オーディオのこと 40(上杉研究所U・BROS-280R試聴記)

 ようやくU・BROS-280Rが納品されたので試聴記を書いてみたい。これまでは1992年に購入したU・BROS-12(以下12)を29年間聴いてきた。その後様々なプリアンプが上杉研究所から発売されたが、2015年にU・BROS-280(以下280)が発売された。このモデルは3年前と昨年に自宅で試聴させてもらい、その時の印象がまだ残っている。

 アンプは大きく分けて電源部と増幅部に分れている。12の増幅部に用いられる真空管はECC83という双三極管のMT管で、1本で左右2系統の増幅ができる。これが増幅用とバッファー用に2本使用されていた。電源部もトランス1つで左右のチャンネルに電源を供給していた。入力信号は後面から入り増幅部を通ってボリューム、バランスコントロールセレクターを通ってまた後面から出力されていた。

 280では増幅部に用いられる真空管は左右に分れ、片チャンネルで2本の真空管を使用し合計で4本の真空管を使用していた。

 280Rは、増幅部は280と同じだが、電源部のトランスが左右に独立しボリュームも左右に独立した。ボリュームは増幅部の近くに設置され、これをモーターで回す。一般的なボリュームでは左右の音量差(ギャングエラー)やクロストーク(左右の音漏れ)がどうしてもあるが、左右独立にすることによりそれらを極力低減している。

 信号経路は後面からボリュームを通って増幅部に入り、前面パネルを経由することなく後面から出力される。前面のパネルにあるボリュームノブやセレクターは内部のボリュームを回すモーターを操作しているだけなのである。セレクターも後面近くのセレクターを操作するためのスイッチになっている。これにより信号経路が短絡され従来の1/7になったという。

 

 12の前は国産高級メーカーのアンプを使用していた。12はそれよりも音はよかった。その後も新しいアンプは出てきたが、特に買替えたいと思うような製品は出てこなかったのでそのまま30年に亘って使い続けてきた。

 

 280が出てきたときこれは今までのウエスギアンプとは内部がかなり変わったと感じた。そして3年前に自宅で試聴する機会をいただいた。その時の印象では、左右の分離が良くなり高域と低域の透明感が増したという感じだった。CDを聴くときも280には12にはないバランス入力があるので音には有利だった。借りた280を返して12に戻すと12は真ん中に音像が寄っている感じがした。

 それからしばらくしてオーディオショウでメーカーの方に会ったときに上杉研究所50周年を記念して280の後継機を出すという話を聞いた。それは電源が左右に独立した製品だという。これはかなり期待ができるので後継機を待つことにした。昨年、10月末にホームページに280Rの概要が発表され、それがようやく4月中旬に届きじっくりと聴けるようになった。

 ここでもう一度3台のプリアンプの概要を整理しておく。

○U・BROS-12

・左右の信号は1本の真空管で増幅。

・左右の信号に対して電源トランスは1つ

・左右の信号を1つのボリュームで操作。

・信号経路は後面から増幅部を通り前面パネルのボリューム、バランスコントロールセレクターなどを通り後面から出力。

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U・BROS-12の内部


○U・BROS-280

・左右の信号はチャンネル毎に2本の真空管で増幅。

・左右の信号に対して電源トランスは1つ

・左右の信号を1つのボリュームで操作。

・信号経路は後面から増幅部を通り前面パネルのボリューム、バランスコントロールセレクターなどを通り後面から出力。

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U・BROS-280の内部


○U・BROS-280R

・左右の信号はチャンネル毎に2本の真空管で増幅。

・左右の信号にチャンネル毎に2個の電源トランスで電源を供給。

・左右の信号をチャンネル毎に2個のボリュームで操作。

・信号経路は後面から増幅部を通り、増幅部近くのボリュームとセレクターを通り後面から出力。バランスコントロールボリュームは廃止。(バランスコントロールは左右のボリュームで調整)

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U・BROS-280Rの内部


となる。

 12と280を比較すると12が中央寄りに音像が集まり、音場が狭くなるのに対して280は左右の分離がよくなり高域低域の分離もはっきりとしている。またピアノや打楽器などの瞬発的な大きな音、あるいはソプラノの高域や合唱など持続的で共鳴するような音が入力されたときに歪みというか歪み気味になることがあったが280ではなくなった。増幅部が左右に分離されたことにより入力に余裕ができたためだろうか。レコード再生で歪みがあったときはとかくトーンアームやレコードプレーヤーのセッティングの調整が上手くいっていないのではないかと考えがちだったが、280を試聴したときプリアンプの入力に余裕があると歪みがなくなることもあると知った。

 280Rが届いてセッティングして聴いてみると12だけではなく280とも大きく音が変わっていた。280も左右にはっきりと分離していたが、それはスピーカーの間に大きな平面のキャンパスがあってそこにそれぞれ音像が定位しているという感じだった。それが280Rでは左右だけではなく前後にも音像が定位しスピーカーの間に奥行きがあるステージが出現したかのようだった。弦楽器の少し後ろに木管楽器、その後ろに打楽器、金管楽器が定位する。協奏曲などのソロ楽器は弦楽器の前に定位する。しかもそれぞれの音像に立体感があり、分離しながらもそれぞれの奏者が一体となって音楽を形作っている様がよくわかる感じになった。音が大きくなっても後方の楽器がかき消されることがない。

また大きな音が入力されたときの余裕度も280よりさらに良くなっている。音のバランスも普通で自然になった。280は少し高域が強い感じがあったがそれも全くない。

 

 もう一つ特記しておきたいことは、CDの音がとても良くなった。バランス接続ができるようになったので少しは良くなるだろうと思っていたが、予想以上だった。

今までカートリッジ、トーンアーム、フォノイコライザーアンプと次々グレードアップしてきてレコードとCDの音質差がかなり大きくなっていた。CDプレーヤーもそのうちグレードアップしなくてはらないかなと考えていたが、しばらくその必要もなさそうだ。280を借りたときもCDプレーヤーとバランスケーブルで接続して聴いたが、ここまで良くなることはなかった。バランス接続だけではなく電源部やボリュームの分離がCDの音質向上に大きく寄与したのだろう。

 12のままでソフトのことをブログに書いていたら全部書き直さなくてはならなかったかもしれない。これからは少しずつソフトのこともブログに書いていきたいと思っている。