オーディオのこと16

 あるオーディオ試聴会で「日本音響エンジニアリング」という部屋やホールのルームチューニングを手がけている会社の製品を試聴する機会があった。太さが微妙に異なる木の棒を組み合わせた製品でスピーカーの間とか前とか後ろ、または部屋の横とか隅に置いたりして響きをコントロールするという製品(Acoustic Grove System AGS)である。

カタログには「森の中で感じる果てしない空間のひろがり。太さの異なる無数の木々が立ち並ぶ森の中は、低域の抜けの良さと中高域の緻密な響きが得られる理想の音場といわれています。」とある。そういう効果を狙ってこのような製品を開発したとある。

 試聴ではまず何も置かない状態から、少しずついろいろな場所に置いていって響きがどう変わるかということを試聴した。音の効果は確かにあった。何もなくても別に悪い音には感じられないが、スピーカーの間や後側、前側などに徐々に置いていくことによって楽器の定位、解像度、響きが次第に変わっていくことがよくわかった。

 この製品の考え方は、ルームチューニングは音の反射と吸音でコントロールするのではなく拡散によりコントロールするのだと理解していい。音というのは空気の波なので強め合ったり打ち消しあったりする。これを反射でコントロールするというのは不可能だし、吸音すると無味乾燥な響きになる。

 メーカーの方の話によると、拡散というのはちょうど海の波打ち際に設置されているコンクリート製のテトラポットのような、波を分散させるようなイメージ、ということだった。そうすると高音域は様々な方向に拡散し、低音域はこもることがなく抜けていくと説明していた。確かにそういう方向に音が変わっていった。

 

この製品はリスニングルームだけではなくコンサートホールにも使われているという。

そこで思い出したのが、札幌コンサートホールKitaraの音響のことだった。Kitaraのステージをよく見ると左右奥の隅が丸く突き出ている。そして、ステージ奥の突き出た隅と正面奥は縦に柱が何本もあってその奥にも音が入っていくようになっている。私はなぜここが反射するような壁になっていないのか疑問だった。それが今回の「日本音響エンジニアリング」の試聴会でその疑問が解けたような気がした。

ステージの後ろは音が一番強く反射する場所だ。そこがKitaraの場合は音を反射させるのではなく拡散するようになっていて、Kitaraの音響の特徴である各楽器がはっきりと聞こえることに繋がっている、と思った。つまりステージの奥の縦の柱はAGSと同じ効果をもたらしているのではないかと考えたのだ。

 また、Kitaraは座席ブロックの突き出た箇所や、天井に近い側面などに曲面が多い。曲面であれば、音が反射するとき、いろいろな方向に反射することになる。これが、平面のように180度向きを変えて反射すると直接音と反射音が互いに干渉し、音がこもったり打ち消しあったりすることになる。

 

 ルームチューニングのアクセサリーの試聴会だったが、Kitaraの音響のことにも気付かせてくれた試聴会だった。