響きが印象的だった。第3楽章の冒頭でのピアノの力強い出だしは大地が響くような演奏で、フルトヴェングラーとE・フィッシャーの録音を想起させるほど。小山の明晰さと力強さに札響も対等に演奏していた。名曲シリーズは、肩の力を抜いて気楽に聴ける演奏会であることが多いが、こんな真剣勝負の演奏が聴けるとは思わなかった。指揮者の秋山は今週二度にわたり札響で名演を残してくれた。

 アンコールはグノーのアヴェ・マリアのピアノ協奏曲版とでもいうのだろうか。この曲はもともとバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の第1番前奏曲を伴奏に旋律をつけた曲だが、その伴奏をピアノが弾き、旋律をヴァイオリンソロから始まってオーケストラの各楽器が演奏していた。涙をさそうような演奏だった。

 

 8月に新・hitaru定期の時、札響の事務局長の方が「札響の音は変わりました」と語っていたが、それが本当に実感できるようになってきた。