オーディオのこと 35(トーンアームの調整方法)

 アナログブームということで一時はなくなりかけたレコードプレーヤーも手頃な価格で音も良さそうな製品が出てくるようになった。アナログシステムが普及していくのはいいが、レコードプレーヤーの調整というのはなかなか難しい。中でも一番、面倒なのが、オーバーハング調整とアームの高さ調整だと思う。

 オーバーハングとはカートリッジをスピンドルに持って行ったときの針先からスピンドルの中心までの長さのことをいう。レコードは外側から中心に向かって半径と垂直にセットされたカッターでカッティングされる。それを再生するときは支点があるアームが弧を描くように再生するのでカッティングされた角度とズレが生じる(トラッキングエラー)。そのため「オフセット角」を持たせてレコードの外周からターンテーブルの中心にあるスピンドルの少し先まで移動するようにするとトラッキングエラーをかなり少なくすることができる。アームがS字に曲がっていたり、ストレートアームでカートリッジを内側に傾けて取り付けたりするのはこのオフセット角を作るためだ。

 このオーバンハングはアームによって決められている。その決められた長さに調整するのだが、実際にやってみると結構大変だ。アームをカートリッジの針をむき出しにしたままスピンドルのところに持って行って12㎜とか15㎜の長さを、スピンドルの中心と針先の距離を、定規をあてて目視で測るというのは至難の業である。スピンドルの中心といっても目検討でしかわからないし、上からではわからないので横から見てこの辺りが中心だろうとか、アームも斜め上を向いているので針先の正しい位置もおおよそしかわからない。そのため測る度に1㎜ぐらいはいつもずれている。   

 使用しているアームは、シェルとアームが接触する面から針先までの長さを50㎜にしてカートリッジを取り付けるとオーバーハング(15㎜)がとれるように設計されている。先程のスピンドルのところで測るよりは楽だが針先とシェルとアームの接合面は高さが違うのでこれも目視で検討をつけて測っていた。

 

 アームの高さ調整もなかなか難しい。ターンテーブルにレコードを載せて針を降ろした状態でアームが水平になるようにするというのが正しいセッティングの仕方だ。カートリッジのカンチレバーの角度やスタイラスの取り付け角度などはアームが水平であることを前提にして作られているからだ。アームが水平になるように調整することも実際にやってみるとなかなか大変だ。水平がどうかを見るのに方眼が入った三角定規を使うのが一般的だ。これをレコードの上に載せるのだが、レコードにはグルーブガードがあり縁が少し盛り上がっている。そこに定規が載ると定規自体が水平にならない。またS字アームのように曲がっていると測る場所も限られる。なんとか三角定規を水平に置ける場所を探して目視で水平を測るのだが、アームに対して垂直方向から見なければならない。目線を固定して左右が同じ高さになっているか確認するのだが、左を見て右を見ている間に1㎜も目線を動かさないというのはやってみると大変な作業だ。何度も何度も本当に水平になっているか確認するのだが、目が疲れてくるし見る度にずれてしまう。

 三角定規もアームにぴったり付けなくてはならないが、垂直に立てることはできないので少しアーム側に傾けることになるがあまりアーム側に傾けると余計な重さを加えてしまい針先が下がる。結局、これぐらいで好いだろうというところに設定しているというのが現状だった。

 

 しかし、何とかして厳密に50㎜なら50㎜、水平なら水平をしっかりと測って調整したい。何か良い方法はないかと思ってふと気付いたのがノギスを使うことだった。ノギスは外径と内径が測れるようになっている。シェルとアームの接合面から針先まで50㎜をノギスで測るのだが、ノギスだと接合面に引っかけることができるので測りやすく誤差も少なくなる。実際に測ってみると1㎜程ずれていたので調整し直した。

 アームの高さは内径の方で測る。レコードをターンテーブルに載せカートリッジを降ろすところまでは同じだが、レコード盤の上ではなく、レコードプレーヤーのパネル面で測れば良いので楽だ。測る場所はシェルとの接合面の直ぐ近くと支点の近くでかなり長く測れるし、曲がっていても気にしなくていい。実際に測ってみると支点側が1㎜ぐらい上がっていた。

 アームの高さ調整はネジを2箇所緩めて上げたり下げたりするのだがその加減が大変で、1㎜下げるというのも至難の業である。少し下げて調整したつもりだったが念のため次に測ってみると逆にシェル側が1㎜上がっているときもある。そんなときもノギスを使うと便利だ。測ってみて支点側が1㎜程上がっているとするとノギスの内径を測る方でその時のアームの高さを測り1㎜広げて固定する。その高さに再びアームの高さを調整すると1㎜高くすることができる。

 支点側が下がっていると高域が下がり低域が上がる。逆にシェル側が下がっていると高域が上がって低域が下がる。同じ高さになるように調節すると音が安定した。

 

 アームの高さは目視で水平になっていればよく、それほど音には関係ない、という意見もあるが厳密に調整すると音はいい方に変わる。それらの調整にはノギスがあるとかなり厳密に調整できてとても便利なのでご紹介した次第。